PCオーディオ用マルチ電源 3号機Ver.2 - 超低ノイズ・リニア電源 2024年1月

                    上:3号機 新B (今回の制作)           下:3号機 A (前回制作) ■きっかけ  2019年5月にPCオーディオ用にマルチ電源3号機を作り、使ってきた。実際には、3号機は A 超低ノイズ・リニア電源、B 鉛電池電源の二つからなり、それぞれのケースで独立していた。   マルチ電源3号機の記事  このたび、超低ノイズ・リニア電源 新Bを作り、旧Bの鉛電池電源と置き替えた。超低ノイズ・リニア電源によるA、Bセットになったということだ。マルチ電源3号機Ver.2と呼ぶことにする。  きっかけは、DACに接続する10MHzマスタークロック、サイバーシャフト社製 OCXOクロック Palladium OP-16の購入だ。  このクロックにはDC14V 1Aの外部電源が必要だが、サイバーシャフト社からは「超高純度外部電源」LTPW05がオプションとして販売されている。このLTPW05は、三端子レギュレータLM350を1次レギュレータとし、さらに2次レギュレータとしてLT3045を3個並列で使っている。LM350とLT3045なら馴染みがある。LM350は電圧可変三端子レギュレータで、使い勝手が良い。LT3045はノイズ除去性能が極めて高いレギュレータICで、私が3号機Aの超低ノイズ・リニア電源で使った中心部品だ。  さらに、サイバーシャフト社は、Palladium本体にもOCXOクロックユニットに電源を供給する前段に LT3045を2個並列で使っている。LTPW05と合わせると、LT3045を2段がまえで使っていることになる。これでもか、という対策だ。ここまでしているクロックなら信頼できる、と購入する気になった。電源は、LTPW05を購入すれば早いが、LT3045を使う相当品を自作できそうだ。  一方、3号機Bの鉛電池は、二つの小型PCの12V電源として使ってきた。電池なのでノイズは皆無、クリーン電源という点では究極と言えるが、実用面で少々問題がある。充電容量の制約で6時間ほどの使用で電池切れになってしまう。さらに、だんだん劣化して充放電の能力が落ちる。数年で寿命が来るので交換が必要だが、重量があって回収・購入のために持ち運ぶのも一苦労だ。そんなこんなでリニア電源への交代を考え始めていた。  幸い、ポイントとなる部品 LT3045は、2019年の3号機制作の際の基板がまだ残っていて使える。  ということで動機と手段が揃い、小型PC2台用、クロック用を合わせた3系統の電源を新たに自作することにした。 ●対象機器と定格・推奨の電圧・電流  小型PC Minisforum GK50    :DC12V 最大3A     (仕様に消費電力等の記載無し。付属電源アダプターはDC12V 3A)  小型PC PC Engines APU.2C4    :DC12V 最大10W(0.84A)  10MHzマスタークロック サイバーシャフト Palladium OP-16    :仕様DC13.5V~16V 0.8A、推奨DC14~16V 1A ●制作の方針  新Bは、1次レギュレータに、LT350とその電流増加版のLT338を、2次レギュレータにLT3045を使用した超低ノイズ・リニア電源3系統とする。最大電流は余裕を持たせる。   (1)小型PC Minisforum用 12V 4A   (2)小型PC APU.2C4用 12V 3A   (3)クロック用 14V 1.5A     ちなみに、3号機Aの超低ノイズ・リニア電源は、次の3系統だった。      (1)NAS用 12V 3A      (2)無線LAN子機用 12V 3A      (3)スイッチング・ハブ用 3.3V 2A  主な使用部品   (1)小型PC Minisforum用 12V 4A 電源トランス(東栄 J165 16V5A) ×1 ブリッジ・ダイオード(秋月電商 SBRダイオードブリッジ 100V40A) ×1 1次レギュレータ基板(秋月電商 LM338T使用電源キット 最大5A) ×1 2次レギュレータ基板(「やなさん」氏頒布 LT3045 2個並列使用基板) ×4   (2)小型PC APU.2C4用 12V 3A 電源トランス(東栄 J165 16V5A) ×1 ブリッジ・ダイオード(秋月電商 SBRダイオードブリッジ 100V40A) ×1 1次レギュレータ基板(秋月電商 LM338T使用電源キット 最大5A) ×1 2次レギュレータ基板(「やなさん」氏頒布 LT3045 2個並列使用基板) ×3   (3)クロック用 14V 1.5A 電源トランス(東栄 J162 16V2A) ×1 ブリッジ・ダイオード(秋月電商 SBRダイオードブリッジ 100V40A) ×1 1次レギュレータ基板(秋月電商 LM350T使用電源キット 最大3A) ×1 2次レギュレータ基板(Strawberry Linux LT3045-1使用モジュール) ×3  構成は、次の接続図のとおり。            2次レギュレータとして使うLT3045は、単体では最大電流0.5Aだが、並列接続して電流を増やすことができるのが大きな特徴だ。3系統それぞれ、(1)8個並列、(2)6個並列、(3)3個並列という構成である。  (1)(2)の2次レギュレータ用の「やなさん」氏頒布の「三端子レギュレータ基板 Type10」は、もともとLT3045 2個並列使用の基板だ。2019年の余りが8枚あったのだが、今回1枚のはんだ付けに失敗し、7枚に減った。このため、(1)は基板4枚8個並列で最大4A、(2)は基板3枚6個並列で最大3Aとなり、最大電流が異なることになった。                     「やなさん」基板 上:基板4枚8個並列 下:基板3枚6個並列  (3)の2次レギュレータ用には、Strawberry Linux社が販売する「LT3045-1 超ローノイズ・正電圧レギュレータモジュール」という完成基板を3枚購入し、これを使う。LT3045を3個並列し、最大1.5Aとなる。                     Strawberry Linux基板 3個並列  ケースは、3号機Aと同じタカチのHYシリーズを使い、同じ外観で揃える。  (1)(2)小型PC用は電源スイッチとパイロットランプを前面に設置する。(3)クロック用は常時通電の運用なので、電源スイッチは後部に設置し、普段は触れないようにする。 ■LT3045の並列  LT3045を複数並列接続して最大電流を増やす方法について、Strawberry Linux社の説明書には並列接続の具体的方法が記されていない。Linear Technology社のLT3045のデータシートを参照し、ちょっとしたノウハウで入力・出力を並列接続できる。 ●ノウハウ1 出力は20mΩを介して並列接続する  LT3045を複数並列した場合の出力電流の微小なズレを均等にする安定抵抗(原文でballast resistor)として、各LT3045のOUTピンに20mΩを直列した上で並列接続する、とある。  こんな微小な値の抵抗を直列に入れることで、どう作用して均等になるのか理論的にわからないが、おとなしくデータシートの指示に従うことにする。  データシートには、プリント基板の導電経路を抵抗として利用するアイディアが記されている。LT30452個並列のやなさん基板は20mΩチップ抵抗を基板上にはんだ付けするようになっている。LT3045単体のStrawberry Linux基板には20mΩ用ランドが無く、外付けすることになる。  20mΩの抵抗は、入手できる種類がごく少ない。比較的入手入しやすいのは、表面実装型部品(チップ抵抗)だが、外付けには向かない。ディスクリート部品として、モノタロウの通販でArcol社の「金属板抵抗器 MSR-3シリーズ 20mΩ 3W ±1%」を見つけ、5個989円とお高いが購入した。ただ、今回は工作のし方を誤った。小さいユニバーサル基板にはんだ付けしてきちんと固定すべきところを、横着をして空中配線で外付けしたため、足元のはんだ箇所に力がかかって危うい、不確実な接続になってしまった。 (上のStrawberry Linux基板 3個並列写真のゴール・ゲートのようなものが20mΩ抵抗。) ●ノウハウ2 出力電圧の設定抵抗は1個を共通で使う  LT3045は、SETピン・GNDピン間に接続する抵抗値により出力電圧を設定できる。SETピンに高精度の100μA基準電流が流れるので、設定抵抗はRSET=出力電圧[V]×10 [kΩ]となる。LT3045単体ならば、出力電圧12Vとするには設定抵抗として120kΩを接続すれば良い。  複数のLT3045一つひとつに抵抗120kΩを接続すれば、それぞれ12V出力を得られるが、抵抗値の誤差で出力電圧がバラついてしまい、安定した並列接続ができない。  LT3045をn個並列接続するには、複数のSETピン・GNDピンを相互につなぎ、1個のSETピン・GND間にだけ、共通の設定抵抗を接続する。設定抵抗から見てLT3045をn個並列なので、RSET=出力電圧[V]×10/n [kΩ]である。  (1)は、8個並列・出力12Vなので、RSET=12*10/8=15[kΩ] (完成後の実測値は 11.98V)  (2)は、6個並列・出力12Vなので、RSET=12*10/6=20[kΩ] (同 11.94V)  (3)は、3個並列・出力14Vなので、RSET=14*10/3=46.7[kΩ]    (3)には47kΩを設定抵抗として使い、計算上の出力電圧は14.1V。(完成後の実測値は 14.10V)  完成後の実測値は、ほぼ正確に目標どおり。設定抵抗が優秀で、抵抗値の誤差が小さかったおかげだ。 ■工作  工作は、2019年の超低ノイズ・リニア電源とほぼ同じ内容なので参考にし、部品の調達、ケースのレイアウト設計、ケース工作、基板・部品の実装、と大きな問題無く進めることができた。  ケース工作は、ボール盤を持たない素人なので、電動ドリルによる穴あけが難関だ。今回はドリルガイド(藤原産業 DS-70V)を購入して、穴あけがほぼ垂直にでき、ねじ立てのタップ加工もほぼ問題無くできた。              半ば完成の状態            上 フロント側、下 リア側              フロント側                リア側 ■完成  完成して、2日間連続試験運転をした後、PCオーディオのシステムに組み入れた。リニア電源3系統が、それぞれ安定した動作をしている。出力変動、発振、異常発熱等は見られない。  クロックを含め、しばらく使ってから、また報告したい。


■その後の報告 2024年4月  しばらく使って報告というつもりが、すっかり遅くなった。電源完成のしばらく後、PCオーディオのシステムに不具合が発生して音が出なくなり、ほかに用事もあったので後回しになった。  この間、CDの再生環境を一新した。長く使ったCDプレイヤー TEAC VDRS-50を、同じTEACのPD-505Tに変更した。DACを内蔵していないCDトランスポートなので、手持ちのDAC TEAC UD-701Nにデジタル信号を送ってアナログ信号に変換する。PD-505Tには10MHzクロック入力端子があるので、サイバーシャフト社のトランス型2分配器を追加で購入し、10MHzクロックをUD-701N(DAC)とPD-505Tの両方に接続した。UD-701Nはこうした接続を想定し、同期接続「クロックシンク」の設定ができる。これを目的にPD-505Tに変更したわけだ。それやこれやで、CDの再生音質は数段向上した。PCオ―ディオとの音質差がぐんと縮まった。  PCオーディオの不具合は、ミニPCのCMOS電池の寿命、LANポートの接触不良あたりが原因だったようで、紆余曲折あったがどうにか解決した。  ということで、PCオーディオのミニPC2台の電源、10MHzクロックの電源として作成したマルチ電源3号機Ver.2が、ようやくフル稼働となった。 ●制作したマルチ電源の音質への影響  結論を言えば、超低ノイズのマルチ電源の音質への効果は、わからない。  PCオーディオのミニPC2台の電源としては、それまでの鉛バッテリーとどちらが良いかだが、既にバッテリーを廃棄していて現物で比較できず、記憶との比較になる。理屈の上では、電池はノイズ皆無のDC電源だからマルチ電源より優るが、音質の優劣は認識できなかった。まあ、実用上、LT3045は電池並みと言って良いのでは。  10MHzクロックの電源としてだが、サイバーシャフト社は、常時通電でのクロック使用を推奨し、また、本来の性能発揮のためには2週間程度の通電が必要と言っている。電源を交換すると改めて2週間必要となり、取っ替え引っ替えして比較することができない。そんな制約があり、マルチ電源と、完成まで仮接続していた可変定電圧電源(LM350使用リニア電源)との音質差があったのか、分からない。私としては、手間とコストに見合った差があると思いたい。(少なくとも悪くなってはいない。) ●クロックの音質への影響  マルチ電源が稼働し、連続通電して3か月、クロックは十分に安定状態になっている。改めて試聴し、クロックの音質への影響を確認した。(試聴は、ULTRASONE Edition9 ヘッドフォンとスーパースワン スピーカーで実施)  CDの再生環境は、上記のとおりDAC UD-701NをCDトランスポートPD-505Tに接続し、その両方に10MHzクロックを供給できる。  UD-701NもPD-505Tもそれぞれ外部クロックを使うか、内蔵クロックを使うか、設定メニューで簡単に切り替えることができる。すなわち、DACとCDT(CDトランスポート)のクロックについて、①どちらも外部クロック、②DACだけ外部クロック、③CDTだけ外部クロック、④どちらも内蔵クロック、という4通りを聞き比べることができる。  比べてみると、やはりクロックは音質に効く。音質は①>②≧③>④の順だ。①と④の差は、聴いてすぐにわかる違いである。  ①について、感想を言葉にして並べると、滲み・ぼやけがあったのが焦点が合ってはっきり見える感じ、音が鮮やか、音に芯がある、滲みが無い、リアルな音、自然な音、原音と残響の区別がつく、残響が多い、音場がスピーカーの外に広がる(左右・上下・前後奥行)、音色のニュアンスが聴き取れる、演奏が上手に聴こえる、聴いてワクワクする、もっと聴いていたい、といった印象だ。  ④はそうした印象の逆で、膜がかかっている、鈍い感じ、凡庸な感じ、残響が少し汚い、音場が狭くなる、ffがうるさく感じる、といった感想だ。  ④がそんなにまずいのか。普通には良い音と思う。これだけ聴く限りは取りたてて不満無い音質なのだが、比べるとつまらなく聴こえてしまう。  ②DACだけ外部クロック、③CDトランスポートだけ外部クロックについては、どちらも少し聴く限りは①と大差無いが、聴いているうちに、何か鈍い感じ、リアルさが薄れた感じがしてくる。ワクワク感までいかない。②と③では②が上で、クロックを一つの機器に接続するならば、やはりDACだろう。  CDをリッピングしてサーバーに置いた音源を、2種のレンダラー lightMPD UPnPGW、(ネットワークプレイヤーとしての)TEAC UD-701Nで聴く場合も、(DACとしての)UD-701Nに10MHzクロックを接続すると音質が向上する。  外部クロックは必然の品ではなく、内蔵のクロックで用が済むのにわざわざ付け加えるものだ。そして、そこそこ高価だ。誰しも、音質向上効果がどの程度かわからず、購入の決断ができにくい。事前に試用できれば良いが、安定稼働に時間がかかり、接続してすぐ試聴できないのでそれも難しい。  接続するDACにもよると思うが、私のTEAC UD-701Nの場合は、一段階か二段階か高音質・好音質になる効果があった。導入して満足している。10MHzクロックの接続によって、音に何かクセや個性が付くわけではなく、自然な音、本来の音のまま、より高音質になるのでデメリットは無い(購入費用以外には)。そのことは言えると思う。  効果の度合が費用に見合うかどうか。そこは一人一人の主観の問題であり何とも言えない。 ●2024年4月現在の機器構成 NAS DELA N-100 (サーバー Twonkey Server) [自作超低ノイズ電源] ↓ スイッチングハブ アライドテレシス AT-GS910/5 [同上] ↓ ↓ ↓ UPnPGW ミニPC PC Engines APU.2C4 (lightMPD/upnpgw) [同上] ↓ Player ミニPC MINISFORUM GK50 (LightMPD/upnpplayer) [同上] ↓ ↓ ↓ ↓ CDトランスポーター TEAC PD-505T ↓ ↓ (10MHzクロック サイバーシャフト Palladium OP-16を接続) ↓ ↓ ↓ DAC・ネットワークプレイヤー・ヘッドフォンアンプ TEAC UD-701N↓ (10MHzクロック サイバーシャフト Palladium OP-16を接続) ↓                     ↓ プリメインアンプ SONY TA-A1ES      ヘッドフォン ULTRASONE Edition9 ↓                          Sennheiser HD-650 スピーカー 長岡鉄男スーパースワンD101S         Fostex T60RP       (Fostex MG100HR-S)