EIZO CX240 ディスプレイを導入した
 - カラーマネージメントと写真の色のこと 2014年2月

■EIZO CX240の導入  写真の編集や印刷・ウェブのデザインのために、古くなったパソコン用ディスプレイを高性能で大型のものに替えることにした。  いくつかの候補の中で、キャリブレーション・センサーが付属している24型級のEIZOColorEdge CX240-CNX が、ダイレクトショップのアウトレットで割安だったため、思い切って購入した。  こうしたプロの業務用スペックのディスプレイ(EIZOはモニターと呼んでいる)は一昔前ならとても手が出ない価格だったが、今や素人の個人にもどうにか手が届く範囲になったのだからありがたい。  Adobe RGB色域を97%カバー、1920×1200の24.1型、ピッチ0.270mm、キャリブレーション・センサーとソフトウェアでカラーマネージメントができる。カラーマネージメントについての無料セミナーもあったので、購入翌日に東銀座のEIZOショールームで受講した。  ディスプレイとしての性能には満足している。唯一、冷却ファンの音が気になったが、電気工作のページにあるように自己責任で対策し、解決した。 ■カラーマネジメントとディスプレイ  カラーマネージメントとは、撮影、デザイン、製版・印刷の各工程の作業環境を共通の色基準に沿って統一し、運用すること。各々の機器の色をプロファイル(機器の色空間の特性を記録したファイル)を用いて管理することで、工程全体でのイメージの統一が図れる仕組みである。(EIZOの冊子「カラーマネージメント・ハンドブック」より)  そして、そのかなめになるのは、プロファイルを扱うことができ、適正に色を表示できる、カラーマネージメントに対応したディスプレイである、ということなのだろう。  カラーマネージメントに対応しているディスプレイは、何もEIZOだけのものではなく、NECなど何社かから出ている。ソニーにはノートパソコンに搭載する機種がある。  CX240では、色温度と輝度を任意に設定することができるが、私のような初心者のため、プリセットされた目標値が用意されている。印刷用の5000K 80cd/㎡、写真用の5500K 100cd/㎡、Webコンテンツ用の6500K 80cd/㎡の3種がある。色域も設定でき、印刷用、写真用はフルでほぼAdobe RGBだが、Webコンテンツ用ではsRGBに制限している。  セミナーでも、まずディスプレイに写真の色を正しく表示するため、センサーを使ってこの3種の目標値をキャリブレーション(較正)することが推奨されていた。センサーがあるとこれは簡単にできる。また、CX240では定期的に経年変化を自動修正する機能がついている。  色温度は写真でもホワイトバランスでおなじみだが、値が小さいほど、白色が暖色系になる。出版・印刷の世界は5000K、写真の世界は昼光に合わせて5500K、パソコンやウェブの世界では6500Kが標準だ。  輝度はディスプレイの明るさで、目の疲れ防止のため低く抑えるという人もいるが、CX240で、私は80や100にしているが特に問題ない。  色域についてだが、sRGBの色域はマイクロソフトが提唱者の一人であり、パソコンの世界の標準になっている。このため一般的なディスプレイは、sRGB色域が前提で造られており、それより色再現域が広いAdobe RGB相当の画像については正しい色で表示できない。逆に、CX240のようなAdobe RGB相当の広色域ディスプレイでsRGB画像を表示した場合は、本来の色より鮮やかで赤みの強い表示となってしまう。  このため、CX240のWebコンテンツ用の設定では、上記のとおりわざわざ色域をsRGBに制限し、色温度も標準的な6500Kにして、一般的なディスプレイに合わせている。一般的ディスプレイでの表示をシミュレートしているというわけだ。  私は、パソコンを使う時はネットを見ることが多いので、このCX240を普段Webコンテンツ用の設定にして使っている。このサイトもこの設定で作っており、載せている写真もsRGBにしている。Adobe RGB色域で写真の編集をする時には、印刷用や写真用の設定にする。 ■Webコンテンツ用設定のCX240と一般的ディスプレイとの色の比較  では、このシミュレート・モードのCX240は、一般的なパソコン・ディスプレイと比べて色はどうか。わが家の前からのディスプレイ 三菱電機 RDT1713VM(2006年4月発売と古くなってきた)と、2012年11月発売のiPad mini(初代 mini)の二つと比較してみた。それぞれ表示する色は、少しずつ異なっている。  例えば、このサイトで使っている色はどうか。和の色名で、黄系の苅安色、青系の藍色、甕覗色を使っている。  これらの色がRDT1713VMでは少し色味が薄い感じである。そもそも、見る角度によって少し色の濃さが違って見えるという問題もある。  iPad miniでは黄味がかった色になる。  掲載している花の写真も、同様で、RDT1713VMは薄味である。iPad miniでは花や葉が黄味を帯びて冴えない色になる。CX240では色にコクがあるし、自然な色と感じる。  ディスプレイごとにクセがあるのは、当然ともいえることだ。CX240の色が正しいとも言い切れないのだが、一般のディスプレイは、液晶パネルの特性を厳密には補正していないだろうし、個体のバラつきの出荷時調整もない、さらに使用が長いので経年変化もあると思われる。当然ながらカラーマネージメント非対応である。  これに比べ、CX240はしっかりとこれらの管理がなされているので、適正に色を表示していると考えて良いのだろう。sRGB、6500Kの標準に忠実な色再現なのだろうし、その結果、自然な、良い色と感じられる。  ウェブにコンテンツを載せる身としては、これが正しい色表示だ、という基準が手元にあると、何より安心感がある。  RDT1713VMは、Windowsのディスプレイの色の調整をして改善を試みたい。iPad miniの方は、「設定」を見たが、残念ながら色の調整はできないようだ。 ■写真撮影の色域  写真撮影で色域をどうするか。CX240を導入して色域の概念を知ったことで、sRGB色域で撮影するか、より広いAdobe RGBで撮影するか、という新たな悩みが生じた。  sRGBでの撮影は、ウェブに載せるコンテンツとしてはそのまま適合するので面倒が無い。sRGB設定のディスプレイで見る限り、自然な色味である。しかし、Adobe RGBに比べて特に緑方向の色域が狭いということがあり、青葉などの被写体が冴えない色になってしまう。Adobe RGB相当の広色域ディスプレイで見ることを前提に、より広い色域で撮影しておくことが良いのだろう。  コンパクトデジタルカメラはほとんどsRGBだが、一眼ではどちらの色域で撮影するか選択可能である。オリンパス E-620での撮影で、これまでは sRGBのラージ・高画質のJPEG画像で撮影していたが、Adobe RGBのRAWで撮り、後で現像ソフトで処理することに変更した。新ディスプレイを導入したがために、悩ましいことである。 ■プリントのカラーマネージメント  セミナーではさらに、プリンターで正しい色で写真を印刷するため、やはりセンサーを使い、プリンター出力とディスプレイ表示の色を合わせる調整手順の講習があった。  プリンターの色域は、sRGBやAdobe RGBとも少しずれている。機種ごとにも違い、プリント用紙によっても違う。このため、カラーマッチングが必要になるのだ。確かに調整後は、ディスプレイ表示色に近い色で写真がプリントされた。  ここでは、Photoshop などカラーマネージメントができる表示ソフトの使用が前提になる。Photoshopが高価なため、私は同じAdobeのLightroomを購入した。また、使っているカメラの付属ソフト OLYMPUS Viewer 3 をときたま使う。どちらも、カラーマネージメント有りで、自動的にディスプレイのカラープロファイルを参照してくれ、正しい表示ができるということだ。  ただ、ディスプレイで眺めるのまではAdobe RGBであっても、わが家のプリンターがCanonの家庭用汎用機 MG6230であるため、プリントについてはsRGBでのカラーマネジメントになるのだろう。 ■改めて、写真における色について考える  プリントのカラーマネージメントの理屈は、一応理解できるのだが、写真の色は、ディスプレイとプリントの一致だけの問題ではない。もともとの被写体の現実の色と一致しているか、が根本の問題として残るではないか。  私は花の写真を撮影することがあるので、花の色の再現が難しいことをよく感じる。このサイトに載せている各季節の花の写真も、ディスプレイで見て美しい色ではあるが、花の本来の色とは少し違っている。例えば、赤いチューリップの花は、背景の葉の緑と補色の関係にあるためか、不自然に浮いたような感じになる。フィルム時代の写真でも同様の現象があった。現実の場面では花も葉も自然な色であって、浮いて見えることはない。  写真撮影では、現実世界の色の再現にこだわらず、写真の世界の中で独自の色を出す、というように割り切る考えはある。その方が写真としてフォトジェニックな美しさがあったりして、それはそれで魅力だけれど。  被写体の現実の色との一致について、EIZOセミナーの講師に質問をぶつけてみたが、 「そもそも現実の色の色域はAdobe RGBよりさらに広い。現実の物の色は反射光、ディスプレイは透過光、プリントはまた反射光という違いもある。だからその厳密な再現は不可能なのだ。」という趣旨の回答であった。まあ、そうなのだろうが・・・。  考えると、現実の色と私の視覚が感じた色との間に、まず不一致があるのだろう。人間の視覚の物理的制約、脳神経系の知覚などの攪乱要素があるはずだ。  カメラの撮影した色も不一致がある。レンズ、フィルムや撮像素子、電子データへの変換アルゴリスム、現像ソフトなど、多くの攪乱要素がある。  その上で、パソコン・ディスプレイ、プリンターの持つ制約やクセが攪乱要素としてある。カラーマネージメント・システムはこの最後の部分を改善しようとしているのだ。  現実の花を目の前にしても、本当の色は、人間の視覚があてにならないのだから、誰にもわからない。同じ赤い花を見ても、あなたの認識した赤と私のそれが同じかどうか、わからないのだ。  そのことを棚に上げても、視覚で見た花の色、ディスプレイ上の写真映像の色、ペーパープリントされた色の三者は一致するか。EIZOのセミナー講師の回答は、完全な一致は土台無理だが近似させるべく極力努力しましょうよ、ということなのだろう。