10MHz外部クロックの導入 - 2024年4月
「10MHz外部クロック」と聞いて何のことか知る人は少ないと思うが、オーディオ用の機器についてのややマニアックな話題だ。既製品であり、電気工作プロジェクトといえないが、このクロックの電源を自作して別記事にしているので、その関連で記す。 超低ノイズ・リニア電源 マルチ電源3号機Ver.2 2024年1月 頑丈なラック右上の小さい機器がサイバーシャフト Palladium OP-16 ■サイバーシャフト Palladium OP-16 の購入 一昨年(2022年)4月にUSB-DAC(兼ネットワークプレイヤー、ヘッドフォンアンプ) TEAC UD701Nを導入したが、同機についての雑誌記事を読み、10MHz外部クロック(記事ではTEAC CG-10M)を付加すると音質向上が期待できると知り、関心を持った。外部クロックについて雑誌やインターネットの情報を探し、サイバーシャフト社製のOCXOクロックに行きついた。 同社のクロックは電源に特徴がある。本体電源回路、別売外部電源のそれぞれに、ノイズ除去性能が極めて高いレギュレータIC LT3045を使用し、高周波ノイズ対策を2段構えで行って万全を期している。ここまで電源のノイズ除去に配慮した製品ならば信頼できると考え、2023年12月に同社のクロック Palladium OP-16を購入した。 その外部電源だが、同じIC LT3045を使った経験があるので、別売品をあえて購入せず、上記関連記事のとおり自作した(マルチ電源3号機Ver.2)。 ■クロックのエージング、ウォーミング・アップ オーディオ製品は、アンプであれ、スピーカーであれ、新品状態ではすぐに良い音は出ない。数日間、あるいはもっと長く慣らし運転をしてエージングする必要がある。 エージング後は、アンプ、DACなどは電源を入れるたびに30分~2時間回路に通電し(できれば音を出して)、ウォーミング・アップする必要がある。私はわからないが、耳の良い人は、電源を入れ時間が経つにつれてどんどん音が変わるという。それでは電源をいちいちON・OFFせず、1年中入れっぱなしにしたら良いかというと、アンプの寿命が縮まるのでよろしくないようだ。 サイバーシャフト社の取扱説明書(第1.4版)は、これに関してどう説明しているか。 第一に、電源投入直後の動作だが、出力周波数10MHzを数回上下動させ、適正値に自己補正する初期動作を行うという。出力周波数が大きく変動するため、電源投入直後15~20分程度は音出しを控えてほしいとしている。他方、OCXOユニットの恒温槽(オーブンと呼ばれる)が規定の温度(60~70度)に到達するまで、15分程度かかるという。これら二つのことから、「電源投入してから約30分程度でレベルがほぼ安定した状態で出力が得られます」、「その後、特性が安定するまで60分程度必要です」と記されている。これは一般のウォーミング・アップにあたる。 第二に、一般常識と大きく違うが、常時通電を推奨している。これは、「OCXO本体の電源を常時通電することで、徐々に特性は上昇して2週間程度でOCXOの本来の特性を発揮します」との理由からだ。いったん電源をOFFにすると特性がリセットされ、再通電による復帰に時間がかかることになる、という。短い休電なら特性の復帰は早く、3分程度の休電なら30分程度、数時間の休電なら休電時間の5~6倍の通電で復帰とのことである。 すなわち、一般的なウォーミング・アップ時間(60分程度)で一応安定するが、本来の特性発揮には約2週間かかる、というのだ。したがって、1年中電源入れっぱなしの常時通電を推奨、となる。 常時通電は、表向きには電源入れっぱなしで良いので楽だ。ただ、付随する注意事項として、近隣への落雷によるサージ電流によってダメージを受ける恐れがあるので、雷雲が近づいた場合は、電源その他の接続を全て外すことが推奨されている。丸一日外した場合には、改めて2週間の連続通電が必要となると思われ、取扱いとしてなかなか厄介だ。 雷サージ電流は、わが家でも洗濯機のマイコンがやられたことがあり馬鹿にできない。ごく近くの落雷は年に1回あるかないかだが、雷注意報はけっこう頻繁に出る。雷雲の接近は急で気が抜けないので、7~9月はクロックを含めオーディオ機器の電源プラグを外し、オーディオ休止期間にしている。 他社の外部OCXOクロックも、「本来特性の発揮には2週間程度かかる」や「常時通電」が言われているのだろうか。 TEAC CG-10Mの説明書を見ると、「水晶発振器 (OCXO) の発振周波数が安定するまで2分程度かかります。長期間使わない場合は、本機の電源スイッチをオフにしてください」とある。また、恒温槽温度安定はメーターで確認できるが、「実際に使用する場合は10分を目安としたウォームアップををお勧めします」とある。ESOTERIC G-05の説明書もほぼ同様だ。一般的なウォーミング・アップ時間であり、常時通電は言われていない。 おそらく、TEAC社の「10分を目安としたウォームアップをお勧めします」も、サイバーシャフト社の「2週間程度でOCXOの本来の特性を発揮」も、間違ったことは言っていないのだろう。他のオーディオ機器と同様の使い勝手を重視するのがTEACであり、科学機器として性能をとことん追求するのがサイバーシャフト、という立脚点の違いではないか。われらユーザーは、どちらを重視してクロックを選択するかだ。 なお、新品機器のエージング(慣らし運転)だが、サイバーシャフト社のOCXOクロックの場合は、新品のOCXOユニットを数か月間社内校正し、安定したオーディオ用クロックとしての特性を持つ個体のみを選別し、グレードづけして使用していることが説明書に記されている。実際、製品にはグレードの証明書と特性の測定結果が附属していて、品質を保証している。この校正・選別過程で、エージングは個別になされていると推測される。 ■オーディオ機器構成の変化 ●CD再生機器 DACへの接続を念頭に購入したクロックだが、CD再生機器にも接続することにした。 CDプレイヤーについては、長年TEAC VDRS-50を使ってきたが、同じTEACのPD-505Tを購入し、CDの再生環境を一新した。 PD-505TはDACを搭載していないCDトランスポートだ。デジタル信号をDAC TEAC UD-701Nに送ってアナログに変換する。 PD-505Tは10MHzクロック入力端子を持つ。サイバーシャフト社の2分配器(トランス型)を追加購入することで、クロックを分配し、10MHzクロックをUD-701N(DAC)とPD-505Tの両方に接続できる。UD-701Nはこうした接続を想定しており、同期接続「クロックシンク」の設定ができる。 このDAC、CDトランスポートの両方にクロック接続することを目的に、PD-505Tに変更したわけだ。 それやこれやで、CDの再生音質は数段向上し、PCオ―ディオとの音質差がぐんと縮まった。 ●PCオーディオシステム ちょうどこの頃、PCオーディオのシステムに不具合が生じて音が出なくなった。 ミニPCのCMOS電池の寿命、LANポートの接触不良あたりが原因だったようで、紆余曲折あったがどうにか解決した。 ■クロックの音質への影響 マルチ電源が稼働し、連続通電して3か月近く経た時点で、改めて試聴し、クロックの音質への影響を評価・確認した。クロックは十分な安定状態になっているはずだ。(試聴は、ULTRASONE Edition9 ヘッドフォンとスーパースワン スピーカーで実施) CDの再生環境は、上記のとおりDAC UD-701NとCDトランスポートPD-505Tのセットだ。 その両方に10MHzクロックを供給できるが、どちらも外部クロックを使うか、内蔵クロックを使うか、メニューの設定でソフト的に切り替えることができる。すなわち、DACとCDトランスポート(CDT)のクロックについて、①どちらも外部クロック、②DACだけ外部クロック、③CDTだけ外部クロック、④どちらも内蔵クロック、という4通りを簡単に切替て聞き比べることができる。 比べてみると、やはりクロックは音質に効く。音質は①>②≧③>④の順。①と④の違いは、聴いてすぐにわかる。 ①について、感想を言葉にして並べると、音が鮮やか、音に芯がある、滲みが無い、リアルな音、自然な音、原音と残響の区別がつく、残響が豊か、音場がスピーカーの外に広がる(左右・上下・前後奥行)、音色のニュアンスが聴き取れる、音程の滲みが無くなった(演奏の音程良し悪しがこれまで以上にわかる)、演奏にしみじみとした滋味がある、演奏が上手に聴こえる、聴いてワクワクする、もっと聴いていたい、といった印象だ。 例えて言うと、少しぼやけて見えていたものが、眼鏡をかけ焦点が合って明確に見えるようになった、という感じだ。変に強調されて鮮やかになったわけではなく、もともとのものが焦点が合うことで隅々まではっきりした、という感じだ。 ④はそうした印象の逆で、薄膜がかかっている、鈍い感じ、凡庸な感じ、残響が少し汚い、音場が狭くなる、ffがうるさく感じる、といった感想だ。 表現が大げさになったが、実際のところは④も悪い音、ぼやけた音では決してない。④だけ聞く限り特に不満無い音質だが、①と比べるとつまらなく聴こえてしまう、ということである。 ②DACだけ外部クロック、③CDトランスポートだけ外部クロックについては、どちらも少し聴く限りは①と大差無いが、聴いているうちに、何か鈍い感じ、リアルさが薄れた感じがしてくる。ワクワク感までいかない。②と③では②が上で、外部クロックを一方に接続するならば、やはり出口に近い②DACだろう。 CDからのリッピング音源を、lightMPD 及び(ネットワークプレイヤーとしての)TEAC UD-701N、という二種類のレンダラーで聴く場合も、UD-701NのDACにクロックを供給することにより、音質向上の効果がある。 ■クロックの選択・購入は賭け クロックは、DACチップと並んでDACの音質を決める中心部品なのだろう。クロックによってDACが高音質化するなら、内蔵クロックを上質のものに換えれば良いように思う。しかし、高精度OCXOとなると、クロックユニットの選別や低ノイズ独立電源などが必要となり、製品価格が数十万円も上がってしまう。さらに、常時通電の仕様にすれば使い勝手が悪くなってしまう。そのため、高精度OCXOクロックを搭載するDACはごく少ない。高級DACであっても、そこそこの内蔵クロックにとどめ、外部クロック接続端子を設ける、という事情なのだろう。 外部クロックは、オーディオ機器の中でも副次的な製品だ。必須では無く、DACやCDプレイヤー、ネットワークプレイヤーが内蔵クロックで問題無く音が出ているのに、わざわざ追加しようという品だ。そのくせ、かなり高価だ。購入するわれわれは、外部クロックの有無による音質への効果がわからないのだから、購入の決断はハードルが高い。 さらに、サイバーシャフト社のクロックの場合、5万円弱のOP-4から30万円ほどのOP-19、さらに90万円近いOP-21まで、精度による何段階ものグレードがある。本体はどれも基本的に同じで、OCXOユニットのグレードが異なるだけで容赦なく値が上がる。OP-21グレードとなると、ごく僅かな選別ユニットなので製作数が限られ、この価格になるのだろう。 全ての製品は、個別に位相雑音特性と短期周波数安定度(アラン分散)を測定してグレードづけされており、同グレード内での「当たり」「外れ」はない、と保証されている。しかし、グレードにより音質が実際にどう違うのかわからない状態であり、グレードの選択は「賭け」になってしまい、決断できにくい。 事前に試聴・試用できれば良いのだが、上述のとおりクロック本来の性能発揮に2週間もかかるのでは、簡単にとっかえひっかえの試聴ができず、それも難しい。 私は、音質への効果がわからないまま、20万円以内と予算枠を先に決めて、えいやで中位グレードのOP-16を購入した。 Palladium OP-16を購入してどうだったか。 接続するDACにもよると思うが、私のTEAC UD-701Nの場合は高音質・好音質になる効果があった。OP-21はともかくとして、OP-17、18、19を購入していれば、多分さらに高音質なのだろう。が、それは際限が無くなる話だ。手持ちのオーディオ機器との均衡もある。だいたい、音源録音の際のクロック精度はそもそもどうなのか、という問題だってあるだろう。 今の自分は音より音楽を楽しむ聴き方であり、毎回毎回さほど真剣に音質を意識して聴くわけではない。現状の機器とOP-16を組み合わせた音質はこれまでのオーディオ歴を振り返っても最良であり、満足していて、これ以上は望まない。 10MHz外部クロックは、接続によって音に何かクセや個性が付くわけではなく、自然な音、本来の音のまま、より高音質になるので、導入はメリットがあり、デメリットは無いと思う。購入費用以外には。 しかし、誰もが導入の結果、効果に満足できるかどうか、効果が費用に見合うと感じるかどうか、そこは一人一人の主観の問題、機器構成の問題があるので何とも言えない。 ■PCオーディオの地位低下 2024年5月 そもそも「PCオーディオ」とは、15~20年前に始まった、CDからリッピングした音源データを汎用パソコン(Windows機やMac機)とUSB-DACを使って再生する方法だ。その後、音楽再生に特化したOS一体の軽量ソフトを、ミニPC、シングルボードPC上で使うようになった。今はさらに発展し、イーサーネットLAN上のサーバーに置いた音源データを再生するレンダラー機器という点で、自作したPCオーディオプレイヤー(わが家ではミニPC2台によるlightMPD)も、市販品のネットワークプレイヤー(わが家ではTEAC UD-701N)も同列になっている。もはやPCオーディオという概念が陳腐化し、ネットワークオーディオの概念に吸収された形だ。 今回、DAC(TEAC UD-701N)に10MHzクロックを接続し、改めて二つのレンダラー、lightMPDとTEAC UD-701Nを比較試聴した。それぞれ有利な点、不利な点があると思うが、結果として両者の音質はほぼ変わらないと聴こえた。接続ケーブルによる音質差の方が大きいくらいだ。これは、lightMPDの音質が低下したわけではない。DACへの10MHzクロックの接続によってlightMPDもUD-701Nも音質が向上した、そのうえで両者の差、優劣がほとんど無いと確認した、ということである。 音質面で互角となれば、操作性は市販製品のUD-701Nの方が洗練されているし、動作が安定して不具合が生じにくい。音源として音楽ストリーミング・サービスも利用できる。一方、残念ながらlightMPDはアップデートが無くなり、今以上の音質向上、機能向上が見込めない。使い続ける根拠が薄くなった。 これまでわが家で主役の座にあったPCオーディオだが、地位が危うくなってきた。 加えて、上記の試聴のとおり、CDの再生音質もDACとCDトランスポートの両方に外部クロックを接続することで数段向上した。さらに、CDトランスポート-DAC間のデジタル同軸ケーブルを銀単線切売りケーブル(オヤイデ FTVS-510)で自作したら、一層高音質・好音質になってしまった。何と、PCオーディオ、ネットワークオーディオに優るとも劣らないレベルになった。 CDプレイヤーによる再生は、CDからデジタル信号を読み取りながら、読み取りエラーの訂正、アナログ信号への変換・出力をリアルタイムで連続的に行う。PCオーディオ、ネットワークオーディオによる再生は、リアルタイムという制約が無く、プロセスを分化、純化して行う。デジタル信号を着実に読み取り、いったん記憶媒体に蓄えて余裕をもって無理なく再生できるので、原理的にはるかに有利と言われてきた。実際、これまでわが家でもPCオーディオの方がCDプレイヤーより高音質だった(CDプレイヤーとしてTEAC VDRS-50を使用)。このため、CDプレイヤーは専らCD購入直後の試し聴きに使い、本格的に聴くにはCDをリッピングしてPCオーディオ(lightMPD)を使っていた。 が、CDを直接再生して高音質ならば、わざわざCDをリッピングするPCオーディオやネットワークオーディオの存在意義は薄れる。 今後は、ネットワークプレイヤー(TEAC UD-701N)とCDトランスポート(TEAC PD-505T)を使い分けることになるだろう。PCオーディオ(lightMPD)は、自作の要素があって愛着があるが控えになるだろう。また、ネットワークプレイヤーの音源は、CDリッピングにこだわらずストリーミング・サービスに重心を移していくかもしれない。 PCオーディオ用・クロック用の電源制作が発端となって、PCオーディオが相対的に地位低下し、制作した電源の必要性も低下する、という皮肉な成り行きとなった。少々複雑な気持ちだが、全体として音質が向上したことは歓迎すべきだろう。 ■2024年4月現在の機器構成 *自作超低ノイズリニア電源を使用 NAS DELA N-100(サーバー Twonkey Server)* ↓ スイッチングハブ アライドテレシス AT-GS910/5* ↓ ↓ ↓ UPnPGW ミニPC PC Engines APU.2C4 (lightMPD/upnpgw)* ↓ Player ミニPC MINISFORUM GK50 (LightMPD/upnpplayer)* ↓ ↓ ↓ ↓ CDトランスポーター TEAC PD-505T ↓ ↓ (10MHzクロック サイバーシャフト Palladium OP-16* を接続) ↓ ↓ ↓ USB-DAC・ネットワークプレイヤー・ヘッドフォンアンプ TEAC UD-701N↓ (10MHzクロック サイバーシャフト Palladium OP-16* を接続) ↓ ↓ プリメインアンプ SONY TA-A1ES ヘッドフォン ULTRASONE Edition9 ↓ Sennheiser HD-650 スピーカー 長岡鉄男スーパースワンD101S Fostex T60RP (Fostex FE108SS-HP)