スーパースワンD-101S (その3) - FE108SS-HPへのユニット交換 2022年2月

       □スーパースワン関係の他の記事 スーパースワンD-101S(MG100HR-S版)の製作 2009年夏記事 スーパースワンD-101S(その2) FE108-solへのユニット交換 2015年12月記事 ■新たな限定版ユニット FE108SS-HP  フォステクスから、10㎝径バックロードホーン用スピーカーユニットの新たな数量限定販売モデル、FE108SS-HPが発表された(2021年12月)。  特色は超強力な磁気回路である。現在わが家のスーパースワンで使っているFE108-Solのマグネットがφ100×15mmで十分強力だが、それを2枚重ねしたφ100×30mmだ。過去の10㎝径限定版ユニットではFE108ESⅡがφ100×20mmで最強だったが、それを上回る。ただ、FE108ESⅡのマグネットはランタン・コバルト系フェライトを使った磁気エネルギー強化版だったから、本当の最強がどちらなのかわからないが。  6年前にFE108-Solに交換して特段の不満は無いのだが、ちょっと興味がそそられた。         主な特性を、FE108-Sol(私の現用機種)、FE108ESⅡ(これまでの最強磁気回路機種)、FE108Super(スーパースワン設計の前提となったオリジナル機種)と比較すると次のとおり。FE108ESⅡ、FE108Superは使用経験が無い。

FE108SS-HP FE108-Sol  FE108ESⅡ  FE108Super
実効質量mo 3.2g 2.9g 2.7g 2.7g
Qo 0.39 0.34 0.23 0.25
fo 81Hz 70Hz 75Hz 80Hz
再生周波数帯域 fo~28kHz fo~35kHz fo~20kHz fo~18kHz
出力音圧レベル 88dB/W 90dB/W 91dB/W 93dB/W
マグネットサイズ φ100×30 φ100×15 φ100×20 φ100×15
発売年 2022年 2015年 2001年 1992年

 並べて比較すると、FE108SS-HPは、その強力な磁気回路からすればFE108ESⅡ並みのQo=0.23、91dB/W程度の数値になって良さそうなのに、Qo=0.39と4機種中最も高く、出力音圧レベル=88dB/Wと能率は最も低い。実効質量moが3.2gと重めだが、それにしても・・・。特にQoは、FE108-Solへの交換時もQo=0.34と大きいことを心配したが、それ以上の0.39だ。バックロードホーンとしてはぎりぎり、バスレフで使えそうな特性であり、懸念材料だ。  一方で、ここには掲げていないが、周波数特性のグラフは200Hzから20kHzまでが5dBの幅に大体おさまっており、見事にフラットだ。  FE108SS-HPは、剛力でありながらジェントルという特異な性格のスピーカーユニットだ。バックロードホーンで使うにしても、スーパースワンに適合せず、専用設計のエンクロージャーでないと駄目なのではないか? かつて、FE108ESⅡに対しては、サイズを5%大きくしたスーパースワン105%という製作記事が出ていた。今回も、強力な磁気回路とQo=0.39に合わせて一回り大きくすべきではないか? 少なくとも、空気室容積の拡大とスロート断面積の縮小が必要ではないか?  しかし、スーパースワンを作った時の木工工作は、何とも手間がかかって大変だった。それを廃棄して、別物をまた作るというのは御免こうむりたい。そもそも高齢者の聴力低下で10kHzが聴こえなくなった身であり、オーディオ趣味も卒業の頃合いなのだ。  FE108SS-HPは面白そうだが、やはり見送って今のスーパースワン+FE108-Solの組み合わせを使い続けよう、と九割方考えていた。が、試聴する機会を得て心変わりした。 ■エクスペリエンス社での試聴  FE108SS-HPについての情報をインターネット上で検索する中、「エクスペリエンス・スピーカー・ファクトリー」のサイトに行き当たった。エクスペリエンス社は、単なるオーディオ機器販売店ではなく、代表の荒谷氏がフォステクス社の出身で、スピーカーの設計・製作、音響コンサルティングを業務としている。まさにフォステクス・ユニットを使ったスピーカーづくりのスペシャリストだ。メーカーのフォステクスのサイトでも、スピーカークラフトの公認アドバイザーとして紹介されている。  このエクスペリエンス社で、FE108SS-HPの個別での試聴ができるという。これ幸いと申し込み、1月半ばに川崎市多摩区の同社を訪れて試聴することができた。  試聴のFE108SS-HPは、意外にもスーパースワンに取り付けられていた。しかも、わが家と同様、オリジナル設計のままで改造・調整はしていないとのこと。専用設計のバックロードホーン、あるいは何らかの改造を施したスーパースワンでの試聴と予想していたが外れた。  持参したクラシック系CD(バリトン歌曲、ヴィオラ・ソナタ、合唱+管弦楽、吹奏楽)で試聴したが、良い音だった。強力磁気回路で、音がどんどん前に出てくるだろうと予想していた。確かに充実して元気であり、引っ込んだような音ではないが、聴き疲れする元気過ぎではない。また、スーパースワンとの組み合わせによる低域のふくらみ、だぶつきの可能性を考えたが、過度なふくらみは無い。気になるような癖が無く、バランスのとれた音なので、オーディオ的に音を気にするのでなく、音楽を聴くことに没頭できる。わずかにピアノのフォルテ(強音)の打撃音で耳にきつく感じることがあったが、全体には適度に鮮やかさと柔らかさが両立している。わが家のFE108-Sol+スーパースワンより、音が充実して余裕がある印象だ。もっとも、わが家よりずっと大音量だし、機器や部屋の音響的環境も立派なので比較にならないが。  いずれにしても、スーパースワン+FE108SS-HPからは、満足できる良い音が出ていた。  ありがたいことに、試聴の合間、荒谷氏が丁寧にアドバイスしてくれた。まず、FE108SS-HPの特徴について。 ●能率、Q0といった特性は、マグネットの強弱だけではなく、コーン、エッジ、ダンパー、ボイスコイル等の要素が関係する。最近のフォステクス社のバックロードホーン用限定ユニットは、かつての高能率、低Q0重視から、リニアリティ重視の設計に変わってきている。 ●FE108SS-HPは強力な磁気回路で駆動力が高い。Q0が高いからバックロードに不向きということは全く無い。強力な力を、いわば動かすより止めることに使っている。 ●長岡鉄男氏が推奨した音源ソフトで、生々しい鮮烈なサウンドを聴くなら別だが、多くの人には、総合的な音響特性を実現した現在の設計が合うのではないか。  また、スーパースワンとの相性について、次のように助言してくれた。 ●FE108SS-HPはスーパースワンに適合する。新たに別のエンクロージャーを作らなくても大丈夫。取扱説明書掲載のCW型バックロードホーンは、広いバッフル面積、ホーンの広がりかた、前面開口、などによりスワン型とはまた別の音になる。 ●空気室容積はスーパースワンのオリジナル設計で問題ない。スロート断面積は狭めることでクロスオーバー周波数が変わる。戻せるようにして試したら良い。(スロートに装着・取り外しできる6×20×1.5cmほどの調整用板を見せてくれた。)  FE108SS-HPの取扱説明書掲載のCW型設計例を確認すると、空気室容積がスーパースワンとほぼ同じで、スロート断面積はむしろ少し広い。  長岡氏の著書のバックロードホーンの設計法を改めて読むと、スロート断面積や空気室容積の算出式が示されているが、あくまで経験則から導いた目安だ、といった断り書きがある。バックロードホーンは、思った以上に算出式からの許容幅があるようだ。あまり神経質にならなくても良さそうである。  現物の試聴と荒谷氏の説明により、スーパースワンでそのまま使えることがよく納得でき、急転直下、FE108SS-HP導入を決めて予約購入した。 ■わが家のスーパースワンへの取り付け  2月下旬にFE108SS-HPが到着した。これまでのFE108-Solが生成り色の振動板でシンプルだったのに比べると、グレーで複雑な凹凸の外観で、美的には今一つだ。機能のための合理的なデザインで、そのうち慣れるだろうけれど。  さっそくFE108-Solを取り外して交換した。  スロート断面積を狭める調整は、必要と感じたら行うこととし今は棚上げ。  エンクロージャー側の丸穴と配線部用切り欠きは、初代のMG100HR-Sと同寸なので、いじらずそのままでOK。  ユニットは、付属のパッキンを介してステンレスM4ねじ4本で固定。ユニットのねじ穴は8本分だが、ねじ4本でしっかりと締まるし、鬼目ナットを4個追加するのも一作業だ。これは、エクスペリエンス社の試聴したスーパースワンがその形だったので、安心して真似ることにした。  内部配線は、付属品のケーブル(外径のわりに導体が太めで1.5sqか。使いやすく良さそうな品だ)をユニットにはんだ付けし(ファストン端子接続では心もとない)、ヘッド背後から直かに出した(接続ターミナルは不使用)。  直に外に出した付属品ケーブルは、自作スピーカーケーブル(オヤイデの平行ケーブルEXPLORER V2を+-それぞれ2組並列したもの、つまりEXPLORER V2の断面積4倍版)に圧着スリーブで接続(圧着し、さらにはんだを流し込み)した。なお、音質向上を期して、リング状ノイズフィルター、中村製作所「アモルメット・コア」NS-115及びNST-105に通して接続している。  取り付け直後から嫌な音を出さず、癖の無い音質だ。悪くない。大いに期待できる。  スピーカーは初めのうちは生硬な音がするものであり、数十時間の鳴らしこみ(エージング)をすることで本来持つ音質になるのが普通だ。スーパースワン・エンクロージャーは10年以上使ってきたので十分エージングされているが、新品のFE108SS-HPユニットはエージングが必要なはずだ。ところが、初めから結構しなやかな音が出ている。鳴らしこめばさらに良くなるだろう。思えば前回のFE108-Solへの交換も同様だった。エージングに関するフォステクスのユニットの特徴なのかもしれない。  音質については、エージング後に改めて追記する。 ■吸音材による調整(追記)  3週間のエージングをして(といっても実働時間は50時間足らずだが)、音の変化も落ち着いたので、吸音材のテストをした。  わが家のスーパースワンは、長岡鉄男氏の設計にほぼ忠実に従って2009年に作った。吸音材についても設計どおりだ。 ①ネック下の音道底部分  設計の指定のとおり吸音材を入れた。ただ、設計では5mm厚ぐらいのフェルトとされているが、5mm厚シンサレート吸音材で代用した。 ②ヘッド空気室  吸音材を入れなかった。これも設計どおりのつもりだったが、後述のとおり長岡氏の記述を見落としていた。 ③リア開口部  設計に吸音材を入れる指示が無かったので入れなかった。その後、FE108-Solにユニット交換した2016年時点で、低域がやや過剰と感じたため、対策として、③リア開口部をほぼ塞ぐ形で、シンサレート吸音材10mm厚を大きめに巻いて丸めたものを置いた。  その後は、吸音材のことをすっかり忘れてそのまま使い続けてきた。今回、FE108SS-HPに替え、良い機会なので吸音材の見直しを行うことにした。  エクスペリエンス社サイトに「FE108SS-HP をスーパースワンで使う」という記事Part 1~3が掲載された。空気室とリア開口部の吸音材が実験されていて興味深く読んだ。しかしながら、設計者の長岡氏が吸音材はなるべく使わない、使う場合も少なめ、という考えだったと思うので、スーパースワンの音質調整に吸音材を使うことに少々違和感があった。  確認の意味で、改めて長岡氏の著書のスーパースワンについての章を読み返してみた。①ネック下は吸音材の指示あり、③リア開口部は指示無しで、これらは上記のとおり。  ところが何と、②ヘッド空気室については、吸音材を入れるよう書かれていた。「(スワンaと比較して)主な変更は、まずヘッドの構造、従来は内容積1.7lだったが、スーパーでは補強なしで2.2l、補強が入って1.9lになる。裏板には吸音材を張る。」この最後の「裏板には・・・」の一言だ。吸音材の材質、量についての指示は無いが、「張る」というくらいだから、裏板と同じくらいの大きさで薄いものだろう。それにしても、気づくのが遅過ぎ。  長岡氏は多分柔軟に考えていて、エンクロージャーの材質、エージングの進行状況により違うので、ユーザーが自分で好みに合わせて調整すべし、というくらいのことだと思う。かつての長岡氏の設計記事によくあったが、「エージングが進んだら取り除く」という考えだったのかもしれない。やはり、自分自身で答を見つけるよりない。  エクスペリエンス社の記事の手順にしたがって、まず一度、②ヘッド空気室と③リア開口部ともに吸音材ゼロの状態にする。①ネック下については、エンクロージャーを壊さないと取り出せないので、シンサレート吸音材5mm厚のままいじらない。ここを原点にして、②ヘッド空気室、③リア開口部にそれぞれ数種類の吸音材を入れて比較試聴し、最も良いものを採用することにした。  詳細は省くが、②ヘッド空気室の吸音材は、材質によって思った以上に音質の変化がある。吸音により音が一部失われておとなしくなる方向と想像していて、確かにそうなる場合もあるが、逆に高域がキンキンした音になるなど強調される場合もある。リア開口部の方は、これまでのような開口部を塞ぐ量の吸音材では影響が大きいが、薄い吸音材を底板に貼る程度では影響は小さく、音質の変化は少ない。  結論としては次の吸音材を採用することにした。エクスペリエンス社記事を真似る形になった。心理的に影響を受けたかも。 ②ヘッド空気室 ウール(DAISO「羊毛フェルト」 羊毛100%の綿状繊維) ③リア開口部 ドミット芯(DAISO「キルト芯 ドミットタイプ」 ポリエステル5㎜厚)を片側だけ  実のところ、②、③とも吸音材無しの状態で既にほぼ満足できる音だった。上記②、③の吸音材は少なめに使って、効果も小さめ。吸音材無しとの比較で、どちらかといえば入れた方が良いかな、という程度の違いだ。私は小音量派なので、この試聴はいつも以上の音量で聴いたが、それでもその程度の違いだ。結論の吸音材を入れておくが、私の普段の小音量ならば吸音材ゼロでも良いのかもしれない。 ■スーパースワン+FE108SS-HPの音質(追記)  吸音材の見直しも済んだので、改めて様々な音源を聴いて音質の客観的評価を試みた。結論から言えば、大変良い音である。  まず、良い音の「必要条件」を満たしている。 一聴してわかるような癖や弱点がない。うるさい音・きつい音・いやな感じの音が出ていない。高域・中域・低域の強調が無くバランスがとれている。エネルギー感・充実感がある。鮮やかさ・生々しさがある。打撃音の立ち上がり・立下りが良い。荒っぽくなく緻密さ・繊細さがある。各楽器の音色がそれらしく聴こえる。細かい音も出て情報量が多い。各楽器の分離感がある。総じて自然な音という感じがする。無論、音場の再生が得意なスーパースワンなので、音源によってはスピーカーの外まで上下左右に音が広がる。  スーパースワン+FE108SS-HPは、満点ではないにしてもそれに近い合格点だ。元来10cmフルレンジであり、よくできたマルチウェイの大型スピーカーに比べれば、再生帯域やスケール感、エネルギー等の点でかなわないのは当然だ。しかし、そのへんの市販マルチウェイスピーカーにそうそう劣らない水準と思う。オーケストラ・吹奏楽・ジャズなど大エネルギーの音楽ジャンルでも力不足は感じない。  オルガンの低音も41.2Hzのミはまあ何とか、32.7Hzのドはかすかに聴こえる。手持ちの音源の中で唯一再生できなかったのは、エンヤの「Watermark」に入っているズシーンとくる重低音だ(たぶんシンセサイザーで作った、20~30Hzの低音)。また、チェリビダッケ指揮の交響曲ライブ録音の拍手がこもった感じになる(拍手は再生装置の違いがわかりやすい)。よくできたヘッドフォン(ULTRASONE Edition9)と比較しての話で、このあたりは限界でやむを得ないところだ。サブウーファー、スーパーツイーターを追加して超低域、超高域を伸ばせば改善するかもしれないが、位相特性など別の問題が面倒だ。そうまでして再生帯域を伸ばしたくなる不足感はない。  良い音の「必要条件」を満たすが、これはいわばモニター調の高音質だ。スーパースワン+FE108SS-HPは、これに加えて良い音の「十分条件」も満たしている。次のように評価できる。 聴いていて心地よい。しみじみと心に沁みる。快い。いつまでも聴いていたい。音に深み・こく・うるおい・まろやかさ・しなやかさがある。上等の楽器に代わったような良い音色。表情・ニュアンスが豊か。演奏がより音楽的。  いわゆる好音質の良い音だ。わが家のスーパースワンにはこれまでMG100HR-S、FE108-solを取り付けて聴いてきた。悪くない音だったが、FE108SS-HPは2機種を超えて最も良い音、快い音に聴こえる。  必要条件(高音質)はFE108SS-HPユニットのおかげだが、十分条件(好音質)はアモルメット・コアが大きく貢献しているのではないだろうか。これまでスーパースワンに付けていなかったが、今回のユニットの交換の際、スピーカーケーブルにアモルメット・コア NS-115とNST-105を付けた。  アモルメット・コアは、アモルファスの薄テープを巻いてリング状に仕上げたものだ。+-のケーブルを一緒に通すことで高周波ノイズを強力に減衰させ音質改善効果があるという。が、好音質にまでなるのはどうしてか、よくわからない。これまで、ヘッドフォンのケーブル、電源関係、LANケーブルなどで試したが、特にアナログ信号系で大きな音質変化があり、それも良い方向への変化だ。副作用は特に無いようだ。かつて、三極管シングル無帰還アンプの優位性として、歪率は高いが成分の多くが偶数次高調波歪なので耳に快い、という議論があったが、これに通じるのだろうか。  この変化が、本来の音を引き出しているのか、それとも化粧を加えているのか、そこがわからない。アモルメット・コアについてのネット上の情報でも、まず音質変化が意外に大きいことに驚く声が多い。音質について肯定的な評価が大多数だが、一部に否定的・懐疑的意見がある。本物の高音質・好音質なのかよくわからず、腑に落ちないためだろう。私も腑に落ちていないのだが、心地よく聴こえるというのは良いと思っている。        ■長岡鉄男氏の音、スーパースワン+FE108SS-HPの音(追記)  私は、FE108SuperやFE108ESⅡを付けたスーパースワンの音を聴いた経験が無い。きっとわが家のFE108SS-HP版スーパースワンとは音が違うだろう。FE108Super版との比較で言えば、FE108SS-HP版は「らしくない」音かもしれない。しかし、原点の長岡鉄男氏に戻って考えれば、そう狭く決めつけなくても良いのではないか。  長岡氏が音質評価に使った形容詞として、ハイスピード、ダイナミック、エネルギー、生々しい、音の鮮度、などがあった。いわゆる「長岡サウンド」のイメージだ。しかしその一方で長岡氏は、ナチュラルで美しい音、高品位、繊細などの形容もよく使っていた。長岡氏のオーディオを実際に聴いてはいないが、二つの方向が相反するのではなく、高い水準で両立していたと想像する。周波数レンジがフラットで広大、ダイナミックレンジが広大、歪が極小、トランジェント特性が優秀であれば、両立するだろう。さらに、そうした高忠実度再生とともに、音場再生(こちらは位相特性や残響など微細な音の再生が問題になる)を意識したのが長岡氏だった。  長岡氏は、全てを満たす理想、万能のスピーカー、これ一つあればというものは実現不可能、という前提の上に立って、だからこそ逆に特徴ある多種多様の自作スピーカーを設計したのだろう。その中でスーパースワンは、音場再生の面で抜群、高忠実度再生もそこそこ行ける、という意味での傑作スピーカーだった。決して万能の傑作スピーカーということではない。  長岡氏のメインシステムは、ネッシーⅢ+ホーンツィーター、サブウーファーで、これは高忠実度再生を追求したものだったのだろう。スーパースワンは、オーディオ機器の差異をよく出すとしてテスト用のサブシステムとして使われたという。メインにせよサブにせよ、長岡氏はかなりの大音量で聴いていたようだ。その一方で、書斎で原稿を書く際には、好んで小さいスピーカーの聴き疲れしない音で、BGM的に音楽を流していたという。これはもう、メインシステムのピュア・オーディオとは別方向の聴き方だったのだろう。  私は私で、音をとことん追求するピュア・オーディオ志向ではなく、そこそこの音でクラシックを中心とする音楽を楽しみたいという方向性だ。その「そこそこ」がまた簡単でないのだが。実際のところは小音量でなかば聞き流すようにしており、長岡氏の書斎の小スピーカーに近い聴き方だ。FE108SS-HP版スーパースワンが長岡サウンド「らしい」か「らしくない」か、私はこだわる必要が無い。  FE108SS-HPは、期待以上の高いポテンシャルを持っていた。スーパースワンとの相性を心配したが問題は無く、むしろ高音質であるだけでなく聴いて快い好音質のスピーカーになった。今後、自ずと音楽を聴く時間が増すだろう。人生の喜びが増すことになるわけで、スーパースワンとFE108SS-HP(とアモルメット・コア)には感謝だ。  その後、実際に以前よりも音楽を聴くことが増え、ついにはUSB-DACのグレードアップをしてしまった。オーディオ趣味卒業と思っていたが、もうしばらく楽しむことができそうだ。 (参考)わが家の機器(2022年4月現在)  PCオーディオシステム:   UPnPレンダラー:Linuxディストリビューション lightMPD/upnpgw    UPnPアダプター:PC Engines APU.2C4 (lightMPDx86_64-upnpgw-20210619)    UPnPプレイヤー:MINISFORUM GK50 (lightMPDx86_64-upnpgw-20210619)   メディアサーバー:DELA N100 (Twonky Server)   コントロールポイント:Androidタブレット (fidata Music App)   USB-DAC・ヘッドフォンアンプ:TEAC UD-701N (2022年4月 Oppo HA-1から変更)  プリメインアンプ:SONY TA-A1ES  スピーカー:スーパースワン D-101S + フォステクスFE108SS-HP  ヘッドフォン:ULTRASONE Edition9(バランス接続に改造)         Sennheiser HD-650(同上)         Fostex T60RP(同上)