スイッチングハブと電源の試行錯誤 - 低ノイズ・リニア電源から基板に直接給電 2019年4月

 故障したスイッチングハブの後継として、NETGEAR社のGS105-500JPSを導入したことを記事に書いた。こちらの記事  その際、スイッチングハブとその電源が、予想外にPCオーディオの音質に影響すると知った。もう少し探ってみたので、その後の展開について記す。 ■スイッチングハブ基板に直接給電するという情報  ネット上の情報で、GS105-300JPS(500JPSの前世代機)の基板にDC3.3Vを直接給電して好結果を得た、という興味深い記事があった。こちら  基板上にDC/DCコンバータICやコイルがあり、供給されている12Vを3.3Vに降圧している。これを切り離し、3.3Vを直接供給するよう改造したら、高音質になったというものだ。  手元の500JPSの筐体を開けてみると、300JPSとは基板が異なるが、確かにDC-DCコンバータらしいICとコイルがある。コイルの電位は3.3Vだが、直接給電の標的になる電解コンデンサは省かれている。改造するなら、どこに給電するかだ。(後日、コイルの足元に3.3Vを直接給電する改造をしてみたが、うまく動作せず、失敗だった。) ■低ノイズ・レギュレータICについての情報  一方で、リニア電源について改めてネット上の情報を収集し、新たな知識を仕入れた。この十年来、LDO(低ドロップアウト)で格段に低ノイズのリニアレギュレータICが出てきているという。DACなどデジタル機器を自作する人たちが使用して、好結果を得ているらしい。デジタル回路に、この低ノイズ・リニア電源が適するようだ。  私などには、ICよりディスクリートで組んだ回路が上等という固定観念があり、リニア電源でもディスクリートのレギュレータを信奉してきた。レギュレーターIC、しかも低ドロップアウトなど、全く無関心だった。  PCオーディオ用5V・12Vマルチ電源 2号機で、「お気楽オーディオキット」サイトで頒布されているTYPE-L基板を使ったが、これはあえて無帰還で安定化をしていない回路であり、アナログのパワーアンプでの高音質を目的とした電源だったようだ。NASと無線LAN中継器の電源に使っているのだが、的はずれの使い方だったらしい。  「お気楽」氏は、DACを自作する高度な電気工作人で、別途、DACやラズベリーパイの電源用に、超低ノイズLDOを使った電源基板を以前から頒布していた。私が気がつかず、通り過ぎていただけの話である。知らないとは、何ともしようがないものだ。  リニア電源(定電圧レギュレータ)は様々な回路があり、それぞれ得意な分野があるようだ。負荷変動に対する電圧安定性、負荷変動への過渡応答性、リップル除去性能、ノイズの低さ、など。  無帰還・非安定化の回路は、電圧安定性は劣るが、過渡応答性は優る。三端子レギュレータは、その逆だ。さらに、超低ノイズLDO ICは、ノイズが一桁、二桁低く、しかもスイッチングノイズをカバーするほど広帯域で低くなっている。こうした違いが、用途の得手、不得手になるようだ。 ■GS105-300JPSを入手し、低ノイズ・リニア電源からの直接給電を試す  スイッチングハブ基板への3.3V直接給電。さらに、低ノイズ・リニア電源。これは実際に試してみないとわからない。NETGEAR社の旧型スイッチングハブ、GS105-300JPSを中古で入手した。  上部の文字以外は同じ外見だが、写真の左がGS105-500JPS、右がGS105-300JPSである。     GS105-300JPSは、前期型V3と後期型V4があるが、V4の方だった。中古と言ってもほとんど未使用のようで、程度は良い。基板を見ると、ネットの情報と同じ基板であり、同様の改造ができる。  まずは、改造しない状態で試聴した。付属のACアダプターを電源とすると、かなりプアーな音だ。リニア電源に替えても、GS105-500JPS+リニア電源に比べて劣る。何を聴いても、どうもつまらなく聴こえてしまう。  一方で、低ノイズの3.3Vリニア電源を用意した。  秋葉原の秋月電子通商で「超低ノイズ・プログラマブル可変電源キット」が売られている。Texas Instrumennts社のLDO IC、TPS7A4700を使用した小型の完成基板で、ノイズは4.17µVRMS、出力は最大1Aで、1.4~20.5Vの範囲で設定できる。値段も手ごろで、今回の実験にぴったりだ。  ドロップアウト電圧(入力電圧と出力電圧の差)は最小0.307Vだが、1V以上が推奨されている。電圧差が大きくなるほど発熱が大きくなり、放熱対策が必要になる。ちょうど、DC5V出力のスイッチング電源が手元にある(スイス TRACO Electronic AG社の製品で、スイッチング電源ながらACアダプターとは大違い、リニア電源に引けを取らない音が出る)。これをTPS7A4700基板の前段に置いて、簡略に入力5V、出力3.3Vの電源を作った。アルミ天板裏に基板を貼り付けて放熱するようにしたが、ほんのり暖かくなる程度で問題ない。     GS105-300JPSを改造した。上記の改造記事に沿って、基板のDC/DCコンバータ出口のコイル、抵抗を外し、電解コンデンサーを交換(写真の金黒のもの)、その足元に低ノイズの3.3Vを給電するようにした。     結果は大成功。直接給電で、音質は顕著に良くなった。深み、ニュアンスが出て、聴いて楽しい音になった。音に滲みが無くなり、fレンジ、dレンジとも拡大したように感じる。GS105-500JPS+リニア電源を上回る音質だ。  この基板上には、1.1V電位の別のコイルがある。すなわち、3.3V以外にもDC-DCコンバータがあるわけで、こちらにも1.1Vを直接給電すれば完璧だろう。しかし、そこまでするのは大変だ。  GS105-500JPSに3.3V直接給電ができないか、改造を施してみたが、上述のとおり、給電の適当な場所が無い。コイルを外した足元とGndに給電を試みたが、動作せず、失敗に終わった。 ■新たなスイッチングハブ、アライドテレシス AT-GS910/5  この改造で中身を見て、500JPSも300JPSも、基板は安手の部品で構成され、部品数も省けるだけ省いていると感じた。コスト削減の作りだ。フラックスの洗浄すら省いている。  そして、このGS105と外見がそっくり、型番までよく似たコピー商品が某国他社から出ている。げんなりする状況だが、単なる価格競争でなく、仁義なき戦いの渦中にあるのだ。フラックス洗浄もへちまもない。  ユーザーとしては、さっさと退却して、国内メーカー製のしっかりしたスイッチンハブの中から、直接給電のベースになるものを探すことにした。多少高価でも良い。  ネット上の別の方の記事で、アライドテレシス社のスイッチングレギュレータ(型番不明。写真からして8ポートらしい)の3.3V内蔵スイッチング電源を、低ノイズ・レギュレータ(こちらもTPS7A4700だ!)に置き換えたという情報があった。こちら  スイッチング電源を取り外し、基板のコネクターに3.3Vを接続するだけなので、電源の改造と言っても簡単だ。  これまで外部電源の製品ばかりを検討対象にしてきたが、基板に直接給電する改造を前提とするなら、内蔵電源の機種がかえって良いかもしれない。  アライドテレシス社は業務用スイッチングハブの国内メーカーで、記事の写真を見ると、コストをかけて良質な部品を使っており、信頼性、耐久性がありそうだ。  同社のサイトをあたると、5ポート、8ポートのスタンダード・モデルがあって、1万円程度の価格だ。機能は必要十分であり、そのくらいの費用で高信頼を得られるならばリーズナブルだ。  結局、5ポートで内部電源のアライドテレシス AT-GS910/5を購入した。  中を見ると、期待に違わず3.3V 2Aのスイッチング電源が内蔵され、基板のコネクターに給電している。直接給電化は簡単だ。  この機種にも、1.1V電位の電解コンデンサーがあって、やはり3.3Vから1.1Vに降圧するDC-DCコンバータがあるようだ。NETGEARとも共通しているが、水晶振動子あたりの電源だろうか。        改造する前に、そのままの状態、内蔵スイッチング電源で試聴した。  予想外に良い。GS105-500JPS+リニア電源にひけをとらない音質だ。アライドテレシスはオーディオ用途を全く意識していないと思うが、立派なものだ。内蔵のスイッチング電源は台湾メーカー製だが、ノイズ対策がなされているのか。やはり、スイッチング電源が全てダメというものではないことがわかる。ネットワーク用機器としてきちんと作られた製品が、結果としてオーディオにも良い素質を持っている。  さて、改造だ。といっても、内蔵スイッチング電源を外して、GS105-300JPSに使ったTRACO POWER+TPS7A4700基板からの出力3.3Vを、基板のコネクターに接続するだけだ。     試聴結果は、期待どおりの高音質だ。改善の方向はGS105-300JPSと同じだが、素質が良い分、さらに結果が良い。  音に滲みが無く、ピントが鮮明な感じで、聴感上のS/Nが向上し、分解能が上がった。fレンジ、dレンジも拡大。演奏のニュアンスがわかり、聴いてわくわくする。これは大いによろしい。当面、これを常用することにした。 ■まとめ  今回使用した3.3V低ノイズ・リニア電源は応急の試作品だが、アライドテレシスのAT-GS910/5 スイッチングハブとの組み合わせで、満足な結果が得られた。改めて、スイッチングハブとその電源が、音質に大きな影響を及ぼすことを認識した。  こうなると、これまで自作して使用してきたPCオーディオ用5V・12Vマルチ電源 2号機や、2号機に追加したDELA N100 NAS用12V3.5Aリニア電源を見直して、低ノイズ・リニア電源に作り直したい気持ちになってきた。 (その後、超低ノイズ・リニア電源を作った。マルチ電源 3号機の記事