フィルムのデジタル化
 - リバーサルフィルムをデジタル一眼でデュープする 2014年10月

 自分としては5年ほど前から懸案にしていたプロジェクトなのだが、ようやく開始した。 2,3か月かかるだろうか。仕事から離れたのでできるプロジェクトだ。  開始して間もない途中だが、どんな手順でやっているか、どんな結果か、どんな問題点 があるか、ひとまず整理しておきたい。 ■フィルムのデジタル化  銀塩フィルムからデジタルの時代になって久しい。私の場合は、1983年頃から写真を撮るようになり、結構な量保管しているフィルムをどうするかが課題となっていた。  作品とかのレベルでは全くない素人写真であり、対外的な価値はゼロだ。しかし、家族の成長や旅行の記録であり、その時々の記憶を甦らせてくれる。自分や家族にとっては価値がある。35mm判のリバーサル(マウント)が主だが、モノクロネガ(スリーブ)、ブローニー判のリバーサル(スリーブ)もある。一部はプリントし、アルバムに入れてある。古いものは30年経っており、フィルムもプリントもカビや褪色による劣化が心配になっている。  フィルムは、湿気取りやカビ防止剤を置いて保管してきたが、保管してあるだけで、手軽に見ることができない。デジタル化すれば、劣化をストップさせることができ、保管も簡単、いつでも見たりプリントしたりできるメリットがある。  5年くらい前から、デジタル化しなくては、でもどういう方法が良いか、と考えながら、5千コマはあるフィルムなので、ぐずぐずと手をこまねいたままでいた。そんな中、写真雑誌「日本カメラ」の2014年10月号の河田一規氏の記事「銀塩写真をデジタル化しよう! ― フィルムスキャン道場」を読んで改めて動機づけられ、意を決してフィルムのデジタル化プロジェクトをスタートすることにした。 ■デジタル化のいくつかの方法  デジタル化の方法としてはざっと三種ある。「日本カメラ」の記事もそれぞれを簡単に紹介している。①フィルム専用スキャナーによるフィルムスキャン、②フラットベッドスキャナーによるフィルムスキャン、③デジタルカメラによるデュープの三種だ。  ①は、専用の機材で精度高いデジタル化が可能であり、最善の方法だ。フィルムのデジタル化と言えば、一昔前はこの方法だった。しかし、フィルム専用スキャナーで高性能のものは、当時は国産でニコンほかの製品があったのだが、もう何年も前に撤退した。今販売されているのは、台湾メーカー製で4万円~10万円程度で何種かある。これを購入するのは一案だが、作業後は無用の長物になる。投資に見合うか、が問題だ。レンタルで借りられれば良いのだが。 なお、1万円前後の安価なフィルム専用スキャナーも売られているが、性能はそれなりと考えるべきだろう。  ②は、現在の一般的な方法で、「日本カメラ」の記事でもメインに紹介されている。ドキュメント用スキャナー(家庭用プリンターの上部に付いている平面ガラスのスキャナーを単体にしたもの)だが、エプソンやキャノンの高解像度の上級品を使ってスキャンする方法だ。両社の上級スキャナーは、フィルムのスキャンを機能として想定しており、フィルム数コマを収めるホルダーや加工ソフトが付属している。大きな書類用スキャナーで小さなフィルムをスキャンできるのか、と思うが、意外に良い結果のようだ。3~5万円台で①よりは安い。ただ、シビアなピント調整がポイントになること、1回のスキャンに時間がかかること、が問題なようだ。また、作業後は、書類の精度高いスキャン・コピーに使えるにしても、図体が大きいのでやはり邪魔ものになりそうだ。  ③は、スキャナーを使わない方法だ。フィルム時代に、リバーサルフィルムをカメラで直接撮影(接写)して複写することをデュープ(Duplicate)と呼び、写真店に依頼するとやってくれた。これと同じことをデジタルカメラを使って行えば、デジタル化ができる。スキャンでなく、デジタルデュープだ。 デジタルデュープは、ひとコマずつセットする手間はいるが、撮影は一瞬なので、②の方法より手早く作業できるようだ。デジタルカメラの解像度も上がっているので、結果もまずまずらしい。 「日本カメラ」の記事では、ペンタックスの「フィルムデュプリケーター」を使ったデュープを紹介している。これは、かつて各社から出ていたベローズを使ったアクセサリで、写真店がデュープに使っていたものの再登場だ。光源はストロボを対面に取り付けて使う。フィルムホルダも、35mm判・ブローニー判、マウント用・スリーブ用と各種付属して、カメラもペンタックスに限らず各種使えそうだ。しかしこのアクセサリ、13万円ほどで何とも高価だ。  ネット上では、このデュープ方式をニコンのES-1 スライドコピーアダプターを使って行う方法が、いくつかのサイトで紹介されている。このアダプターは、プラスチック製で、ニコンのマクロレンズの前にフィルターねじφ52で接続し、先端の乳白色板の固定部に35mmスライド(マウントされたリバーサルフィルム1コマ)を挟み、光源に向けて撮影するものだ。ペンタックスのデュプリケーターと比べると、おもちゃのような簡易型だが、原理は同じである。値段はぐっとお安く4千円ほど。フィルム時代からのアクセサリのようだ。 各サイトを見ると、ニコンに限らない様々なレンズで、ステップアップリングやエキステンションチューブを活用して、このアダプターを使っている例があるようだ。私も所有しているレンズ、オリンパスのZD ED50mm F2.0 Macroに取り付けて使った例を紹介する投稿もあった。  「naka-maの心言」ES-1を使ったデジタルデュープの記事    http://naka-ma.tea-nifty.com/butubutu/2011/03/post-37a3.html  「amazonのES-1のカスタマーレビュー」てでぃ清藤氏の投稿    http://www.amazon.co.jp/review/R9OMIY2DDQSP2  「muk select」スリーブもES-1でデュープするノウハウの記事    http://blog.monouri.net/archives/51850758.html  「ごっさん居眠り中」ポジ、モノクロネガ、カラーネガのデュープノウハウの記事    http://gossan.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/2013-4338.html  なお、③のデュープ方式の簡易型として、ES-1のようなアクセサリをも使わず、ライトボックスに置いたフィルムを直接、デジタルカメラのマクロレンズで撮影するという方法もあるにはある。他に手段が無い中で、取りあえず複写するときの方法にはなるが、三脚を使ってもブレが生じるのを避けられず、不十分な結果になるだろう。この方法は採用できない。  以上、デジタル化には大きく三通りの方法があるが、とりつきやすく費用と作業時間のメリットがある③の方法、ES-1アダプターを使ったデジタルデュープを採用することにした。 ■予備実験  ニコンのES-1 スライドコピーアダプターを購入し、試してみた。  はじめに、手持のフォーサーズのデジタル一眼レフ オリンパスE-620にZD ED50mmF2.0Macroを付けて実験。フィルター径φ52のレンズで、ES-1も52mmなのでそのまま取り付けられる。しかし、0.52倍のマクロなので、ES-1は数センチ伸縮可能なのだが、その範囲ではピントが合わない。エクステンションチューブEX-25が必要なようだ。  もう一つ手持のマクロレンズ オリンパスZD 35mm F3.5 Macroがあり、こちらは等倍だ。フィルター径も同じく52mm。取り付けるとしっかりピントが合い、使える。ES-1はニコン製ながら、このレンズのために誂えたようにぴったりなのだ。 35mmマクロは、MTFチャートを見ても十分フラットで、フィルムのように平面の対象の接写に問題なさそうだ。50mmマクロと比べてもこの点ではひけを取らない。  予備実験により、ES-1アダプターとオリンパス35mmマクロレンズ、オリンパスE-620一眼レフカメラの組合せで、スライドにマウントしてある35mmリバーサルフィルムについては、デジタルデュープが可能なことが確かめられた。  しかしながら実写しての画質には、正直のところがっかりした。原板のポジ画像に比べて、色が冴えない、きめが粗い。ポジの情報量が大分減る印象なのだ。うーーむ。 上記の①フィルム専用スキャナー、②フラットベッドスキャナーもこんなものだろうか。ネット上にある様々な方の例では、①、②も、③のデジタルデュープももっと良い結果が得られているようだが。  画質について不安が残ったが、その後、撮影条件を変えてみたり、撮影後のレタッチを試みたりし、多少改善された感じもしたので、本作業に入った。画質の問題については、また後述する。 ■機材、用品  ニコンES-1とフィルムクリーナー液を買い、蛍光灯ライトボックスを自作した以外は、どれも既存の手持ちの品の流用だ。投資額約1万円である。  カメラ、レンズ、デュープ用アクセサリの一式は、上述のオリンパスE-620、同 ZD35mm F3.5Macro、ニコンES-1。カメラの電池が消耗するので、予備電池と交代で充電する。    カメラ、レンズ、ES-1アダプタの一式(紙テープでES-1の伸縮部を固定してある)     光源となる照明は、蛍光灯ライトボックスを自作した。  蛍光灯は、東芝製の10W直管、カラーイルミネータ用昼白色 FL10N-EDL。色評価用とされ、色温度5000K、Ra99、演色AAAである。  梅電社の看板用蛍光灯ホルダー、アルミ薄板の反射板(シワにしたアルミホイル貼り付け)、乳白色アクリル板を木製の枠に入れた。乳白色アクリル板は150×320mm、本体高さは152mm。  簡易な工作だが、水平にしてフィルム原板確認用のライトボックス、横に倒して色温度5000Kの照明になる。    自作の蛍光灯ライトボックス(上部の乳白色アクリル板を外した姿)     パソコンのディスプレイは、カラーマネージメントができる、EIZOのCX240。  パソコンのレタッチ用ソフトとして、AdobeのLightroom 5。RAWファイルの現像、加工を行う。  フィルム原板確認用のルーペは、ピークのアナスチグマット・ルーペ 4倍、同じくピークのスケール・ルーペ 7倍。デジタル化したディスプレイ画面との比較のためには、もっと高倍率のものがあると良いのだが。  そのほか、機材・フィルムのゴミ飛ばし用ブロワー、フィルムクリーナー液 PEC 12と拭き取り用パッド。白い布手袋。 ■35mm判リバーサルフィルムのデジタルデュープ作業 1 カメラの設定:  作業前に、カメラの設定を以下のようにしておく。これがベストの設定かはわからないが、なるべくベターと思える設定にしたということである。用語がオリンパスE-620のものであるのは御容赦を。 ・ISO感度:   このカメラの最小値100にする。画質向上のため。 ・撮影モード:   A(絞り優先撮影)、絞りf8.0とする。画質向上と被写界深度かせぎ。   シャッター速度はオートだが、0.5秒、1秒程度になり、蛍光灯光源のフリッカー現象は防止できる。   絞り優先オートにせずに、絞り・シャッター速度を固定するのも一案だが、オートで作業を行ってみた。 ・測光:   デジタルESP測光 ・露出補正:   デュープ撮影作業の全体で+0.5EVの補正をかけた。かつてリバーサルフィルムの撮影時、アンダー気味で撮っていたため。   原板のフィルムに忠実な露出にするにはシーンにより補正値を変えるべきだが、面倒だし、RAWで現像できることもあり、固定とした。   【+0.5EVでもアンダー気味なので、この文章を書いた後、基本的に+1.0EVの補正をかけることにした。】 ・フォーカス:   S-AF+MF。MFで焦点を固定してしまうのも一案だが、オートフォーカスで良い結果だった。 ・ホワイトバランス:   ワンタッチWB機能で、光源に向けて補正。 ・画質:   RAW+LSF(Large Super Fine)。RAWと最も大きく高画質のjpgの2種のファイルができる。 ・LSFのカラー設定:   sRGB ・仕上がり:   フラットにし、中立的な色味にする。 ・手ぶれ補正:   オフにする。レンズの前に固定された対象なので、手ぶれ補正は不要。 ・低振動モード:   オン、1秒にする。シャッターを押して1秒後に作動する。 ・長秒時ノイズ低減:   オートにする。 ・アイピース:   紙で覆い、入光を防止する。 ・アスペクト比:   フォーサーズの4:3のままとした。35mmフィルムの3:2に変えても良いのだが、ES-1にスライドを挟む時の位置決めに、より厳密さが要求される。 2 スライドコピーアダプターの調節 ・スライドのフレームより一回り大きく余裕を持たせて撮影できるよう、伸縮長さを調節。フレームが四辺に黒く写りこむが、画面が切れるよりは良いので。 ・アダプターのフレームとスライドが正しく水平になるよう角度を微調節。 ・定まったら紙テープで固定する。 3 デュープの作業手順    作業機材の一式セット     カメラ、マクロレンズ、スライドコピーアダプターのセットを三脚に取付け、横倒ししたライトボックス光源に向けてセットする。光源は、色温度安定のため、事前に10分以上点灯しておく。  原板フィルムを点検し、ブロワーでごみを飛ばし、カビがあればクリーナーで拭き取っておく。  作業をしてみると、ゴミはさほど無かった。カビは、時たまある。約300コマごとに袋に保管しているが、袋によってカビが多いロットがある。クリーナーで拭くと薄茶の汚れだが、大方は取れる。スポットとしてこびりついて取れないカビもある。  褪色は思ったほど無かったようだ。感じられなかった。  また、一部の原板フィルムは、ロット全体が、シアンがかる等の色かぶりをしていたり、露出不足であったりする。これは、経年変化ではなく、現像処理時の問題か撮影時の問題で最初からのことと思うが、25年以上経った原板となると記憶が明確でない。  スライド(マウントした35mmリバーサルフィルム)を1コマ、コピーアダプターに挟む。アダプターに位置決めの細工をすればより早く位置が定まるが、無くてもできる。縦位置で撮影したフィルムは、右か左か決めておき横にして撮る。  シャッターボタンを押せば1枚完了。  時たま、オートでフォーカスしない原板があるが、少し位置をずらしてMFで補助することでOK。  次のフィルムに交換して繰り返す。  全くの単純作業で、200コマも作業を続けると、うんざりして疲れます。  気分転換に、200コマくらいで、パソコンのハードディスクに転送して保存する。 ■デジタル化の結果例  上記の手順の撮影でできた結果例を示す。 ①LSF(Large Super Fine)の無加工のjpg画像(カメラE-620が生成したもの) ②原板と見比べながら、なるべく近づくようLightroomでRAW画像を加工してできたjpg画像である。加工前の画像の黒い外枠は、スライドマウントのフレームである。  Google Chrome や Opera では、画像を右クリックして「新しいタブで画像を開く」とすれば、フルサイズの画像が見られるので、細部の解像度を確認できるだろう。Internet Explorer は使っていないのでよくわからないが、右クリックで一度画像を保存して、フォトビュワー等で見るのかな。 実例1  1986年5月の横浜港の大桟橋の根元、水上警察署裏手の船溜まりの風景で、原板はコダクローム。現在は、ここはベイブリッジが見える角度だ。良く見ると建設中の橋脚の下部が、水平線の中央に門の形で建っているのが見える(水平線が傾いているのがお恥ずかしい)。  加工はLightroomを使った。まず自動諧調でおおまかに整えたうえ、露光量を調整し、白レベルを上げ、ハイライトを上げて飛ばし、ノイズ軽減の輝度をスムーズにした。さらにゴミをスポット修正し、周囲の余分を切り抜き、sRGBのjpgで書きだした。  加工により、暗すぎた画面が明るくなり、色調も原板に大分近づいた。しかし、原板をライトボックスで見ると、ハイライトはより輝き、階調は豊かで深みのある色だ。    横浜風景1 無加工の画像       横浜風景1 加工した画像    実例2  1986年2月、当時の新港埠頭の倉庫の風景。現在のみなとみらい21のワールドポーターズあたりになるだろうか。こちらの原板はエクタクローム。  こちらの加工もほぼ同様のことをした。  加工しても、こちらは原板とだいぶ差がある。原板は、冬の夕刻の光を浴びて倉庫が浮き上がっているような少しドラマチックなシーンだ。無加工のものは平板で面白味ががあまりない。それに比べれば加工後は少しましになってはいるが、まだまだ。銀白色の円筒のサイロ?の輝きが不足しているし、その割に倉庫はハイライトが飛び過ぎだ。レタッチに慣れれば、さらに追い込めるのかもしれないが。    横浜風景2 無加工の画像       横浜風景2 加工した画像    ■デジタルデュープの画質  二つの結果例はいかがだろうか。  まずは、まあまあの結果と言えなくはない。実際、予備実験の時のがっかりに比べるとかなり良い印象だ。無加工の画像でも、色味が全く違うわけではないので、全く見られないというものではない。記録としての写真の用には足りる。加工した画像は、写真撮影にさほど関心無い人なら、最初からデジカメで撮った写真と見てくれるかもしれない。そもそも現在のディスプレイの発色や解像度の性能には限界があるのだから、あまり言ってもはじまらない。ディスプレイで見る限りはまずまずの画質に見えるのだから、これで良しとすべきかもしれない。  他方、シビアに見るならば、今ひとつの結果、と言わざるを得ない。原板のポジと比べればやはり大分劣る。ただし、ライトボックスに置いてルーペで見るポジは、色味が良く、階調が豊か、ハイライトも輝くので、これと比べるのは公平でないのだが。また、デジタル一眼カメラで最初から撮影した場合の画像レベルと比べても大いに違う。予備実験の項で書いたように、色が冴えない、きめが粗い。ポジの情報量が大分減る印象なのだ。  画質の問題点について、一つずつ考えてみる。 (1)「色が冴えない」について  もう少し詳しく言うと、色がくすんで鮮やかでない、色の深み・コクがない、明暗の差が狭まりメリハリが無い、といった問題がある。  これは、そもそもリバーサルフィルムが、ネガフィルムに比べても深み・コクのある発色であり、ラチチュードがネガより狭く、コントラストが強く、メリハリが感じられる画面になる傾向であった。デジタルカメラの撮像素子の特性はまた別であるから、再現しにくいであろう。 デジタルカメラのラチチュードは、リバーサルフィルムと同程度に狭いらしい。特にハイライト側が早めにつぶれるようだ。リバーサルをデジタルデュープ撮影するということは、コントラストの強い画面を狭いラチチュードの中で階調を整えることになり、明暗の差が狭くメリハリの無い「眠い」写真になってしまう。ハイライトは弱まってしまう。二つの実例もそういう傾向である。  第二に、上述のようにライトボックスに置いてルーペで見ることは、ポジを鑑賞するのに大変好条件だ。発色、階調を理想的に見ることができる。特に、ハイライトはバックライトを受けて光り輝いて見える。これとデュープ後の画像を比べるのは土台無理な話で、無いものねだりになってしまう。  第三に、撮影時のホワイトバランスや露出の設定に改善の余地があるということだろう。実際、二つの事例の加工した画像は、レタッチ加工をすることで、原板に多少とも近づけることができた。  「色が冴えない」に関しては、もう一点、次元が違う問題だが、デジタルデュープ後の画像を見る環境条件が色の印象を左右するということがある。  私は、今回の画像を見るのに、パソコン用の一般的なディスプレイでなく、カラーマネージメントができるディスプレイを使用している。(詳しくは、このサイトの別の記事「EIZO CX240 ディスプレイを導入した」を参照願いたい。) 普段は、インターネットのサイトを見るのに適する「Webコンテンツ用の設定」にしている。これは、色域がsRGBで、輝度も抑え目の設定だ。これで見ると、デジタルデュープの結果は、冴えない色になる。  ところが、「写真用」の設定に変えると、色域が広がり輝度も上がるため、少し色味に鮮やかさやが出て、だいぶ印象が変わるのだ。RAW画像が良い印象になるが、jpg画像(無加工)も大いに改善されて悪くない印象だ。ホワイトバランスや露出を変えることにも相当するのだろう。  自分がこのディスプレイで「写真用」の設定にして見る限りはそれでめでたしだが、別のパソコン・ディスプレイで見る人のことを考えると、一般的な「Webコンテンツ用の設定」にしてこれを前提にしなくてはならない。このコンテンツもそうしている。 (2)「きめが粗い」について  きめが粗いを別の言い方で言えば、何となくざらざらしている、滑らかでない、ツヤツヤしたもののツヤが少なくなる、薄いベールを通して見るような感じである。これが「色が冴えない」問題と相まって、「情報量が減った」という印象になるのだろう。  一方で、拡大してみると意外に細かいところまでちゃんと写っている。解像度が悪いとは一概に言えないと思える。少なくともブレの問題ではない。ただこの点については、原板フィルムを同程度の高倍率ルーペで拡大して比較することをしていないので、何とも言えない。  きめの粗さ問題については、まずは、身も蓋も無い話だが、デュープ(複製)が元の原板と同じクォリティのはずがないわけで、ある程度はやむを得ないというべきだろう。もともと、フィルム時代のデュープも情報量が減る感じがあった。2度重ねてデュープしようものなら、ひどいものだった。問題は、情報が減じる程度である。  ここからは考えられる要因を順番に検討してみる。  第一は、カメラの解像度が不足しているのか、である。  フォーサーズであるE-620のRAW画像及びLSFjpg画像のピクセルサイズは、4032×3024である。最近のデジカメの高画素数に比べると抑えた数字だ。  実際のデュープ読み取りの解像度としては、35mmフィルム1コマ(36mm×24mm)を撮像素子の長辺いっぱいに写すとすると、36mm:25.4mm(1インチ) = 4032:x なので x ≒ 2845dpi ということになる。では、2845dpiで実用上十分なのかどうかだが、何とも言えない。  一般的な風景等の撮影では、大サイズのプリントにしたこともないので、フォーサーズフォーマットの解像度の不足を感じたことは無い。が、デュープにフォーサーズより大きな撮像素子、例えばAPS-Cや35mm判フルサイズのデジタルカメラを使ったらどうなのか。理論的には、撮像素子の大きなカメラでデュープすれば、その分はきめの細かい結果が得られるだろう。一目見てわかるほどの違いが出るかどうかはわからないが。  スキャナーについては、専用フィルムスキャナーは、現在販売されているの台湾製のもののカタログ値は、7200dpiとか10000dpiである。またフラットベッドスキャナーのカタログ値は、最新のエプソンGT-X980が6400dpi、キャノン Cano-Scan 9000FⅡが9600dpiである。いずれも、数字の上でE-620の2845dpiよりはるかに優秀であり、より良い結果が得られそうだ。ただ、フラットベッドスキャナーを使ったフィルムスキャンを紹介するサイトで、高解像度でスキャンしても、時間がかかるわりに画質がさほど改善しない、ということも言われている。このあたりは、実際に比較していないのでわからないところだ。  いずれにせよ、E-620の2845dpiは劣った数字であり、要因の一つである可能性がある。  第二は、デジタルカメラのノイズである  画像がざらついて見えるノイズは、デジタルカメラには特有の問題点である。これをなるべく避けるため、カメラの設定で、低ISO感度に設定し、長秒時ノイズ低減をオン(オート)にしている。それでも発生していると思われるが、対策は困難だ。実例としてあげた写真でも、拡大すると青空がざらざらしている。  Lightroomの加工で、ノイズ軽減の輝度スライダーを使い、少し改善される。このことからも、ノイズが要因の一つと考えるべきだろう。  第三は、原板のフィルムの粒子が見えている可能性である。デュープ結果の画像を私のディスプレイ上ではプリントで言えば半切くらいにまで拡大して見ることになるので、そうした可能性がある。  ISO400以上の高感度フィルムはめったに使わなかったが、増感現像はしばしば使った。これは例えば、ISO100のフィルムをISO400としての露出で撮影し、写真店に現像に出す時に、4倍増感でと依頼するものだ。粒子は相応に荒れる。子どもが乳児だった時期は室内でフラッシュ無しで撮ったので、しばしばこの手を使った。  予備実験で使った原板フィルムも、思えば増感現像のものであった。原板フィルム自体がざらざらと荒れたものであった可能性がある(本作業でも同じフィルムのデュープをしたが、結果は同様で芳しくなかった)。  これに対して、実例の二つのシーンは屋外風景であり、原板の粒状性が良い部類だ。特に実例1は、晴天の昼間の撮影で、低感度で粒子が細かいと言われたコダクロームを使っている。このため、比較的良い結果が得られているようだ。  フィルムの粒子が原因かどうかは、前述のように粒子を見ることができる高倍率のルーペで確認すればはっきりすることだが、あいにくそんなルーペを持っていないので、明言できない。ただ、原板が低感度フィルムかどうかで結果が異なることからすれば、原板フィルムの粒子も要因の一つと考えられる。  推測の域だが、「きめが粗い」については以上の三つの要因があるように思う。どれが主因なのか、三つともが原因する複合的問題なのか、判然としないが。第一、第二の要因は、現在の機材を変えないかぎり改善できない。第三の要因は原板の問題なのでもはや避けようがない。結局、対策はレタッチソフトによる加工で、きめの粗さを少しでも低減することきり無いようだ。 ■まとめ  デジタルデュープの手順、結果、画質について、長くなったが整理してみた。知識、経験が無いままの自分なりの整理であり、間違い、勘違いもあると思う。経験者のご教示をいただければありがたい。  デジタル化をデジタルデュープで行うという方法は、画質に不満が無くはないが、まあこんなものかな、というレベルではある。このまま続けて作業をしていきたい。専用フィルムスキャナーやフラットベッドスキャナーを使う方法で段違いの結果が得られる保証も無い。  作業は単純で慣れれば手早くできるが、対象のコマ数が多いのでぼちぼちやって行きたいと思う。レタッチ加工をひとつずつのコマに行うのは、あまりにも手間がかかるので、必要が生じたら行うことになるだろう。基本は、カメラが生成するLSFのjpgファイルそのままになりそうだ。  もともと、デジタル化にはフィルムの保管をやめるという目的もあった。だが、デジタル化に伴い、画質がどうしても低下することがわかった。となると、フィルムを捨て去る気持ちにはなれない。何かあてがあるわけではないが、フィルムの保管は続けることになりそうだ。  リバーサルのデュープが終わったら、続けてモノクロネガのスリーブの作業をしたいが、スリーブ用のホルダーが販売終了しているようで、中古でうまく見つかるか、ガラスで自作するか、これがボトルネックになりそうだ。カラーネガとブローニー判リバーサルは、デジタル化すべきほどの内容が無いので、フィルムのままにすることになりそうだ。 ■エピローグ 2016年3月  ここで取り上げたリバーサルフィルムのデジタル化だが、この記事を書いた後、手持ちのおよそ6,000コマのリバーサルのうち、1/3ほどのデュープ作業を行ったところでいったん中断してしまった。画質がいまひとつ、リバーサル特有の色の深み・コクが出ない、ということに気勢がそがれてしまったのだ。  そのまま1年経ち、気を取り直して残り2/3のコマの作業を再開し、ようやく先日完了した。長年の懸案だったデジタル化をひととおり終え、やれやれという気持ちだ。  フィルムの保管は、やはり継続することにした。カビが問題なので、ビニール袋に「フジカラー カビ防止剤」と一緒に入れて密封した。今後も時々、風通しをしてビニール袋とカビ防止剤を交換する必要があるだろう。  そして、せっかく保管するスライド、時には映写で見ようと、映写機を新調した。 これまで持っていたスライド映写機は、エルモのS-300という入門機だった。が、久々に引っぱりだして通電した途端、光源のタングステンランプがポンと破裂してしまったのだ。もはや交換ランプの入手も難しく、これまでとなった。  調べてみると、唯一現役として市販されているのはキャビンのCS-15、最小限機能の入門機だ。そこでヤフー・オークションを眺めてみたら、ライカのPRADOVIT P150が出品されていた。1990年発売の代物だが、機能はCS-15より上。状態も良好そうなので応札し、割と安値で入手できた。  エルモの経験を踏まえ、予備用に交換ランプを持っておくことにしたが、Osram(三菱電機照明扱い)のHLX64642が使えるようで、成田市のサウンドハウスの通販で安く買えた。また、連続映写のためのスライドマガジンを余分に買い足すべく探したが、国内では見つからず、オランダのVan Eck Video Servicesという会社の通販で購入した。映写機本体と予備ランプ2個、中古のマガジン3個、送料を含めて計12,000円ほどの買物だった。せいぜい使いましょう。  続けて、35mmネガフィルムのデジタル化作業に移った。別稿「フィルムのデジタル化その2- 白黒ネガフィルム」でご紹介する。こちら