絵画 2021年
#8 1955年のアイゼナハ 2021年1月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 旧東ドイツ、アイゼナハで作られたEMW327を、当時のアイゼナハの街を背景に描く。時代にそぐわない優美な車をリアルに描き、カール通りの街並みをスカンブリング(擦りぼかし)で幻影のようにしてみたが、うまくいかない。 なお、EMW327とは、1937~1941年に作られたBMWの名車327の東ドイツ版。東西ドイツに分かれた戦後、BMWの主力工場だったアイゼナハでBMW旧モデルの生産が再開され、EMWに名を変えて1955年まで生産された。2019年秋、アイゼナハを訪れた時、工場跡の自動車博物館に1955年製造のこの車があった。 #9 7歳 2021年2月 F10 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 少し緊張の澄まし顔で、3歳くらい上に見える七五三写真から描いた。しっかりとしてきた内面を描きたかったのだが、凛となり過ぎ、大人びた感じになった。 #10 黄色の畑 Stolzenau 2021年2月 P12 MDFボード パミス下地 アクリル絵具 2019年秋の北ドイツ・ヴェーザー川自転車道ツーリングの4日目、何度も雨に降られたが、途中、雲間からの陽光で黄色に輝く広大な畑があった。10月なので菜の花ではなく、よく似たキガラシか。部分的な日射しで鮮やかな黄色の畑、前方にはまたもや不穏な雨雲、という束の間の光景だった。 パミス下地は、ざらざらで絵の具がよく乗る。マットで落ち着いた調子の絵になる。 #11 ヴァルトブルク城 Eisenach 2021年3月 P12 MDFボード パミス下地 アクリル絵具 2019年秋、ドイツ旅行で訪れたアイゼナハ。ヴァルトブルク城は、街から200mほど登った山上にあって、絵になる景色だった。16世紀にマルティン・ルターがかくまわれ、新約聖書をドイツ語に訳した場所でもある。 建物や草木の実体感を目指したが、道は遠い。 #12 模写 C.モネ作「モンソー公園」 2021年3月 46.5×37.5cm 白象画学紙 アクリル絵具 彩色デッサンの型から一歩踏み出そうと、モネが1876年に描いた正調印象派の作品の模写を試みた。原画は、実際の光景から形態も色も置き換えられている。左右の樹木は、大胆な黄と赤で花が描かれインパクトがある。そうした置き換えを体感して学ぶことが目的だ。正確に写した「模作」を作ろうというものではない(そもそも技術的にできない)。 モネがどんな順番、どんな色、どんな筆づかいで描いていったのか、推測しながら模写していくことになる。原画は、人物や花、建物の形も色も大雑把と見えるのだが、離れて眺めると、特徴を捉えていて雰囲気が伝わる。手早く描いていると思うが、大胆かつ繊細な筆づかいだ。 結局、真似られるものではなく、形も色も中途半端、不出来な模写となった。建物は変に整い、説明的になってしまった。原画で忘れられた(?)人物の影を加えた。 #13 模写 C.モネ作「散歩、日傘をさす女性」 2021年3月 46.2×37.5cm 白象画学紙 アクリル絵具 続けてもう一品、モネの模写をした。1875年、カミーユ夫人と息子ジャンをモデルに描いた有名な絵だ。原画の空は、大胆な筆づかいの雲だが明るい青が基調で気持ち良い。人物や草も細部までの写実ではなくざっくりだが、実在感がちゃんとある。逆光の光が降り注いで、心地よい幸福感がある。夫人もドレスも影になるが、青、さらに黄やマゼンタが使われ、これが効いている。人物以上に、この場の雰囲気を描きたかったのだろう。 カミーユ夫人の顔に何かがなびいている。これはベールなのか。この時代のファッションを少し調べてみたが、日常の場面でベールやベール付きの帽子を使う習慣は無いようだ。たなびく風や空気の表現ならば面白い。そんな推測をしながらの模写は、出来ばえはともかく、モネの気持ちに触れるような感じがあって楽しかった。 大いに勉強になったが、一枚二枚の模写で印象派絵画の技法が身につくものでないことも、よくわかった。 #14 舞岡公園の桜 2021年5月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 3月末に花見に出かけた舞岡公園。街の中の整然とした公園とは違って、もともと里山だった場所なので雑木が伸び放題に茂り、その中に桜もある。桜も染井吉野ではなく、何種類かの山桜のようで、花色の違い、若葉の有無など木ごとに個性がある。 桜や木々をどう描くかが勘どころだが、思った以上に難しく、良い描き方が見つからないままだった。 #15 トレド 2021年6月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 2017年、スペインへの旅行で訪れ、トレド旧市街を対岸の宿から眺めた。日没によって変わっていく光景が印象に残った。 今回の絵は、色や形を多少置き変えて夕焼けを強調し、写実から一歩踏み出すことを試みた。印象派の画家達がしたことで、それが自在にできればだが簡単には行かず、大した踏み出しになっていない。一歩一歩、試行錯誤だ。 描き方は、ジェッソLで少しざらざらした下地を作り、街はグリザイユ画法(白黒モノクローム)で描いてオレンジ系でグレージング、という方法をとった。 #16 模写 ゴッホ作「ローヌ川の星月夜」 2021年7月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 勉強のための模写、その第2回としてゴッホを描いた。「星降る夜」とも呼ばれる幻想的な絵で、空や水の深い青色、ガス灯や星の光の黄色を厚い絵の具で塗っている。これを真似てみることが今回の目的だ。 絵の上半分は大熊座(北斗七星)が大きく瞬く夜空、下半分はガス灯の反映が揺らめく川面。単純化した構図であり、ゴッホが想像で描いた心象の風景と思っていた。が、そうではなくアルルを流れるローヌ川の実際の風景がもとになっている。 1888年2月にゴッホはアルルに移り、この作品は9月に描かれたが、Wikipediaの作品一覧によれば同じ1988年中に油彩165点、水彩11点を描いている。何と平均二日で1点! 尋常でないペースだ。評価されず、売れないまま、この絵だけでなく、「アルルの跳ね橋」、「郵便夫ジョゼフ・ルーラン」、「ひまわり」、「夜のカフェテラス」、「黄色い家」など次々と名作を描いている。そして同じ年、10月からのゴーギャンを招いての共同生活とその破綻、12月末の左耳切り落とし事件、と展開していく。 「ローヌ川の星月夜」は、ゴッホがたまさか描いたロマンティックな絵と思っていたが、結果的にそう見えるだけで、甘い要素は無かったようだ。そうした背景を知ったのも、今回の収穫だ。 大胆なタッチを学ぶという当初の目的は、半分くらいの到達だ。アクリル絵具はそのままでは盛り上げることができないので、たっぷりの絵の具にほぼ同量の「ヘビージェル・メディウム」を混ぜて、絵筆の跡が残る厚塗りにした。何だか愉快な作業だ。ゴッホは、何度も塗り重ねずに、迷わず太い筆の1、2回で描き、細部はペインティングナイフで引っ掻いていると思う。私は、何回も塗り重ね、小筆や烏口での補筆や、摺りぼかしによるゴマカシだ。ゴッホの力強さはやはり真似できない。
#17 ペータース通り Leipzig 2021年8月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 2019年10月、ドイツを旅行しライプツィヒを訪れた。J.S.バッハの足跡をたどり、バッハが音楽を担当した四教会の一つ、Peterskirch(聖ペトロ教会)を探した。繁華街ペータース通りの南端、絵の右に角だけ描いた建物の場所に教会はあった。19世紀末、教会は700mほど南に移転し、ここには石碑も説明板も無いが、ペータース通りの名として残っている。通りの建物はすっかり建て替わっているが、バッハが何度も通ったはずの空間だ。 30年前の旧東ドイツ時代に一度訪れたライプツィヒだが、住みよさそうで活気ある大都市になっていた。この日は晴れ上がって暖かくなり、通りはこの絵以上に多くの人出があった。 今回の目標は、そびえ立つ建物の圧迫感、快晴の日射し、少し浮き浮きした様子の人々、見えないが歴史の時間の流れ、といったこの場所の印象を表すことだ。風景を描くと、どうしても芝居の書割りめいたものになってしまう。そこから一歩でも踏み出そうと、2階の窓から見るように視点を高くとったり、厚塗りや摺りぼかしを試みたりしたが、やはり難しい。
#18 もうすぐ2歳 2021年9月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 積み木を高く積み上げて、「できたあ」と得意満面の1歳11か月児。 イラスト調にならないよう、ざっくり描くことを課題とした。対象の輪郭を明確な境界にせずにあいまいにすること、面の塗りをベタでなく不連続にすること、細筆をなるべく使わないこと、などを心掛けた。とはいっても、顔の造作などはざっくりでは済まない。背景は、何回かの地塗りの後、紙やすりをかけて無作為のムラを作った。 積み木を乗せられるかどうか集中し、できた! という動的な一瞬を描きたかったわけだが、3歳くらいの顔だちになり、動きが落ち着いてしまった。
#19 奈良聖林寺 十一面観音菩薩立像 2021年9月 P12 MDFボード ジェッソ下地 アクリル絵具 聖林寺の十一面観音は美しい造形の仏像として名高い。奈良時代天平年間の官営造仏所の作という。2008年だったか桜井市の聖林寺を訪ね、この十一面観音を拝観した。他に客は無く、存分に間近から眺めることができた。立像で台座と合わせて3mほどの高さmになり、下から見上げると、厳しい顔だち、厚い胸と引き締まったウェストで重々しく、大変荘厳だった。 今年6~9月、東京国立博物館で「国宝 聖林寺十一面観音」展が開かれ(日本彫刻の最高傑作としていた)、観に行きたかったが、コロナ第五波が重なってとうとう行けなかった。それならば、と絵に描くことにした。1年前、アクリル画を始めて最初に描いたのが奈良円成寺の大日如来だが、それ以来の仏像の絵だ。 今回の目標は十一面観音の堂々の印象を表すこと。面や輪郭を単純、明確にするとイラスト調になるので、それを避けるようにした。そうした多少の描き方の工夫はするようになったが、1年の進歩はまことに遅い。 なお、写真資料として、yung氏の「管理人ブログ/聖林寺十一面観音~偉丈夫の仏」の写真を参考にさせていただいた。