FOSTEX MG100HR-Sを再利用したPC用スピーカー 2022年2月

    フォステクスの10㎝径の限定スピーカーユニットFE108SS-HPが新たに出て、それまでスーパースワンに付けていたFE108-Solから交換したが、更に前に付けていたMG100HR-Sを保管したままなのを思い出した。  2009年4月発売、13年前の品だが、振動板に純マグネシウムを使ったフォステクス社の高級ユニットだ。製造原価は相当高かったのではないか。同年8月から2015年12月まで6年間スーパースワンで使ったが、銀色の金属振動板で、癖が強い暴れん坊のように見えるが、振動減衰特性が優れたマグネシウムなので、実は落ち着いた優等生。クラシック音楽に適していた。  取り出してみると、振動板に小さい傷(錆?)があるもののエッジの劣化は見られず、使えそうだ。捨てるには惜しいので、デスクトップ・パソコン用の小型スピーカーにリフォームして再利用してみることにした。 ■エンクロージャーの設計  振動板面積が小さい10㎝径のフルレンジ・ユニットはどうしても低域の再生が苦手なものだが、MG100HR-Sは磁気制動を強く効かせたf0=70Hz、Q0=0.27というバックロードホーン向け設計で、普通以上に低音が出ない。一方で、m0=5.4gと振動系が重め、出力音圧レベル=86.5dB/Wと高能率ではない。ちょっと珍しい特性だ。バスレフ向け特性のMG100HRが同時発売され、そっくりの外見だったがそれとは違う。  このため、もともと小型スピーカーに仕立てるには向かないのだが、今回は無理を承知で小型化する試みである。まともな音になるかどうかわからない。  目的はPC用スピーカーなので、もともとHi-Fiオーディオの音質は望まない。フルオーケストラの迫力とか、オルガンの重低音、ジャズのぶんぶん響くベースは再生できなくてかまわない。近距離で聴くニアフィールド再生で、そこそこの音質(いわばMidーFi)が目標だ。果たしてそうなるかだ。  10㎝径ユニットなので市販のPCスピーカーより外形が大きくなるが、ディスプレイの両脇に置いて邪魔にならない小型にしたい。高さだけは少し高めの30cm前後にしたい。デスク平面に直置きなので、ユニット位置をできるだけ高くして反射の影響を減らしたいのだ。  エンクロージャーの方式のうち、密閉型は小型化が可能だが、低域がタイトになってそれこそ不向きだ。ダブルバスレフ型はうまくいけば低域を伸ばせるがサイズが大きくなるし、初めての設計ではおぼつかない。ここは、設計法が確立されているバスレフ型をオーソドックスに採用し、ダクトの共振で少しだけ低域を伸ばす方針で行く。  ネット上に、Bachagi.h氏の「密閉/バスレフ型エンクロージャー設計プログラム」が公開されており、周波数特性をグラフ化して設計を支援してくれる。これを使うと、箱の大きさやバスレフ・ダクトの共振周波数をあれこれ変えたシミュレーションができる。大助かりだ。  吸音材の量の多少によっても結構変化して面白い。吸音材「無し」、「少なめ」、「普通」、「多め」からの選択で、多くするほどピークが抑えられ、整った周波数特性になる。「普通」の設定で設計した。  あれこれシミュレーションをしてみると、MG100HR-Sはやはり低域が乏しいが、それでも一般的な10㎝径ユニットに比べて極端に悪いわけではなく、何とか形になりそうだ。バスレフダクトの共振をフルに活用して乏しい低域を盛り上げたい誘惑にかられるが、それはやめた方が良い。低音が締まりなく強調される(ボンつくと表現される)よりも、低域不足でも素直な音の方がよろしい。結局、共振周波数をf0(70Hz)より高く取り、ちょっとだけ低域を伸ばす設計にした。  結果として、外寸 幅14㎝×高さ30㎝×奥行19.5㎝、実内容積約4.3リットル、ダクトは内寸 幅11㎝×高さ0.8cm×奥行7.9㎝のスリット形で共振周波数78Hzという設計になった。PC用スピーカーとしてはかなり大きめだが、まあ許容範囲。設計支援プログラムのおかげで、計算上の周波数特性はまずまず。実際の音は計算どおりにならないと思うが。 ■エンクロージャーの木工工作  あとは電気工作というより木工工作だ。板材は、横浜市南区の米屋材木店で購入。前面バッフルは20mm厚アガチス無垢材、他は15mm厚MDF材に決め、カットを依頼した。この店は、店内に自作スピーカーが置かれているくらいで、スピーカー工作に理解がある。ホームセンターと違って、カットは当日ではなく10日ほどかかるし、費用もお高い。が、カットの正確さは格段の違いだ。  簡単な木工なので細かい説明は省くが、順序を考え、左側板にスリットダクト、次いで天板・底板、さらに前面バッフルと1日1工程で1週間ほどかけて接着を進め、最後に右側板を接着した。木工用ボンドでイモ継ぎだ。正確で強度ある接着のためには、いっぺんに組み立てず、少しずつ少しずつ。背面は、のちのちの調整を考え、接着せずにパッキンを介したM4ねじどめにした。  失敗がやはりあって、最初のダクトの工程で縦横方向を間違えて接着してしまい、修正するはめになった。それ以外も細かく言えばいろいろあったが、何とか出来上がった。15mm厚で補強桟も入れたので、叩いてもコツコツと硬い。    前面バッフルを接着し、自作締め具で2個を背中合わせに固定。    その後、右側面を接着。    背面以外の各面が接着できた段階。この後で背面用鬼目ナットを埋め込む。  塗装は、MDF材が塗料をよく吸い込むため、サンディング・シーラー下塗りが推奨されている。私はMDF板にアクリル画を描いていて、下地としてジェッソ(下塗り用画材)を塗っている。手持ちのジェッソがあるので、これを下塗りに使い、ダークグレーの水性ペイント(同じくアクリル系だ)を塗った。前面バッフルは油性ニスの透明クリアを下塗りし、つや消しクリアで仕上げた。 ■ユニットの取り付け  MG100HR-Sは、パッキンを介して(オリジナルを失くしているので、2㎜厚Poron LE-20で自作)、M4ねじ・鬼目ナットで取り付けた。  内部配線はオヤイデ電気のEXPLORER V2 1.25sqを使い、スピーカー・ターミナルを省いて直かに出し、そのまま延長でアンプに接続する。  ひとつ追加したのは、内部配線を中村製作所のリング状ノイズフィルター「アモルメット・コア」NS-115及びNST-105に通したことだ。音質向上のオマジナイである。  RASTEM RDA-520アンプを介してPCに接続すると、エージング・ゼロの段階だが一応まともな音が出てきた。中高域はしっかり出ているし、低域もジャズのベースが少し軽めだが思ったより聴こえる。悪くない結果で一安心。 ■エージング後の吸音材調整、完成  1週間してエンクロージャーの乾燥が進み、音が落ち着いてきた様子なので、吸音材を入れて完成させることにした。  設計支援プログラムによるバスレフ・エンクロージャーの条件設定は、上記のとおり「普通」とした。ただ、「普通」がどの程度なのか不明だ。吸音材の材料によっても変わるだろう。ここは何種類か試聴して試行錯誤で決めるほかない。  吸音材を入れない状態でまず試聴すると、弦楽器が金属的な音でギスギスとしている。合唱もきつい声でうるさく感じる。2、3m離れた所で聴くなら違うのだろうが、スピーカーをデスク上に置いて80㎝ほどのごく近距離で聴くセッティングなので、細かい音がよく聴こえるし、嫌な音もダイレクトに耳に来るのだ。エンクロージャーがガチガチに堅固なせいもあるかもしれない。  試聴しながら決めていき、結果としては、底面、背面、側面(片側だけ)の三面に次の吸音材を入れた。 底面:フェルト(ウール100%毛糸を編んだものを熱湯で揉み、約5㎜厚フェルトにしたもの) 背面:熱帯魚用のろ過マット(GEX 徳用6枚入り)20㎜厚  及び繊維状の純毛(DAISOのフェルト手芸の素材)を丸めたもの少量 側面:厚手ジャージ(アクリル製か)の約10㎝角の切れ端  これらにより、弦楽器、合唱がうるおいとニュアンスある音に向上した。うるささ、きつさがほぼ解消し、なおかつ、おとなしく整い過ぎず、元気さ・鮮やかさも失われていない。これで調整終了。完成だ。     音を聴くと、思ったよりは低音が聴こえる。と言っても、全体に明るく軽い音で低域が薄く、音の重心が上がっているのは明らかだ。周波数特性はシミュレーションどおりになっているだろうか。  「音階の周波数」という便利なサイトがあって、88鍵のピアノの音階(27.500Hz~4186.009Hz)をサイン波で聴くことができる。測定器による正式なものではないが、耳で聴いてのおおよその周波数特性がわかる。  150Hz以下の低域の音階を順に鳴らして耳で聴くと、110Hzあたりから音圧が少しずつ下がっていくが、60~65Hz付近では多少盛り返し、55Hz以下は一段と下がっていく。30Hzになるとかすかに聞こえる程度だ。低域の周波数特性は、110Hzあたりからダラ下がりで60Hzまで伸びている感じだ。設計支援プログラムによる計算上の特性とだいたい一致している。10㎝径フルレンジ・ユニットとしてはこんなものだろう。  実際の音楽の低音を聴くと、ジャズのベースや、シューベルト「ます」のコントラバスも、音程がちゃんと聴こえ、楽器らしい音色になっている。しかし、腹に響いてくる低音とはいかず、軽い音になる。  中高域は、さすがMG100HR-Sだけあって、各楽器や人の声がリアルな音色で、音としての質は高い。  まさに設計支援プログラムのシミュレーションどおりの周波数特性と言える。メイン・スピーカーとして使うとすると、やはりこの低域不足、高域寄りのバランスでは不満が生じるだろう。今回の目的はPC用のサブ・スピーカーなので合格だ。  バスレフ向きユニットではないのでまともな音になるか心配したが、おおむね良好。PC用スピーカーに限定すれば最上級といえる音質で、所期の目標を上回っての達成だ。MG100HR-Sの再利用は成功だ。  今さらながらだが、YouTubeの演奏動画などネット上の音楽をちゃんとした音で聴けるようになり、合唱の練習などに重宝している。    ■フォステクスMG100HR-S関係の過去記事 スーパースワン+MG100HR-Sの製作 2009年夏