PCオーディオ用5V・12Vマルチ電源の自作
 - 鉛バッテリーの失敗談も 2015年3月

■5V、12V電源  PCや周辺機器をオーディオに使うようになり、5Vや12Vの直流を電源とすることが多くなった。  おとなしく、5VならパソコンのUSBバスパワーを、12Vなら製品付属のACアダプタを使えば良さそうなものだが、オーディオ用途となると、もっと良質な電源が望ましい、スイッチング電源でなくトランスを使ったリニア電源がよろしい、といった議論になる。そこで、そこそこ高価なPCオーディオ用の直流定電圧電源が市販されるようになっている。  電源は様々なオーディオ機器の基礎であり、今さらながらの話だが、そうなってくると電気工作派としては自作意欲が生じる。  わが家の場合も、スイッチングハブや小型PC(Cubox)が5Vを使う。12Vは、小型PC(ALIXやAPU.1D4)、NAS、無線LAN子機(として使っている無線LANルータ)用として必要だ。  これらに使う5V、12Vのリニア電源、バッテリー電源を自作し、USBバスパワーやACアダプタと置き換えたのでご紹介する。その過程で生じた鉛バッテリーの失敗についても、ご参考までに。 ■2011年6月作成のPCオーディオ用5V・12Vマルチ電源  この年、PCオーディオ専用の小型PC、NASを導入した。これらは12Vが必要。USBバスパワーを使う機器用に5Vが必要となる。何回路もDC電源が必要になってきたため、1台でまとめて複数機器に供給できるマルチ電源を作ることにした。  PC用の12Vはバッテリー電源だ。12V鉛バッテリーを用い、AC100Vラインから完全独立させることにした。  NAS用の12Vはリニア電源。ハードディスクの起動時に大きな電流が流れるので、大きめの5Aのトランスを使い、3.5A出力にした。  5Vもリニア電源。外付けハードディスクなど大電流機器に対応できるよう、3Aのトランスをおごって2A出力とした。  少し工夫したのは、電源スイッチをOffにすると、鉛バッテリー充電回路が動作を始め、自動的に充電するようにしたことだ。(工夫といっても、3極双投形スイッチを使って切り替えを連動させただけのことだが。)  また、NAS用12Vは、ハードディスクの電源をいきなりOffにしてはまずいので、常時Onにした。  構成はこんなふうになっている。      測定機用の大型ケースの少し古いものが安く売られていて、これを使った。高さがあって2段に使える。上段にNAS用の12V定電圧電源、下段には天地逆さまにして鉛バッテリー充電用電源、5V定電圧電源、計三つの電源回路を納めた。スペースはこれでほぼ一杯だ。ケース前面のメーターは、鉛バッテリーへの充電状況をモニターするための電流計。          鉛バッテリー充電用は、秋葉原の東栄変成器の東栄の16V/1AトランスJ161と、同じく秋葉原の秋月電子の鉛バッテリー充電器用基板を使っている。鉛バッテリー自体は、ケースには納まらず、脇に置いた。  秋月でGSユアサの小型制御弁式鉛蓄電池PXL 12072を購入した。12V 7.2Ahのバッテリーだ。7.2Ahとは、放電電流1Aなら7.2時間放電できるということで、必要十分な容量だ。バイク用ではなく、無停電電源装置などの電気機器用だ。ゴムの弁がついているようだが、基本的に密閉で、補水などのメインテナンスは要らず、室内に置ける。鉛バッテリーの12Vは、現在、小型PC(APU.1D4)用の電源にしている。  12V/3.5A電源は、東栄の16V/5AトランスJ165と、秋月のキット、可変出力三端子レギュレータLM338を使った定電圧安定化電源基板を使っている。これは、NAS用。  5V/2A電源は、東栄の3AトランスJ803と、「お気楽オーディオキット資料館」サイト頒布のシャントレギュレータTL431を使用した定電圧安定化電源基板で構成している。これは5Vの機器用だが、USB-DACとスイッチングハブの電源にしている。  それぞれ安定して電源供給をしており、問題点や不満は特にない。  鉛バッテリーも、液漏れや異臭、異常な温度上昇などが無く、室内に置いて問題無かった。ただし、その後、後述する問題が生じた。  製作後、小型PCをはじめ相手の機器が少しずつ変わったが、電流容量に余裕があり、中継接続用コネクタを介してφ2.5、φ2.1のDCプラグに出力しているので、変化に対応できている。  さて、肝心の結果だ。オーディオ用途として、この電源に換えて音は良くなったのか。  12V電源については、製作当時、他の12V電源が手元に無く、比較対照していない。あいすみません。(最近やっと、鉛バッテリーの音質比較をし、このページ末に記載している。)  5V電源については、その後2013年7月に5Vを電源とするサーバPC(Cubox)に変更した際に、Cuboxの電源として使用し、他の電源と比較試聴した。 ①このシャントレギュレータ定電圧電源 ②Cubox付属の5V2Aスイッチング方式の中国製ACアダプター ③5V2AのTRACO社のスイッチング電源 ④ジャンク品で買った5V5Aのトランス式定電圧電源。松下電器製の年代もので、業務 用の重量がある代物。①・④がリニア電源、②・③がスイッチング電源ということになる。  結果は、①≒③>④>②だった。  ①と③はfレンジ、dレンジがあり、差は僅少。スイッチング電源でも良いものは良い。④はdレンジは大だがfレンジは小。コンデンサーなどの部品を更新すれば変わるかも。②は低音が強調され、高音は後退しておとなしく迫力が無い。 ■鉛バッテリー失敗談(2015年3月)  2015年1月にPCオーディオの入れ替えをした。  もともと私は、「PCオーディオ実験室」http://www.yung.jp/bony/というサイトに導かれて、2008年頃にPCオーディオに移行した。このサイトは、PCオーディオの試行錯誤の積み上げを丁寧に記載していて、これまで大いに参考にさせていただき、感謝している。  これまで、このサイトで紹介されたソフトとPCの組み合わせを導入して来たが、最近は同じMPDというフリーソフトではあるが、よりシンプルなlightMPDというものが開発されて話題になっているので交換することにした。サーバPCもPC Engines社のAPU.1D4に変更することにした。lightMPDは、「デジファイのおと」というサイトで開発されていてダウンロードできる。https://sites.google.com/site/digififan/homeこちらにも大感謝だ。  サーバPCの電源電圧は、12VのALIX 3D2から一度5VのSolidrun Cuboxに代わり、今回またAPU.1D4で12Vに戻ることになった。1年半ほどのCubox時代、使わなかった鉛バッテリーの再登場だ。  新たなシステムも無事に音出しができるようになった。ところがトラブル発生。電源を入れて、音が出て30分ほどすると、音が途絶えてしまう。LAN接続が切れ、APU.1D4がカチカチと再起動を繰り返すような音を出す。再度、電源を入れ直しても、1分足らずで同じ現象が出る。  結論から言えば、その原因は鉛バッテリーの「上がり」による電圧低下だった。  鉛バッテリーには、長期間使わず自己放電した状態でいると電極が劣化して充電できなくなる「サルフェーション」現象がおきる。そもそも、数年で寿命が来る。  購入して3年半、使わず放置して1年半のバッテリーなので、寿命なのか、サルフェーションなのかだ。浅い充電しかできなくなっていて、0.5~1Aと意外に大電流のAPU.1D4では、すぐに電圧が低下してしまうのだろう。  この結論にたどり着くまで、半月も迷走してしまった。  まずは、再生する音源ファイル側の問題、Light MPDのソフト側の問題、APU.1D4側の問題、それぞれの可能性を考えた。その中で、放熱に弱点がありそうなAPU.1D4なので、CPUの熱暴走を疑った。鉛バッテリーの無負荷電圧が13.3Vと高めなので、これが問題かと考えた。その後、バッテリー以外の電源を試して問題が生じないこと、バッテリーでは12Vに電圧を下げても問題が生じることを実験して、ようやく正解に至った。  結局、鉛バッテリーの新品を秋月電子で購入し、交換した。同じ12V 7.2Ahだが、今回は消耗品と割り切って、1,600円と廉価な台湾のLongのものにした。結果はOK。連続運転して問題ない。  推論つたな過ぎ、結論遅過ぎの失敗だった。  この間、APU.1D4を購入したヤマモト・ツール・ワークスにメールで問い合わせ、着払いでボードを返送すれば問題を確認する、不良なら交換する、との申し出をいただいた。即日返信をくれたことも含めて、対応が大変誠実、親切であった。恐縮しつつ、特に付記しておきたい。 ■鉛バッテリー電源のメリット・デメリット  オーディオ用途として鉛バッテリーに興味を持っている方も少なくないと思うので、頓馬な失敗をもとに、メリット、デメリットを整理しておく。  鉛バッテリーは、性能面ではメリットがある。独立した電源系統なので、ACラインに乗ったノイズを受けず、また機器が発するノイズをACラインに乗せることも無い。音質的にメリットが期待できる。  バッテリー自体の購入コストも低廉だ。  一方、運用面、維持管理面で手間やコストがかかるのがデメリットだ。  まず、電圧は公称12Vだが、実際は満充電時は約13.5V、使っていくと約12.5Vとやや高めなので留意が必要だ。APU.1D4の場合は12V電源とされているが、問題なかった。電池は内部抵抗が高いので、パルス的に大電流で変動する今回のようなPCの電源にするには大容量コンデンサーを並列した方がより良いのかも。  小型制御弁式のバッテリーは、密閉されており、室内に置いてもこれまでのところ液漏れなどのトラブルを経験していないが、時々点検すべきだろう。  PCの電源に使うと意外に大電流なので電池がもたないようだ。使用のたびに、ちょくちょく充電しなくてはならない。試していないが、私の使い方での連続使用時間は、新品のバッテリーでも10時間くらいがせいぜいなのではないか。BGMとして一日流しっぱなし、という用途には向かない。まして、スイッチの切り忘れはまずい。常時電源Onが基本のNASや無線LANルータの電源にも向かない。  充電は、専用の充電器を購入するか、秋月電子の鉛蓄電池充電器キットの基板で自作することが必要だ。相応のコストがかかる。また、鉛バッテリーの特性から常に満充電状態にする運用が望ましく、使用ごとに充電が必要だ。が、手でいちいち充電装置に接続し直すのは煩わしいので、自動的に充電に切り替わるような仕組みにしておくと良い。接続作業中にうっかりショートさせると危険だし。私の場合は、上述のように切り替えスイッチを使って工夫したが、電気工作をしない人には敷居が高いかもしれない。  また、今回の私の例のように、サルフェーションや寿命があって数年で電池の交換が必要だ。半永久的に使えるものではなく、消耗品なのだ。 ところが、使用後の鉛バッテリーの廃棄が少し厄介だ。自治体の廃棄物回収の対象にはなっていないのだ。バイクや車のバッテリーの載せ換えならば、修理店で引き取りなのでそれで良い。個人が家庭で鉛バッテリーを使うこと自体が想定外なのだろう。どうしたものか困ったが、今回の私の場合、販売店である秋月電子が引き取ってくれた。店のウェブサイトには引き取りについてコメントが無いが、店で確認したところ、直接持参すれば引き取りますとのことであった。運ぶのが一手間だったが無事回収してもらうことができた。  鉛バッテリーは、本質的な性能は優れているが、維持管理について常に気にかけている必要があり、やはり面倒だ。一般ユーザーにとって、デメリットがメリットを上回る感じであり、積極的にはお勧めできない。 ■2015年3月作成の12V定電圧安定化電源  上記のように、鉛バッテリー問題は新品に交換することでとりあえずは解決したが、今後も何らかのトラブルが生じるかもしれないので、この際、予備用にオーソドックスなトランス式の12V定電圧安定化電源を作っておくことにした。  手持ちのパーツをさらったら、「お気楽オーディオキット資料館」サイト頒布の電源基板がもう1枚あった。5V電源と同じくシャントレギュレータTL431を使う回路だが、2本の抵抗の組合せで出力電圧を設定でき、負荷変動にも安定で、信頼して使える。大変な優れものだ。±電源用だが片側だけ使えば良い。必要なパーツもほとんど手元のものでまかなうことができる。残るはケースと電源トランスだけだ。  電源トランスは14V3A級が適切。秋葉原のいつもの東栄トランスでJ163(16V3Aで、14Vタップを備える)を購入した。ケースは、ちゃんとした箱でなく、バラック仕立てで良いことにし、250mm×100mmのアルミ板を3枚購入した。2mm厚の2枚を重ねて底板。1.5mm厚の1枚が天板。加工と、将来の改造のし易さが狙いだ。手抜きとも言います。  完成後の音質は、鉛バッテリーと比べてどうなのか?  10時間ほど慣らし運転をした上で、サーバPC(APU.1D4)として使用し、比較してみた。「デジファイのおと」サイトでCubox用のlightMPDも出たので、Cubox と5V電源の組合せも併せて比較した。  nfsマウント、udpプロトコル、MPDクライアントAuremo、Oppo HA-1 USB-DAC・ヘッドフォンアンプ(-20.0dB)、ULTRASONE Edition9 ヘッドフォンという条件である。  ①APU.1D4 + 鉛バッテリー電源 12V  ②APU.1D4 + 今回作成のシャントレギュレータ定電圧電源 12V  ③Cubox + 2011年作成のマルチ電源(シャントレギュレータ定電圧電源)5V  私の耳では、①と②は同じ印象で差が無く、区別がつかない。鮮度がありつつ自然な音で良い。①の高域がより伸びているか、とも思うが先入観の作用だろう。鉛バッテリーとトランス式の定電圧電源は、予想ほどの差が無かった。  ③は少しだが違いがある。迫力は同様に持っているが、音色がわずかに明るめ、軽めだ。これは特徴の違いで、優劣というものではない。  私としては、サーバPC用としては①を常用し、②をその予備だが普段は無線LAN子機用に使用。③の組合せはたまの気分転換用にすることにした。   ・できあがった12V/2A電源。     ■その後の鉛バッテリー交換(2016年5月)  鉛バッテリーをサーバPCのAPU.1D4の電源にするようになってまだ1年と少しだが、充電が浅くなる徴候が出てきた。5時間ほどでフル放電に達し、電圧が低下してしまう。  少し使ってはすぐ満充電にする運用をして、鉛電池の特性に合わせてきたつもりなのだが、早くも寿命か。使用頻度も2日に一度程度なのに。  仕方がないので、秋葉原の秋月電子に行って鉛バッテリーをまた購入し、交換した。12V 7.2Ahをこれまで使ってきたが、12V 12Ahにした。容量が1.7倍になり、さらにゆとりある運用で長持ちすることを期待する。今回も安価な台湾Long製で2,500円也。  当面、これで様子をみたい。