音取り練習用のイアフォン 2014年10月

 合唱の音取り練習に携帯プレイヤーを使うが、そのためのイアフォンでなかなか良いものを見つけた。  合唱の音取りとは、楽譜を読み取って自分のパートを歌えるようにすることで、新たな曲では一人ひとりの自習が不可欠だ。やり方は人それぞれだが、私は①楽譜を読む、とともに補助として、②キーボードで弾く、③音取り用MIDI音源(そんな便利なものもあるのです)を聴く、④演奏CDを聴く、を組み合わせている。③、④は自宅のオーディオセットで聴くほか、外出先ではwavファイルやmp3ファイルにしてiPad miniやiPod touchで聴いている。合唱人の多くは、同じようなことをしているでは。  そこで、道具として携帯プレイヤー用のイヤフォンが重要になってくる。ある程度の音質でないと、自分のパートの動きがよく聴きとれないのだ。携帯プレイヤー付属のイアフォンでは不十分だ。  ヨドバシカメラで、持ち込みの自分の携帯プレイヤーで各種のイアフォンを試聴できることを知り、iPod touchを持って行ってみた。音源は、現在合唱で練習しているモーツァルトのレクイエム(レヴィン版)からキリエ。ヘルムート・リリング指揮の演奏だ。CDからリッピングし、WAVファイルにして入れてある。  カナル型イアフォン(インナーイアー型)が良いと思うので、次々といくつも試聴した。千円台から数万円のものまで値段の幅が広く、輸入品もある。15年前に個人輸入してずっと使ってきた Etymotic Research 社の ER-4S がいまだに売られているのにはびっくり。  試聴してみて、音色は結構違うものだ。頭にかける大型ヘッドフォンではない小型のため、総じて高域よりの音のものが多い。安いものは歪っぽく耳を刺激する高音だったりする。5千円クラスは、これが改善されて爽やかな高音域だが、どうも粉っぽい不自然な音だったりする。1万円以上の高価なものは、さすがに各楽器も人の声もそれらしく聞こえる。とはいえ外出先用であり、いくら良いものでも高価過ぎては買う気になれない。  試聴の結果、目的に合うベストは、オーディオ・テクニカのATH-CKS77Xだった。  他の多くが高域寄りの音色である中、異色の低域重視だ。チェロやコントラバスの低音弦楽器がしっかり聴こえ、残響まで漂う。これは、小さなイヤフォンでは初めての体験で感心した。中高域は少し抑え目で落ち着いており、刺激感、強調感は無い。周波数特性としては、低音・高音を強調したドンシャリ型ではないが、相対的に低域を持ち上げている感じだ。フラットではないのだろうが、低音域を土台にするクラシック音楽には悪くない。一般の高域寄りのイアフォンよりも、ずっとバランス良く自然に聴こえる。  低域は、電気的に持ち上げているのではなく、物理的に空気室の構造・大きさを工夫して出しているようだ。耳の穴に入れる部分は、4サイズが付属している。これも耳にぴったりさせて低域を聴かせるためだろう。  高域はおとなし目だが、出ていないということではない。女声もヴァイオリンもそれらしく聴こえる。子音sの擦過音は強調されず自然だが、少し丸まるようだ(合唱練習用にはもうちょっと聴こえる方が良いとは言える)。  オーディオセットに接続して本格的に試聴してみたが、印象は同じだ。低域多目、中高域抑え目だが、そうそう極端ではなく、バランスを崩すほどではない。高域はバイオリンがやや硬い感じだが、エージングで変わる可能性がある。変な癖が無く、音楽を鑑賞できる音だ。自宅の大型ヘッドフォン(Ultrasone Edition 9、Sennheiser HD-650)に比べれば、こじんまりした再生なのは否めないが、サイズと値段からすれば立派なものだ。  昨年の発売のせいか5千円弱にディスカウントされており、お買い得感がある。  これまでのER-4Sは美しい中高域が特徴だが、低域不足は明らか。ATH-CKS77Xの重心の低さとは好対照だ。  今後は、気分によって使い分けることになりそうだ。   ・ATH-CKS77X   ・ER-4S