スーパースワンD-101S(その1) - MG100HR-S版 2009年夏

□スーパースワン関係の他の記事 スーパースワンD-101S(その2)ーFE108-Sol版 2015年12月記事 スーパースワンD-101S(その3)ーFE108SS-HP版 2022年2月記事 ■スーパースワン D-101Sとは  2009年夏に、オーディオ評論家 故長岡鉄男氏設計の「スーパースワン D-101S」を工作した。これはバックロードホーン方式のスピーカーで、独特の形状からスワンと名づけられている。白鳥の頭は小型箱のスピーカーユニット、胴体は折りたたまれたホーンである。小型箱の音場再生とバックロードホーンの音を融合させることに成功したユニークで合理的な設計だ。  長岡鉄男氏(1926-2000)は、スピーカー自作派にはよく知られ、その設計アイディアはいまだ頼りにされている。オーディオ製品の評論についてもそうだったが、情緒的、神秘的要素を排して理詰めでありつつ、柔軟な考え方をする人だった。     ■製作まで  長岡氏設計のスピーカーについては、30年前に20cm一発のCW型(コンスタント・ワイズ)バックロードホーン Dー3MKⅡ(フォステクスFE203Σ、コーラルH104 スーパーツィータ)を製作し、10年ほど使った。低域は出にくくやや乾いた音だったが、高能率で小音量でも細かな音が軽々と出て、市販スピーカーに無い良さを持つスピーカーだった。  子どもが小さい時期は音楽を聴くことが減り、スピーカーの大きさが邪魔になって処分した。その後は、ヘッドフォン派になった。その間、10cmユニットを使ったユニークな設計の「スワン」が発表され、その発展形も次々とできて、大いに興味があったが遠くから見ていた。  2009年2月、パシフィコ横浜で開かれたAVフェアをたまたま覗いたら、フォステクス社のブースで、スーパースワンにマグネシウム振動板の新製品10cmユニットMG100HR-Sが取り付けられて鳴っていた。  束の間聴いて、その時は「特段の癖や特徴は無く、周波数レンジもさほど広くない感じで、わりと普通の音だな」と特に印象を受けずにいた。その後、雑誌で、炭山アキラ氏がこのユニットを使ったCW型バックロードを発表し、音を相当褒めていたのを読んで、30年ぶりの自作に取り組む気持ちになり、ユニットを購入した。  ユニットは、内部損失が大きいマグネシウムを特殊な形状に成型し、鳴きや分割共振を抑えているのが特徴だ。ユニットの周波数特性は何と高域55kHzまでという。グラフを見ると確かに伸びていて、30kはゆうにカバーしている。ただ、5kから20kにかけて5dBくらいのへこみがある。バックロード向け設計だが、Qoは0.27でそう低くはない。また、バックロード用10cmとしては、実効質量moが5.4gと重く、能率も86.5dB/w(1m)と低めだ。マグネットがもっと強力でも良かったのではないか、この点でFE108Super、FE108ESの後継とは言えない、というのが、ネット上の風評である。  このユニット用のエンクロージャーだが、メーカーのフォステクスは「D-101Sスーパースワンを推奨」と明記している。AVフェアでもそれで鳴らしていたし、スーパースワンへの装着を前提に開発したようだ。  ただ、スーパースワンは、1992年当時限定発売されたFE108Superを使う前提で、その強力な磁気回路、オーバーダンピングの特性を最大限に活かすよう設計されたエンクロージャーだ。オリジナルとは異なる特徴を持つMG100HR-Sとの相性は本当のところどうなのか。  一方、このユニット用の新たなCW型バックロードホーンの設計も、コンパクトさの順に炭山アキラ氏、浅生 昉氏、フォステクスの自社設計の3種類が発表されている。  さてどれにするか。ネット上の評判では、周波数レンジのフラットさでは炭山CW、点音源再生ではスーパースワンの評判が高い。結局、スワン型へのかねてよりの興味から、スーパースワンを採用することにした。 ■製作  長岡鉄男氏のオリジナル設計をなるべく忠実に守ることを基本にした。  板材は、横浜市内、京急線黄金町駅に近い米屋材木店で、シナアピトン積層合板15mm 厚 3尺×6尺 2枚、3尺×3尺 1枚、カット加工費込みで5万円強。  オリジナルの長岡スーパースワンはシナ合板だった。シナ合板は芯材がベニヤまたはシナであり、シナアピトン合板は芯材がより硬く重いアピトンであるぶんグレードアップになっている、と期待する。  この店には、バーチ合板、ブナ合板もあった。さらに重く硬質なので、高域の響きが美しいかもしれない。迷ったが、シナアピトン合板は、硬いアピトンと柔らかいシナの組み合わせで適度な内部損失の可能性がある、と考えこちらに賭けることにした。  米屋材木店の良いのは、オーダーで一般DIY店に比べはるかに丁寧なカットをしてくれること。ルーター加工も可能。店主の自作スピーカーが店頭で鳴っており、長岡スピーカーにちゃんと理解がある。スピーカー向き合板が何種類もあることも含め、スピーカー自作者にとって、他にはない強い味方の店だ。  6月下旬にカットができ、納品された。  長岡設計との違いは、前面の化粧板の幅を広げ、前板を二重にして補強を兼ねたこと。オリジナルの板幅で、ルーター加工で3mm幅の溝を掘り、デザイン上のアクセントをつけた。ほかは、ネックの付け根の補強板について、木口を正面から側面に変え、見た目を変更したことくらい。  それ以外は、全てオリジナル設計どおりとした。ヘッド部の面取り、音道の曲がり角にあたる木口の面取りまで、気は心ということで、忠実にオリジナルに従った。  組み立てには、長岡スピーカーの三次元見取図を掲載している「T'z Audio Crafts」のウェブサイトが大変参考になり感謝している。2×4材とM8長尺ボルトを使った自作の固定締め具と仮釘止め、木工用ボンドと部分的にエポキシ接着剤で組み立てた。作業は土日ごとに、急がずゆっくり段階的に行い、結果として接着剤をしっかり乾かしながら進めることになった。  直角を出し、隙間を作らないことには注意した。米屋材木店の正確なカットに大いに助けられた。しかし、接着剤をたっぷり塗って締め具を締めるとわずかずつずれることは避けられない。下の写真でもずれているのがわかる。かんなやペーパーで調整し、エポキシ接着剤や木工用パテで念には念を入れた。      塗装は、ペーパーがけの下地作りのあと、薄く希釈した透明ウレタンニスを布で拭き塗り・ペーパー研磨を2、3回繰り返し、最後につや消しウレタンニスの刷毛塗り・ペーパー研磨で仕上げた。  つや消しウレタンニスは、全くのつや消しではなく半つやで上品に仕上がり、かつ、むらが目立たない。素人には最適の塗装だと思う。  吸音材は、長岡氏の設計では、音道の底板部分に5~10mm厚のフェルトなどを貼る、としている。フェルトは、吸湿性があり、経年変化で虫食いなどの劣化もあるので、コイズミで購入したシンサレート吸音材10mm厚を、吸音特性が大きいので厚さを半分にして貼った。  ユニットは、背後のマグネットに、コイズミで購入した純鉛 φ68×20mm 0.8kgの円板を接着した。これは、長岡氏のスワンaの設計で推奨し、スーパースワンでは参考として記述している方法。エンクロージャーへの取り付けは、鬼目ナットM4を下穴にエポキシ接着固定し、パッキンは省いて、しっかりとりつけた。  エンクロージャー内の配線材は、オヤイデのEXPLORER 2.0 を採用。2.0スクエア。ターミナルは使わず、30cmほど直接引き出して、スピーカーケーブルに圧着スリーブで接続。  約1か月乾燥させてからユニットを取り付けて音出しし、さらに1か月後に胴体中央部のデッドスペースに、左右それぞれ、鉛チップ 8.5kgとジルコンサンド1.5kgを入れ、最終完成した。 ■音の評価(2009年末)  制作後、3か月が経ち、ユニットもエンクロージャーもエージングが進んだ。  ネット上での評判では、スーパースワンとこのユニットとの相性は、オリジナルであるFE108Superに比べ、高域がおとなしくなり低域が豊かで、クラシック向き、というものであった。ユニットの裸特性とスーパースワンによる低域増強により、そのような評価はうなづける。  私は、オリジナルユニットFE108Superや、その後継ユニットでのスーパースワンの音を知らないが、クラシック中心のリスニングなので、現在のマグネシウムユニットでの音はなかなか良いと思っている。  fレンジ、dレンジともそこそこ広い。低域は、40Hzまでは出ており、オーケストラも、ジャズのベースも不足なく、かつてのD3よりたっぷり出てバランス良い。高域は、素直だがおとなしい、といえばおとなしい。そこは使いこなし。スピーカーをリスニングポジションに向けて内側に振って置く、TEACのCDプレイヤのDACがフルエンシー型で高域が伸びてはいるがおとなしい似たタイプなので別のDACを使う、などの工夫をしている。ツィータ追加の必要は感じない。  全体に、ナチュラルで癖が無い。乾燥した音ではなく湿り気の多い音でもない。弦楽器、管楽器、ピアノ、それぞれそれらしい、自然な音色として聞こえる。  音はバックロードらしく、軽々と出ており、鈍重な音ではない。普通に良い音という感じだ。小口径フルレンジの単音源の良さで、音場は広い。ボーカルは音像が一点だし、録音によっては、スピーカーの外に音場が広がる。  なお、わかっている人には言うまでもないことだが、スーパースワンは音場の再生にかけては唯一無二の傑作スピーカーだが、あくまで10㎝フルレンジ一発であり、もともとワイドレンジ、超Hi-Fiのスピーカーではない。設計者の長岡氏も、FE108Superを付けたスーパースワンをアンプ等機器の差を明確に出すのでテスト用に使用し、メインスピーカーとして使っていたわけではない。  レンジが狭いと言っても私には十分で、ほとんどのソフトを聴く上で不満を感じることは無い。特に、このMG100HR-Sを取り付けたスーパースワンは、伸びた高域、豊かな低域で、悪くないと思っている。 ■その後  使用開始後2年ほどの時点で、MG100HR-Sの片側ユニットのエッジに剥離が生じたため、Fostexに送り修理してもらった。それ以外は問題なく、音にも不満無い。