自主管理か委託管理か - 小規模マンションの選択 2023年7月

 関連記事「区分経理と貸借対照表 - 自主管理の管理組合会計」  私の住まいは2階建て20戸の小さな分譲集合住宅だ。40年前に入居し、管理組合は発足以来、ずっと自主管理でやってきた。近年は居住者の高齢化が進み、昨年(2022年度)には管理会社に委託する方式にしようとの提案が出て、マンションあげての大騒動となった。  自主管理か委託管理か、思い悩んでいるマンション・団地が他所にもあると思うので、ご参考までに記事にしておきたい。 1 自主管理と委託管理の違い  現在、全国のマンション・団地管理組合のほとんどは、管理事務(建物・設備の維持管理、大規模修繕の企画など理事会関連の事務)を委託している。「マンション総合調査」(平30 国交省)によれば87.4%が管理会社に委託している。自主管理は、同調査で6.8%と少数派だ。  完成年次が昭和年間の古いマンション・団地では、自主管理が少し多く、30%前後だ。これは、昭和の時代に住宅公団、住宅供給公社による分譲が多かったことが関係している。公団・公社分譲のマンション・団地の場合は、民間デベロッパー分譲と違って、入居当初に管理会社(デベロッパーの関連会社だったりする)を提示されるということが無い。自主管理が普通だ。マンション購入の時点で、分譲主体がどこかにより、自主管理か、委託管理か、さらには管理会社がどこか、分かれるのだ。  わがマンションは市住宅供給公社が昭和58年に分譲した物件なので、管理会社の提示はもちろん無く、当たり前のこととして自主管理方式でスタートした。入居時点で、この先は皆さんでやってください、と突き放され、孤島に取り残された気持ちになったものだ。管理規約案や組合費・駐車場使用料月額案は公社が用意してくれていたが、管理組合の設立総会開催、予算編成をはじめ、全てがゼロからだった。  最初の管理組合理事メンバーの目覚ましい働きで、何もない所にレールが敷かれ、何をどうするか定型が作られ、自分達で主体的に管理運営する体制ができていった。(私は理事でなく監事で、あまり貢献しなかった。)  自主管理では、組合員の管理への関心が自ずと高くなる。特に20戸の小規模では、また、短い周期で交代で役員を勤めるため、皆が当事者意識を持っている。また、お互い顔見知りでコミュニティが形成されている。これは他に無い強みだ。  また、建物がタウンハウス類似の設計で、各住戸が独立的だ。全住戸が直接屋外に出入りできる玄関を持ち、共用の玄関・ロビー・廊下が無い。2階建ての小規模なので、エレベータ・機械式駐車場・受電設備・給水設備など、大がかりな設備が無い。このため、一般のマンションで必要な常駐管理員、清掃員が要らない。法定の設備点検が要らない。たまたまだが、自主管理に向いた建築設計になっている。その分、日常の維持管理や清掃を自分達で行うことになるが。  一方、民間デベロッパー分譲のマンションの場合は、分譲当初から管理会社ありきで、委託管理方式と決まっている。  ただ、委託管理と言っても、管理の一切合切を代行してくれて管理組合も役員(理事・監事)も不要、というわけではない。あくまでも理事会を補助してくれるだけだ。管理組合の役員が選ばれ、役員が中心となって、理事会、総会を運営し、管理業務を取り仕切るのは自主管理と同じ。ただ、フロント(マン)と呼ばれる管理会社の担当者が毎月来て理事会に同席し、何かと手伝ってお膳立てしてくれる。会計・経理の実務を担ってくれる。マンション管理や管理組合運営の専門的知識・経験を持つフロントの補助により、役員の労力負担が「多少」減るのがメリットだろう。「多少」がどの程度か、補助の量・質は管理会社やフロントの個性次第だ。  反面、理事が1、2年で交代するのに対し、フロントは長く担当して知識・経験を積み、影響力を増す。「お任せ」=「言いなり」にもなり得、フロントが主導権を握ってしまうケースすらある。また一方で、管理組合やマンション管理に対する組合員全体の当事者意識が無くなり、無関心になりやすい。管理会社が管理していると思えば、組合費の滞納なども生じやすい。  もちろん、委託料がコストとしてかかる。管理員、清掃員が必要なら、その業務委託料も必要だ。  しかし、委託管理方式の最大の問題点は、修繕工事のコスト増大だ。  マンション建物・設備の長期維持のためには、適切な時期に修繕工事をしていく必要がある。多くの管理会社は、フロントが長期修繕計画を作成し、時期が来たら大規模修繕工事を提案する。修繕積立金残高が不足していれば、積立金月額の増額、一時徴収、金融機関からの借入を併せて提案する。そして、工事業者(管理会社自身や関連会社)を提案し、高値で受注する。資金から業者選定まで、管理会社が修繕工事の一連の流れを掌握しており、意のままに操作して収益を懐に入れる構造だ。プロセスに透明性・競争性が無く、何とも不健全だが、そうしたやり方がマンション管理業界の常態になっている。「大人の事情」というやつだ。  マンション住民側としては、委託料を支払って委託しているのだから、管理会社が自分達の利益に寄り添った管理をしてくれる、と期待して委託管理方式にしているだろう。しかし、管理会社は非営利団体ではないし、フロントマンは第三者的立場の管理専門家ではなく、管理会社の営業マンである。理事会の事務補助をしているのは営業活動なのだ。事務補助は委託料ではペイしていない、と言うだろう。このギャップを十分認識せず、多くの管理組合は「お任せ」=「言いなり」となってつけ込まれている。  余談だが、自主管理のわがマンションで修繕工事をどうしているかと言えば、長期修繕計画の作成を建築コンサルタントに委託している。また、大規模修繕工事の実施設計・工事業者選定・工事監理を同じ建築コンサルタントに委託し、「設計監理方式」で行っている。数社の指名競争入札により工事業者を選定し、透明性・公正性確保を図るやり方だ。  しかし、このやり方にも問題が潜んでいる。不心得な建築コンサルタントがあって、入札の際に談合を仕組んでバックマージンを取る、そんな利益相反行為の例が少なからずあるらしい。われわれが長年委託している建築コンサルタントについてはクリーンと信頼しているが。  あっちでもこっちでも、管理組合は食い物にされているのだ。  その結果、日常の維持管理が不十分、ちゃんとした長期修繕計画を持っていない、積立金が不足して大規模修繕工事ができない、居住者は無関心、管理組合役員も打つ手が無い、管理会社も収益にならないと見切って次の契約を渋る、そんなマンションが出てきている。住人の無い空き室が増え、建物の荒廃が進行、自分も引っ越したいが中古で売れないとなれば、お先真っ暗の「限界マンション」だ。  そこまで行かずとも、客観的に見て先行き危うい状態なのに、役員も居住者も関心が薄く、事態をちゃんと理解していない、そんなマンションは数多いと思う。何とも酷い状況であり、マンションを取り巻く業界の闇は深い。国交省はマンション管理の「適正化」を言い始めたが手ぬるい。実効ある規制をすべきだ。 2 委託化提案の顛末  わが管理組合は、輪番制で理事4人を交代してきた。20戸から理事4人×5年分を抽選で決めておく方法だ。しかし、20戸のうち2戸が健康上の事情で就任困難となり、輪番を免除することに決まった。現在、20戸のうち、私を含めて半数が高齢者世代(それも70代)だ。それぞれ、何やかや衰えが出ている。今後も免除者の増加を見込まざるを得ない。理事の輪番周期が5年に1度から4.5年に1度に短縮され、今後も短くなっていくということになる。居住者の入れ替わりが並行して進むわけではないので、5年後、10年後には氷河期の状況になってしまい、次世代に大きな負担がかかるおそれがある。  そんな背景があって、理事の負担を極力軽減することが課題であり、それを旗印に管理事務委託化の提案が昨年(2022年)4月に出された。最初の理事メンバー、功労あった3名が手を組んでの提案であり、強引な形だったが総会を通って、検討が開始された。  提案といっても、きちんと企画書になっていたわけではない。根拠も見通しも不確かな話だった。少し考えても簡単に行きそうにない。  まず、管理事務を委託化する場合、20戸の小規模のため1戸あたり委託料が高額にならざるを得ない。委託料はフロントの人件費なので、20戸のマンションも200戸も基本は同じで、20戸と言って1/10になるわけではない。  一方、修繕工事については、20戸の工事規模では中間マージンが格段に小さい。その上、わが管理組合は、委託管理であっても修繕工事部分はお任せにせず、建築コンサルタントによる「設計監理方式」を継続したい意向だ。 管理会社としては、修繕工事を自社・関連会社で請負うことができず、そこから収益を上げることができない。管理会社から見ると、まるでうまみの無い小規模マンションであり受託するメリットが無い。  われら管理組合とすると、修繕工事で管理会社に「お任せ」=「言いなり」で行くならば役員の労力負担は減るだろうが、大幅な工事費増は到底受け入れられない。修繕工事について「設計監理方式」を続けるならば、管理会社に委託しても、理事の労力負担はさほど減らない。ジレンマで、管理組合側としても委託するメリットが無い。  委託化提案は、「面倒なことは管理会社に任せる」「金ならある」とおいしい話を狙いすぎて、業務委託内容、財源想定に過大な期待、無理があり、はじめから実行可能性が無い案だった。  1年間のすったもんだを経て、2023年度に入り、管理会社3社に管理事務委託の概算見積りを依頼した。結果、提案者提起の業務内容については、3社とも見積り辞退となった。やはり実行不可能な案であり、委託化提案は自滅した。  1社だけが、基幹事務を含めた管理事務全てなら受託する、とした。その1社とは、分譲主であり、今は管理業務にも進出している市住宅供給公社だ。公社は営利企業ではなく市の外郭団体であり、関連工事会社を持たず、修繕工事で儲ける収益構造ではない。わが管理組合がもし管理委託するならば、公社が唯一の選択肢だ。ただし、公社も全くの非営利団体ではなく、市から経営自立を求められていて自分達の食い扶持は稼がなくてはならない。したがって、「大人の事情」が無い分、委託料はお高くなって年240万円程度と言う。  やはりこうなるよな、という結果だ。 3 今後の自主管理  組合費(管理費+修繕積立金)は現在既に月額3万円だ。他所のマンションより高めで、なおかつ、そのうち2万7千円が修繕積立金だ。真面目に計画修繕をやってきたためで、理由ある月額だが、高経年マンションとするとかなり高い部類だ。これが市公社に管理委託し、1万円アップの4万円となれば、中古マンション市場で買い手がつかなくなるおそれが出てくる。20戸でなく200戸のマンションであれば、1戸あたりは1,000円アップで済むので、迷いなく委託するのだが。  将来、理事就任の周期がどんどん短くなり氷河期になった場合は、市公社に委託する選択もありと思うが、当面は自主管理で行くほかない。  冒頭で、「自主管理か委託管理か、思い悩むマンション・団地のご参考までに」と記したが、委託管理より自主管理の方が良い、お勧めだ、などと軽々しく言えるものではない。メリット・デメリット両面あり、管理組合それぞれの状況・事情がある。ただ、委託管理の場合、役員・組合員の当事者意識が減退する、管理会社は修繕工事で収益を上げることで成立している、という問題点が付きまとう。われら管理組合は、20戸の小規模なので引き続き自主管理で行くほかない、というに過ぎない。十分ご参考にならず、あいすみません。  では、課題である理事の負担軽減をどう図るのか。  話が前後するが、これもすったもんだの上だが、理事選任を繰り上げて、私は今年度(2023年度)の副理事長、兼会計担当理事を引き受けた。  1年間のうちに自主管理で円滑にやっていける環境を整備し、次世代に引き継ぐことが役目と考えている。  理事負担をなるべく軽減するよう、業務の見直し・縮減化・合理化、業務の定型化・マニュアル化など、環境整備をしようとしている。  わがマンションは、長年の自主管理により鎖国化、ガラパゴス化し、一部、標準的ではない独自のやり方になっている。これまで大きな問題は生じず、それで済ませてきたが、客観的に見ればあちこちが適正でない。今回の委託化提案は、独自の会計処理の欠陥を突いて、「金ならある」とおいしい話の体裁で出てきた。会計システムの見直しは特に必要だ。  多くの管理組合が採用している標準的な正道を行けば、道を誤らず、自ずと適正な管理組合運営になる。おいしい話は転がっていないが、地道に標準、普通で行くのが至当なのだ。  自主管理の輪番理事の1年間の負担はゼロでは無いが、実際やってみれば大変と言い立てるほどでもない。20戸の小規模なので業務量が限られ、メールのやりとりで理事間の意思疎通をしていれば、理事会を毎月開く必要が無いほどだ。  業務の標準化・定型化がなされれば、理事はマニュアルに沿って例年どおりに業務をすれば良く、それでもう60点=合格点に到達する。計画修繕の年度も、基本は監理を委託した建築コンサルタントに任せ、理事は組合員の意見調整をすれば良いだけなのだ。  ほどほどの負担で持続可能な自主管理、そんなマンションにしたい。  関連記事「区分経理と貸借対照表 - 自主管理の管理組合会計」