PCオーディオ用5V・12Vマルチ電源 2号機 - 作り直し工作 2018年4月

   ■構想  PCオーディオに必要なDC5V・12V電源を1台でまかなうマルチ電源こちらの記事を作ったのは2015年3月だが、その後3年の間にPCオーディオの機器構成が変化し、必要な直流電源が違ってきた。そこで、作り直してマルチ電源2号機を工作した。  PCオーディオの現在の機器構成とそれに必要な電源は、次のとおり。   小型PC: PC Engines APU.2C4(UPnPgw側 赤ケース) DC12V   小型PC: PC Engines APU.2C4(Player側 黒ケース) DC12V   無線LAN子機: バッファロー WZR-1750HP2 DC12V   NAS: QNAP TS-119 DC12V   スイッチング・ハブ PLANEX FX-05Mini  DC5V   スイッチング・ハブ PLANEX FX-08Mini  DC5V  小型PC用12V 2系統は、音質上特に重要なので、ノイズを入れない、出さないクリーンなバッテリー電源方式にしたい。  そのほかの機器については、付属品のACアダプタを使わず、ノイズが少ないトランス式のリニア電源方式(アナログ電源)にする。ACアダプタは小型のスイッチング電源で、ノイズ面では芳しくなく、オーディオとしては音質への影響もあるとされている。  スイッチング・ハブ2台はカスケード接続しているものだが、2台とも電源は5V。消費電力が小さいので、電源1回路を分岐させれば済む。  まとめると、12Vバッテリー電源2系統、12Vリニア電源2系統、5Vリニア電源1系統の合計5系統という構成になる。  子細に言えば、以上のほかにもう1系統ある。   USB接続認識用: Player側APUとUSB DAC間のDC5V  このUSB用5Vは、USB DACの動作用電源ではなく、接続しようとする時に5Vを認識して接続を確立するものだ。これ無しには接続できないが、接続中は電流が流れない。接続確立後は5Vを切っても構わない。  接続確立のためだけの5Vだが、APUのバスパワー任せでは、ケーブル経由でノイズが伝わるせいか、やはり音質に影響する。以前の試聴では、やはりノイズが伝わらないバッテリーから供給する方が良かった。  マルチ電源に組み込むほどのことではないので、ニッケル水素充電池 単3×4本(5.2V)を電池ボックスに入れる簡単な工作をした。  信号ラインと5V電源ラインを分離した自作USBケーブルに接続する。スイッチ無しで常時点けっぱなしだが、電力消費がほとんど無いので、1回の充電で半年もつはず。    ■考え方  コンセプトというのも大げさだが、次のようなことを考えた。 ①スイッチ一つの使い勝手にするため、5系統をシンプルに1台の装置にまとめた5V/12Vマルチ電源にする。接続端子も、確実で、間違えにくく安全なものにする。  これは、結果として詰め込み過ぎになり、工作に苦労した。バッテリー電源の2系統、リニア電源の3系統で、二つのケースに分けた方が良かった。 ②バッテリー電源の2系統は鉛バッテリー2個を使い、その充電回路も装置に組み込む。3極双投形スイッチを使い、安全に使えるようにする。このあたりは、前作1号機を踏襲。 ③3系統のリニア電源で、特にNASと無線LAN子機の電源は、電源側でいきなりOffにするとまずいことになる。必要なOn、Offは機器側で行うほうが良い。スイッチングハブ用を含めて3系統は、電源スイッチを介さず常時通電とする。 ④1号機については、供給電力等の面でギリギリの使い方で、余裕が無かった。その反省で、余裕を持った回路、部品を選択する。放熱も十分考慮する。 ⑤1号機をバラして作り直し、電源トランスなど、使える部品は転用する。また、スイッチング電源など、手持ちの部品をなるべく使い、製作コストの無駄を抑える。 ■構成  PC用バッテリー電源は、秋葉原の秋月電子通商で購入した台湾Long製シールド型12V12Ah鉛蓄電池を使用。1号機で1個使っているので、もう1個を買い足し。  APU.2C4の仕様は、"12V DC, about 6 to 12W depending on CPU load"となっており、0.5A~1Aとなる。鉛蓄電池の12V 12Ahは、1Aなら12時間、12Aなら1時間供給する容量(実際にはそこまでもたないが)ということで、APUには十分以上だ。  充電回路基板も、これまで使ってきた秋月製「小型シール鉛蓄電池充電器キット」をもう1枚追加。電源用IC μA723を使った定電流/定電圧回路だ。逆流防止のダイオード追加は1号機と同様。1号機では設定電流0.7Aだったが、大電流のパワートランジスタ東芝2SC5200をダーリントン接続し、これを1.2Aに高める。  1.2Aは短時間の最大値ではなく、充電中の数十分~数時間持続する定電流だ。長時間の1.2Aはかなりの負荷になるので、放熱器は大きいものにした。充電状況をモニターできるよう、2個の電流計を正面パネルに取り付ける。  充電回路の電源は、ノイズに拘泥することもないので、手持ちのスイッチング電源、TDKラムダ製のHWS150-24A(DC24V/6.5A)を使用。これは、スイッチング電源の中では、ノイズ対策をきちんとした良質な部類だ。19.2V/8Aに出力を調整でき、充電回路2系統に給電して余力十分。  無線LAN子機用12Vは、バッファロー WZR-1750HP2の仕様を見ると最大消費電力18.2Wとあり、1.5Aになる。本体には12V-3.0A/4.0Aと書いてある。よくわからない記述だが、外部機器としてUSB-HDDを接続できるので、これへの電力供給も想定しているのか。いずれにせよ、周囲に電波を飛ばし続けて、コンスタントに1A近い大食らいなのかもしれない。  このため、電源トランスはマルチ電源1号機から流用して東栄変成器のJ165(AC16V/5A)を充てることにした。  定電圧回路は、「お気楽オーディオキット」サイトの基板頒布に大出力電流のTYPE-L基板があったので、これを購入した。ツエナーダイオードを基準電圧源とし、3段ダーリントン構成。最終段は、同じ東芝2SC5200が推奨されている。シャシーに直付けして放熱する。回路の性格から、12Vぴったりにならず、また安定化はされていないため負荷による電圧変動が多少ある。  出力は12V/約3.5Aとなり、十分なはずだ。  NAS用12Vは、TS-119の仕様を見ると稼働時13W、スリープ時5Wとあり、それぞれ1.1A、0.42Aだ。HDDの回転開始時は、瞬間的にさらに大電流が流れるだろうが。  電源トランスには、手持ちの東栄変成器のJ163(AC16V/3A)を使用。定電圧回路は、「お気楽オーディオキット」TYPE-L基板で、出力は12V/約2A。これで間に合うはず。  スイッチング・ハブ用5Vは、仕様上、消費電力Mini5:最大1.8W、Mini8:最大3Wとあり、それぞれ0.36A、0.6Aだ。二つ合わせて最大1A。  電源トランスには、やはり1号機で使用していた東栄変成器のJ803(AC8V/3A)を使用。定電圧回路は「お気楽オーディオキット」TYPE-L基板で、出力は5V/約2A。これもOK。  今回、リニア電源3系統は、シンプルな回路で興味を惹かれたため、この基板で揃えた。が、これに拘る必要は無い。大電流の定電圧安定化電源の基板としては、秋月電子通商が、電源用IC μA723を使い、2個並列の2SC5200外付けで最大電流10Aの「実験室用定電圧安定化電源キット」を出している。実は、今回使用した充電回路と同一の基板だ。また同じ秋月の、LM338を使用して最大5Aの「大容量出力可変安定化電源キット」もある。入手しやすく、基板サイズも少し小さい。適切な放熱器を使えば、性能的にも問題無いと思う。これらの方が工作しやすいだろう。  ケースは、1号機より二回りほど大きく、背が高い旧製品が安く入手できたので、これを使用。シャシー上に電源トランスとスイッチング電源を2階建て、さらに基板2枚を縦置き。シャシー下にも基板3枚とコンデンサー基板を2階建て。と、無理やり詰め込んだ。  接続図は、こんなふうだ。 ■工作  部品、基板の単純な接続だ。難しくないはずが、5系統の回路を詰め込んだため、思いのほか難しい工作になってしまった。私の工作技量からすれば、二つに分けて、バッテリー充電回路2系統、リニア電源3系統をそれぞれ別ケースに納めるのが妥当だった。  立体的に詰め込まざるを得ず、どうしても部品や配線が互いに干渉する。ゆっくりと急がず、レイアウトを何度も検討し、組み立ての手順を考えに考えた。そうしないと、例えば、取り付けねじを回せなくなり、組み上がらない事態になるのだ。まあ、頭の体操にはなりました。  それでも、最後にスイッチング電源をねじどめできず、三つのトランスの上に両面テープで接着した。  詰め込み過ぎは、放熱面でもよろしくなく、お恥ずかしい工作だ。        詰め込み過ぎのせいで、配線間違いも生じた。やり直したが、その作業中、12V/2A系統の出力端子でショートさせて、問題を拡大してしまった。AC100Vの接続は切っていたのだが、平滑コンデンサーを15,000μFと大きくしているので、溜まっていた電荷で火花が飛んだ。定電圧回路を壊してしまった。  回路のどこが壊れたのか? ツエナーダイオードを換えてダメ。3段あるパワートランジスタの前2段を換えて、ようやく直ってくれた。大型で最終段の2SC5200は無事だった。 ■完成  5系統それぞれ安定した動作をしており、問題点や不満は特にない。  TYPE-L基板の3系統は、安定化していない回路なので、負荷に応じて電圧の変動が少々ある。  機器に接続しての実測値は、無線LAN子機用は約11.5V、NAS用は約11.3V~11.6V(HDDの動きで変動)。目標の12Vより低めだが、-5%程度。給電される機器側も、それほど厳密であるはずはなく、問題無しだ。  スイッチングハブ用は実測約5.7V。目標の5Vより10%以上高く、ちょいと問題か。が、もはやツエナーを交換して是正するのも面倒。給電先のスイッチング・ハブ2個は支障なく動作しているようなので、自作の自己責任、OKとしよう。  発熱も想定範囲内で合格。実は、当初、12V/3.5A系を消費電力の変動が大きいと思われるNASに、12V/2A系を無線LAN子機に充当する考えだったが、それで行くと12V/2A系のパワートランジスタ、電源トランスが結構熱くなるので、給電先を交代させた。これによって40℃程度に下がり、問題無しだ。  鉛電池充電回路2系統は、充電中は定電流動作、満充電後は定電圧動作に移行するが、それぞれ1.2A、13.68V±0.15V(at 20℃)を目標に調整した。実測値は、A電池系統が1.2A、13.70V、B電池系統が1.2A、13.67V。合格だ。いずれ夏冬には±0.1Vくらい変動する。  充電中の発熱も、放熱器の大きさが適度だったようで、1.2A定電流充電中、熱くなり過ぎず、問題無い。満充電後の定電圧充電は微電流であり、発熱の心配は無用だ。  2個の鉛バッテリーも、充電中の異常な温度上昇などは一切無く、問題無し。  オーディオとしての音質は、これまでのマルチ電源1号機と比べて、目からウロコの変化は無い。バッテリー電源・リニア電源の組み合わせ、という基本が同じなのだから、当然だ。まあ、悪くはないということだろう。  各機器付属のACアダプターに戻しての比較試聴はしていないが、手間をかけた工作の分は改善されていると思いたい。  市販品では得られない、自分のPCオーディオ機器に特化したマルチ電源2号機の完成だ。