12V3.5Aリニア電源の自作 - マルチ電源2号機への追加 2019年1月

  ■構想  先日NASを交代させ、新たに DELA N100を導入した。N100の電源は外部電源で、付属品として12V/4AのACアダプターが付いてきた。取扱説明書の製品仕様には、最大消費電力30Wとある(2.5Aとなる)。また、USB端子の最大供給電流 0.5Aとされている。計3Aだが、常時流れるのではなくピーク時の最大ということだろう。  ACアダプターはノイズの多いスイッチング電源なので避け、音質上有利とされるトランス式のリニア電源(直流定電圧安定化電源)に替えたい。  これまでのNASは、PCオーディオ用マルチ電源 2号機の12V/2A電源を使ってきたが、もう少し大電流、3A以上が望ましい。マルチ電源は、きちきちの大きさで作ってしまい、改造の余地が無いので、別筐体で12V/3.5Aの電源を作ることにした。 (参考) PCオーディオ用のマルチ電源 2号機の記事こちら  単純な直流12V電源だが、比較的大電流なので、どんな回路を用いるかが問題だ。また、なるべく手持ちの部品を使って作りたい。  ちなみに、市販のオーディオ機器用リニア電源は、(株)エーワイ電子の製品が唯一の存在で、好評のようだ。今回の工作と同等の機能のものは、「ELSOUND オーディオ機器高音質化アナログ電源 Improved DC12V3A」で、18,800円。材料費、人件費を考えればリーズナブルな値段と言える。  これを買えば良いとも思うが、あれこれ考えて自作するのがまた楽しいのだ。 ■部品の調達  どんな回路を用いるかと偉そうに書いたが、オームの法則より先の電気回路理論を知らない私である。電気工作はするが回路を設計できるわけではなく、他人様が作った基板で現在入手できる数種を、どれにしようか検討するのがせいぜいだ。 ①マルチ電源2号機で使った「お気楽オーディオキット」TYPE-L基板  大型のパワートランジスタ 東芝2CS5200を使い大電流の定電圧回路だが、電圧の安定化はしていない回路だ。デジタル系の機器に良いのか、わからない。基板のサイズが大きいのも使いにくい。 ②秋月電子通商の「実験室用 精密級/定電圧安定化電源キット Ver.3」基板  古典的なレギュレータIC「723」を使い、2個並列の2SC5200外付けで、何と最大電流10A! ③秋月電子通商の「大容量出力可変安定化電源キット」  電圧可変型三端子レギュレータLM338Tを使用して最大電流5A。出力電流がちょうど良く、回路もシンプルだが、問題は小型パッケージのLM338Tの放熱で、ファンによる強制空冷はしたくないし、中々難しそうだ。  結局、②を選択した。2SC5200は2個並列でなく1個だけで済みそうだ。  秋葉原での部品調達:計6,000円ほど。その後、基板付属部品の一部変更で、もう少々買い足した。  秋月電子通商基板キット(写真右の部品一式が含まれる) 1組  東栄変成器 電源トランス J165(AC16V/5A) 1個  オヤイデ電源用ケーブル PC-23 1.5m   手持ち部品:  シャシー(これまで2度使って穴だらけ。3度目の御奉公だ)    放熱器、コンデンサー、サーキットプロテクタ、スイッチ、パイロットランプなど。  写真以外に出力端子、ACプラグなども後で加えた。   ■秋月基板の一部変更、作成  秋月電子通商のサイトに掲載されている説明書(回路図を含む)こちら  この基板について、ネット上で情報収集したところ、そのまま組むのでは問題あるらしいことがわかった。 (参考にしたサイト)  このお二人は、トランジスタ回路の専門知識を持った方とお見受けする。感謝!  *A 「マルウェアなんでも雑談掲示板」     Taka氏のスレッド「秋月製精密級電源をガチで精密に仕上げてみた。」     http://ore-sama123.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=5841600  *B Dai Ishikawa氏の「アスナロネット」     記事「ソーラー発電の実験と製作」の12Vバッテリーを充電する回路     https://as76.net/emv/s_hatuden.php  また、12V/3.5Aという自分の目的に合わせた変更、念のためのオマジナイも含めて、以下の変更を加えた。 ①TR4(2SA1015) EとCの基板への接続を逆にする。   *A、*Bサイトの指摘 ②TR2(2SD2012)、TR5(2SC5200)E-B間にバイアス抵抗を入れる(それぞれ1kΩ、300Ω)。   *Aサイトの指摘 ③TR6(2SC5200)、R9・R10(各0.1Ω)取り付けない。   TR6はTR5に並列のパワートランジスタだが、目標とする出力電流が10Aよりはるかに低い3.5Aなので、パワーンジスタ1個で十分と判断。   したがって、バランス用抵抗R9、R10も不要になる。 ④R4(470Ω)、VR1(1kΩ)   制限電流を変更する、あるいは可変定電流電源として使う場合のためのR4、VR1だが、当方の目的が12V定電ため、使用しない。   723の2番ピンをR7・R8の片側にジャンパ線で短絡する。 ⑤R7・R8(各0.1Ω)各0.22Ω(より高品質であろう国産の5Wセメント抵抗)に変更する。   キット付属の0.1Ωの並列では制限電流約12Aとなり実効が無い。   0.22Ωの並列で約5A制限にする。 ⑥VR2(10kΩ)付属の汎用品から、より高品質なコパルRJ-6Pに変更。   耐久性、抵抗値変動性の向上を期待。 ⑦ブリッジダイオード(KBPC3510)付属の汎用品から変更。   秋月で販売するより高品質のSBRダイオードブリッジに変え、ノイズ低減を期待。    ・変更して出来上がった基板     ■仮組みしての動作チェック  基板にトランス等を仮接続し、動作をチェックした。  負荷(出力端子の抵抗器)を1kΩ~5Ωまで段階的に変えて、目的の12V出力を安定的に維持できるか確認した。  また、この基板が異常発振が発生しやすい、との評判がネット上で見られたので、併せて発振のチェックをした。オシロスコープを持っていないので、0.15μFを直列した小スピーカーを出力端子に接続し、音でチェック。  さらに、電源トランスの2次巻線に16V、15Vタップがあるので、どちらが適当か確認した。  結果は良好。負荷を変えることで、推定出力電流は0.012Aから2.4Aまで変化した形だが、いずれの負荷でも12Vを安定して出力した。異常発振は無く、パワートランジスタをはじめ回路全体、どこにも異常発熱は見受けられなかった。  10Ω負荷(1.2A)で10分間連続運転したが、テスターは12.00Vをぴたりと維持して変動が無かった。このくらいが、NASを実際に接続した時の通常の負荷だろう。  パワートランジスタをシングルにしたが、まだ余裕はありそうだ。負荷の抵抗器の発熱は凄まじい。これ以上の負荷となる低抵抗値・高定格電力の抵抗を持っていないので、実験はここまで。  私の12V固定出力の使用目的の場合は、この秋月基板で実用になりそうだ。  トランスのタップは、16V、15Vタップとも出力に問題は無かった。ダイオードブリッジ整流後のDC電圧は、16Vタップの場合で20.25V、15Vタップで18.75V。入出力差が大きい16Vタップの場合は、発熱がより大きいが、2.4A時でもパワートランジスタの放熱器が暖まる程度だ。15Vタップではほんのり暖まるだけ。入出力差は確保されている様子であり、15Vタップを採用することにした。 ■組み付け、完成  シャシーが穴だらけなので、紺色に塗装して誤魔化そうと考えた。が、アルミ板と相性の悪い水性塗料を使ってしまい、きれいに塗ることができなかった。あきらめて剥がし、アルミ素地のままで行くことにした。  シャシーの既存の穴を極力使って、部品、基板を組み付け、配線して完成した。部品数が少ないので、工作としてはごく簡単な部類である。 ■DELA N100の電源として稼働開始  新NAS DELA N100に接続して問題無く動作している。放熱器はほんのり暖まるだけだ。  12,000μFの大容量平滑コンデンサーを使用したので、突入電流によるトラブルを心配したが、サーキットプロテクタ―(5A)も働かず、これまでのところトラブルは一度も無い。  問題は音質への影響だ。N100付属のACアダプターからこのリニア電源に替えて、その効果や如何に?!  比較試聴した結果は、こちら の記事です。