発声とインナーマッスル - 腹横筋のトレーニング効果 2019年2月
■きっかけは腰痛とNHKの番組 昨秋(2018年9月)、NHK Eテレの健康番組「チョイス@病気になったとき」が「その歩き方で大丈夫?ウォーキングのトラブル」という特集をした。 トラブルの一つとして「骨盤が大きく動く歩き方は、背骨を支える脊柱起立筋を傷めやすいので、腹横筋などを鍛えて体幹を安定させることが必要」というケースがあげられ、対処法として腹横筋のトレーニングが紹介されていた。 ちょうど、数年ぶりに腰痛が生じて1週間ほどで何とか治まったところだったので、そのトレーニングを試してみることにした。 腹横筋とは、聞き慣れないが、いわゆるインナーマッスルの一つで、深奥部にあって横方向の、コルセットのように腹を包む筋肉らしい。 トレーニングといっても軽いもので、短時間で済み、頑張ったというほどではない。が、何日かですぐに効果が現れてきた。心なしか、腰がしっかりして、立ち居振る舞いが安定したようだ。 3か月を過ぎた今は、歩く速度が上がった気がする。動作も多少キビキビして、立ち座りの時に「よっこいしょ」を言わなくなったかもしれない。腰痛は起きないし、腹回りの見た目も少しだが引き締まった。良いことだらけである。 NHK番組で紹介されたものに加えて、インターネット上の情報のインナーマッスル・トレーニングも少し加えたので、腹横筋以外も鍛える結果になったのかもしれないが。 ■発声への効果 そして、思いもかけなかったことだが、歌の発声にも効果が及んだのだ。 合唱の弱音箇所を、安定して歌えるようになった。息が足りなくなって声が震えたり、音程が下がったりが無くなった。息が最後まで絞り出せて、長く続くようになり、ブレスの間隔に余裕ができた。総じて、細く長い息のコントロールが改善されたようなのだ。 これにより、例えば ppの曲を歌う時に支えがしっかりした感じになった。あるいは、曲の終わり1、2小節のリタルダンド、フェルマータを歌うのに安心感が出てきた。大変ありがたい副効果だ。 ffの声量、声の張り、強いスタッカートといった点ではさほど変わらない感じで、速く強い息にはあまり効果が無いようだ。 ■インナーマッスルと発声 歌の発声に使われる腹式呼吸では、横隔膜の上がり下がりが大きな働きをしている。横隔膜はそれ自体が筋肉(インナーマッスルの一つ)だが、横隔膜だけが呼吸筋ではない。 吸気は、横隔膜の沈下、横隔膜筋の収縮で行われる。それとともに胸郭の拡大で行われ、外肋間筋など胸・腹の筋肉が関与する。 一方、呼気は横隔膜の筋肉としての活動は起きない。歌の発声のような呼気の長い持続には、内肋間筋、腹筋群、背筋他、多くの筋肉が使われるらしい。(米山文明「声の呼吸法」2011平凡社ライブラリー) 腹横筋は腹筋群の一つだが、例えば、横隔膜が弛緩して持ち上がった状態で腹横筋をさらに収縮させ、コルセットを絞り込むようにして息を細く吐くことを実現しているようだ。そういえば、NHKの番組で紹介された腹横筋のトレーニングでも、息を細く吐くことを必ず同時にしていた。なるほど、細く長い発声の息のコントロール改善効果にもつながるわけだ。 発声に関係するインナーマッスルとしては、腹横筋以外にも、骨盤底筋、大腰筋なども重要らしい。こちらが、速く強い息に関係するのだろうか。 ■トレーニングの方法 発声に関連するこうしたインナーマッスルを効果的にトレーニングするには、どうすれば良いのか。 私のトレーニングのもとは上述のNHK番組だが、NHKのホームページからはもう消えている。インターネット上で「NHK チョイス 腹横筋」などのキーワードで検索すると、何人もの方が、番組のトレーニング内容を紹介していて、見ることができる。 ヴォイス・トレーニング関係の書籍で、インナーマッスルのトレーニングについて書いたものはあまりなく、米山文明「声の呼吸法」、小林由紀子「声のトレーニング」(2004NHK出版 生活人新書)で言及があるが、あまり体系立っていない。 発声に限定せず、インナーマッスル全般のトレーニングに広げて調べても、関係の書籍は少ない。インターネット上の情報はあるが、どのくらい信頼おける情報か、よくわからない。ピラティス、ヨガ、きくち体操なども効果あると聞く。インナーマッスルについては、まだ理論と実践の体系化がなされていないのだろうか。もう少し調べたいと思う。 私の場合は、妥当かどうかわからないが、テレビとインターネットの情報からの自己流トレーニングだが、それでも効果はあった。 腹横筋をはじめとするインナーマッスルのトレーニングは、われわれシニア合唱人におすすめだ。