区分経理と貸借対照表 - 自主管理の管理組合会計 2023年7月

 関連記事「自主管理か管理委託か - 小規模マンションの選択」 1 管理組合会計の問題点  私の住むマンションはずっと自主管理方式でやってきた管理組合だ。自主管理なので、当然、会計も会計担当理事が行っている。会計処理方法は、町内会や何かの同好会、家計簿と同じで、簡易な単式簿記だ。それで特に問題無くきた。しかし、昨年からの委託化の議論の中で、管理組合会計のあるべき姿を改めて知った。 問題点1  国交省は「マンション管理標準指針」(2005)や「マンション標準管理規約」(最終改正2021)などで、管理費会計、修繕積立金会計の区分経理を規定している。わが管理組合は、形式的には分けているが、区分経理を徹底していない。 問題点2  国交省は「マンション標準管理規約」の2016年改正で、「自治会・町内会」「コミュニティ形成」関連の項目を削除し、管理組合との峻別を規定した。わが管理組合は2016年改正以前の状態で、町内会費等を管理費と一体で徴収している。峻別・区分経理はできていない。 問題点3  国交省は「マンション管理標準指針」(2005)で「貸借対照表」を含む会計書類の作成を「標準的な対応」としている。わが管理組合は予算書、決算書を当然作成しているが、貸借対照表は作成していない。わが管理組合は、管理費会計・修繕積立金会計の総括貸借対照表に相当する「財産目録」(預金・現金資産のみ記載した簡易型)を作成しており、問題は生じていないが。  会計の専門知識を持つ人不在、自主管理方式の管理組合の「あるある」で、多くの古いマンション・団地が同様の道をたどり、問題点を抱えているのではないだろうか。  問題は区分経理と貸借対照表だ。法律による強行規定ではないので違法ではないが、管理組合会計として不適正ということだ。是正しなくてはいけない。  是正の方針だが、まず、管理費会計、修繕積立金会計、駐車場使用料会計、町内会費等会計、公園愛護会会計の五会計を設け、区分して適正に経理することとする。複雑に見えるが、会計を分けて会計処理すれば良いだけのことで、大した作業ではない。  なお、町内会費等の扱いについては、(公財)マンション管理センターにメールで質問を送り、管理費会計の中で勘定科目として明確にすることではダメか相談したが、別会計を設けるべきとのことだった。  貸借対照表は、「マンション管理標準指針」(国交省 2005年)で予算・決算書類の標準的な対応として定められている。決算日における資産状況を示す書類だが、これを作成することは、「現金主義」から「発生主義」への移行を意味し、会計処理の基本の考え方が変わる。決算書・予算書も発生主義に則り、貸借対照表と整合する「収支計算書」・「収支予算書」を作成することになる。  ところで、管理組合会計については、「会計基準」(=会計のルール)として公に明文化されたものが存在しない。多くの管理組合は会計業務を管理会社に委託しているが、「公益法人会計基準」が参考にされているらしい。専用の会計基準が無いため、管理会社/管理組合ごとに、実務の細部が異なる実態があるようだ。  次の図書やサイトは、管理組合会計の数少ない参考書だ。   「マンション管理組合の経理実務」第2版 2021年 税理士法人・監査法人フィールズ編 中央経済社   「マンション管理組合会計の手引き」改訂版 2017年 (公財)マンション管理センター   (NPO)マンション管理支援協議会サイト「管理組合会計 目次」   (株)穴吹ハウジングサービスサイト「会計 記事一覧」  しかし、仕訳をどう行うといった理論上の説明は記されているが、実務を具体的にどうすれば良いかの上手な説明は無い。管理会社社員やマンション管理士資格を勉強中の人向けで、われら自主管理で管理組合会計実務に取り組もうという素人対象ではないようだ。端的には、収支計算書、貸借対照表のリアルな実例があれば大いに参考になるが、これが全く見当たらない。素人向けの良い実務教科書が存在しないのだ。 2 適正な会計処理をどう実現すればよいか  教科書が無い中で、自主管理方式のまま適正な会計処理を実現するには、何をどうすればよいのか。  実務をなるべく簡単にするほかない。開き直って「なんちゃって発生主義」で良いではないか。  管理組合会計の会計基準は無く、上記の「標準管理規約」と「マンション管理標準指針」が大枠を規定しているが、裏を返せば規定はそれだけであり、それさえ満足すれば良いのだ。貸借対照表といっても、公益法人会計基準は、企業会計と違って敷地・建物の共用部分、改修に係る資本的支出、什器備品等を資産計上しないため、かなり簡易なものになっている。恐れることはない。  会計業務を管理会社に委託している場合は、「マンション管理適正化法施行規則」(改正2001)第87条第5項により、管理会社から管理組合に毎月会計報告をすることが義務づけられている。これは管理会社の不正防止のためで、自主管理の場合は年次報告が義務づけられている。実務上、その違いは大きい。発生主義でも期間がひと月でなく1年なら、現金主義との差は断然小さくなるのだ。  例えば、組合費や駐車場使用料を銀行の自動引き落としで徴収しているが、ある組合員が残高不足で引き落とせないことがたまにある。その月のうちに徴収できない場合、月次では貸借対照表に「未収金」として記載して報告することになる。これまでの例では、当該組合員から現金で徴収し、すぐに未収状態が解消される。年次報告ならば、そうした解決済みの途中経過は一々記帳しない。会計年度をまたいだ滞納の場合だけ(過去、例が無いが)、年次報告(決算書)に「未収金」として記載すれば良い。  同様に、修繕工事完了後、代金支払いが翌月になった場合も、月次報告では「未払金」と記載される。  光熱水費は、月遅れで前月・前々月使用分の料金が引き落とされる。会計年度をまたいだ未払いとなる。厳格な発生主義の立場に立てば、これも「未払金」に計上すべきことになる。が、さすがに重要性が低い費用として、企業会計でも現金主義が容認されているようだ。  「なんちゃって発生主義」と割り切れば、複式簿記による記帳(「総勘定元帳」に貸方・借方を仕訳して記帳するなど)を日頃行う必要は無い。これまでどおり単式簿記、現金主義で記帳しておき、年度末の決算時に、発生主義による記載がどうしても必要な、年度またぎの項目についてだけ、貸借対照表に手入力すればそれで良い。わが管理組合では、管理費・修繕積立金・駐車場使用料の収入、損害保険料、駐車場敷金だけだ。さらに、もしあればだが、年度またぎの未収金・未払金、会計間の貸し借り(他会計預け金・預り金)に限られる。  そもそも、管理組合会計に貸借対照表作成が義務付けられている最大の理由は、管理費・修繕積立金の滞納を「未収金」として記録するためだろう。貸借対照表が無いと、未収金は翌年度には何も記録されず、わからなくなる。が、わがマンションは20戸の小規模で自主管理なので、年度をまたぐ滞納は過去1件もない。もし滞納すれば、居づらくなる。勘定科目として未収金を一応設けるが、記載される事態はまず起きないだろう。  わが管理組合の現行の単式簿記の会計処理は、支出伝票、表計算シートの現金出納簿・科目別出納簿を使う方法で、簡単に処理できて、間違いや不正が起きにくい合理的システムだ。引き続きこれを使い、現行の表計算の一部変更することで、収支計算書、貸借対照表を作成したい。複式簿記の総勘定元帳は使わない。  単式簿記による貸借対照表作成の例として、(NPO)熊本県マンション管理組合連合会の「くまかんれん会計シート」(無償でダウンロードできる表計算マクロシート)がある。全面的に複式簿記の会計処理にしなくても、要所さえ抑えれば問題無い。 3 具体的な実務をどうすれば良いか  前述のとおり、収支計算書、貸借対照表作成の実務教科書が無いので、具体的な実務をどうすれば良いのか。私も、細かい点でいくつも分からない点があった。   ・予算流用、予算変更の行い方   ・予備費の使い方   ・執行額の想定不能な管理費会計「修繕費」の扱い   ・会計間の貸し借りの扱い(他会計預け金、他会計預り金)   ・5年契約一括払い保険料の扱い、など  収支計算書、貸借対照表の例(フィクションだが実態に近いリアルな例)を掲げる。細かな説明はしないが、見る人が見れば上記疑問の答はわかるはず。ご参考になれば幸いだ。  様々な会計の参考資料を読んでの、多分こうすれば良いのだろうという答であり、これが正解という確信は無い。間違いがあれば、ぜひご教示を願いたい。    収支計算書、貸借対照表の例(pdfファイル)  関連記事「自主管理か管理委託か - 小規模マンションの選択」