マンションの高齢期を考える - ある住宅管理組合のケース 2017年4月 2018年4月・2023年7月追記

■マンションの高齢期にどう対処したらよいのか?  このところ、わがマンションの今後の高齢化にどう対応したらよいのか、マンションの「終活」のノウハウがないか、と探している。  マンションって最後はどうなるのか? という不安は購入時に誰もが持つと思うが、先の先のことであり、いつのまにか忘れてしまう。  自分一人の所有ではなく区分所有のため、建替えるのも全体を一斉売却するのも簡単でない。最後はにっちもさっちも行かなくなる、かもしれない。そこに至るマンション高齢期の過程も、徐々に進む劣化への対処は、共有財産なので合意しながらとなる。一体どうすれば良いのか?  さらに問題を難しくするのは、マンションの高齢化と並行して、居住者も高齢化することである。仕事から退き、自身の健康が損なわれていって、マンションを維持管理する経済力も気力も衰えていくだろう。マンションと居住者、二つの老いが並行して進むのだ。  人の高齢期や終活については多くの情報があるが、マンションについてはネットでも本屋でも見つからない。全国には建築後30年以上経過した分譲マンション、団地があまたあり、そこに住むたくさんの人々に共通する課題のはずなのだが。  唯一、最近(2017年3月)、ダイヤモンド社から「マンション再生シリーズ2017 あなたのマンション・団地が生まれ変わる!」というタイトルのムック本が出た。特集記事は「建替えか延命か?『高齢マンション』の寿命を考える」とある。まるで当方の心の内が見透かされたようではないか。  読んでみると、この本が勧める選択は二つ、①居住者が合意してえいやと建替える、②計画修繕を続けて延命する、である。この本では特に建替えに重点がある。うまく行った成功例がいくつも挙げられ、わが社が引き受けますというデベロッパー企業が紹介されている。  さすがはダイヤモンド社。デベロッパー側のビジネスが基本スタンスであり、われら居住者は顧客、ビジネスの対象だ。建替え、建替えと焚きつけるポジティブ思考で、終活? そんな後ろ向きの選択はここには無い。  公平のため申し添えれば、終活の立場からの「使用年数を決めてその間は安全に使える修繕を講じ、その後は静かに終わるという選択肢があってもいい」という廣田信子氏のコメントも載っている。その一言だけで、選択肢の具体的な内容が書かれていないのが残念だが。  「高齢マンションの寿命を考える」という特集だが、このコメント以外は、ちっとも寿命を考えていない。建替えで寿命をリセットし、終末は迎えないのだ。居住者の高齢化も考えられていない。うーん、ちょっと違うだろう。 ■今なぜ、マンションの高齢期か?  私は、2階建て20戸の、築34年の小規模RC造集合住宅に住み、今年4月から1年間、住宅管理組合理事のお役目が当たっている。20世帯から1年交代で理事4人、くじ引きで前もって決めてあり、5年間に1度、お役が回ってくる仕組みになっている。  20世帯という小規模のため、これまでの34年、管理会社に任せず、管理人もおかず、自主管理でやってきた。お互い顔見知りだし、当事者意識が高く、組合費滞納などのトラブルもなく、まずまずまとまりよくやってきた。大規模修繕も、組合費を一般より高くして資金を確保し、長期修繕計画にほぼ沿ってしっかりと補修工事をしてきた。34年経過した割には、建物の状況は良い方と思う。  居住者は、半数近くの住戸で入れ替わり三十代の世帯も入ったが、組合員の2/3は65歳を超えて高齢者の域だ。  築34年はマンションとしてはいわば中年だ。高齢マンションというほどではない。それが、いきさつがあって、自分が存命かどうかも知れぬ20年、30年後まで見通しを考えることになった。いきさつとは、次のようなことだ。  われら住宅管理組合は、5年ごとに建築コンサルタントに委託して長期修繕計画の見直しをしているのだが、昨年度これが実施された。臨時総会が開かれ、報告された見直し計画は、10年先(2027年)に給排水管の更新改修が必要という内容であった。資金計画は大赤字となり、現在30,500円/月の組合費(管理費+修繕積立金)を倍増しないと賄えない。今後10年間、64,500円/月に引き上げる、という衝撃的な議案がセットになっていた。ちなみに、20戸という極小規模のため、現状が既に他と比べて高い 30,500円なのだ。  この給排水管改修は、5年前(2012年)に一度実施しているが、更新(配管を交換する)か、更生(管の内側に樹脂ライニングを施して延命する)か、理事会でも総会でも議論が分かれた末、ようやく更生に決まった、といういわくつきのものだ。その時の含意は、15年後(2027年)に次の改修となるが再度更生で凌ごう、ということではなかったのか。  改修として、更新の方が確実で長持ちするだろうけれど、経費は格段の差だ。見直し計画は、2027年のあともさらに、2033年、2039年と大経費の補修工事の波が来る。修繕周期に沿って建物・設備を遺漏なく計画修繕していく内容で、手堅いと言えば手堅いが、「経費はそちら持ち。他人の金に糸目は付けません」という計画だ。居住者は入れ替わり、代替わりして、いついつまでも元気。資金はこんこんと湧いてくる、という前提になっている。  実際には、全国のマンション・団地と御同様で、区分所有者の入れ替わり、代替わりはさほどでなく、年金生活の高齢者に移行しつつあり、元気度も資金力も低下しているのに。  組合費倍増だとお? 2回目の更生を行った事例はほとんど無いので責任持てません、だとお? 更新すれば40年先(2057年)までもつから安心です、だとお? べらぼうめ。俺たち年金暮らしを打ち出の小槌とでも思ってるのかい。だいたい40年先って、いくら建物が残っても、みんな生きちゃあないよ。これまで真面目に計画修繕をやってきたけれど、もう付き合いきれねえや。  そんなハつぁん、熊さんのべらんめえは実際にはなかったが、臨時総会の皆の意見、感情は、まあこんなところだった。  臨時総会では、当然にも組合費値上げ案は退けられ、議論は持ち越されて、われら今年度理事4名にお鉢が回ってきた、という次第だ。 ■給排水管の世界って、ずいぶんじゃないのか?  話が一旦それるが、問題になった給排水管について書いておきたい。われらマンションだけのことではなく、全国のマンション、団地で共通して大きなネックになっているのがこの給排水設備だ。  今回、大規模修繕・補修の住宅管理組合向け解説本を何冊か読み、給排水管の技術水準が、わが国の他の分野と比べてもあきれるほど遅れていることに問題の根源があると思い知った。  第一の問題は、管が鉄製なので腐食・劣化が早く、消耗品的に短い周期で補修しなくてはならないことだ。これは、配管材料、施工法の技術開発が不十分であるためだ。管内面、接合面、継手などの防食性を向上する改良が重ねられてきたことは承知している。しかし技術革新があまりに遅く、配管材としての不備を克服できていない。  RC造建物は維持管理をきちんとすれば100年もつと言われるようになっている。そうならば、100年もつ配管、100年もつ施工方法の開発を、国が促進し、給排水設備業界あげてもっと取り組むべきだったのではないか。  樹脂ライニングなど更生工法の技術開発も同様だ。企業ごとの開発でやってきており、業界の標準技術となる高水準の工法が確立されるまでに至っていない。国土交通省が旗を振って技術開発を振興すべきだった。  低コストの配管材なのだから短期間で劣化するのは当然で、更新(交換)が前提です、という給排水設備業界、建築業界は何とも怠慢と思う。  第二の問題は、更新(交換)が前提であるにもかかわらず、建物が給排水管の交換を容易に行えない構造であることだ。一般に、給排水管は建物のパイプスペース内、床下、天井裏に隠ぺい配管されている。このため、内装を一度壊して配管を交換し、また内装を元に戻す大がかりな工事になり、費用も莫大になる。  配管の交換が必須であるなら、交換が容易にできる建物にしておくべきだ。例えば、うまく目隠しカバーを付けつつ、建物の内外に露出で配管する設計は十分可能だろう。そうした設計であれば、管の交換は容易であり、低い費用で実施できる。建物と給排水設備を総合的に考えず、そうした設計をしてこなかった建築業界は、やはり怠慢と考える。  給排水設備は、建物維持管理上のネックになると認識されていたにもかかわらず、きちんとした対策がなされずに来た。そのつけは、当然のようにマンション、団地の居住者(直接には住宅管理組合)に回され、問題が勃発する。  今回のわれらマンションはまさにそれだ。ダイヤモンド社のムック本に登場するマンション建替えも、多くが、給排水設備の改修問題をきっかけに、いっそ建替えようという決断になった事例だ。たかが給排水管、されど給排水管。その罪は重い。 ■今、わかったこと ①建築コンサルタントは、専門家に違いないが、建築・設備に守備範囲を絞った専門家なのだ。コンクリートの建物躯体は100年、それ以上もちますから計画修繕を継続して半永久的に維持しましょう、というエンドレスの延命志向である。守備範囲外には目を向けない。そこに住む居住者側の経済負担など、守備範囲外、責任外のことだ。ま、専門家とはそうしたものかもしれないが。  特に、給排水管補修のコンサルティングは問題があった。配管の更生工法の歴史が浅いため、経験が無いことは理解する。が、情報収集の努力が見られず不勉強だった。  結局は、当方が直接、1回目の更生の施工会社に問い合わせた。技術的には再更生は可能、ただし実際の適用可否は事前の検査結果による、との回答を得た。  詰まるところ、建築コンサルタントといっても、全面的に頼りにしたお任せはできないのだ。限られた守備範囲内の専門家として、その範囲で活用するほかないのだ。 ②われら居住者にも不備があった。これまで20年後、30年後の居住イメージなど、考えることが無かったのだ。それぞれの世帯の家庭のライフサイクルや家族構成の事情、ふところ事情はあるが、今までと同程度(できるものならそれ以下)の資金・労力負担でこの先も住み続けられる、と何となく考えていたと思う。私もその一人だ。そうはいかない、と急に言われて困惑した。  負担できる資金・労力の水準が、思った以上に低下してきているのだ。住戸面積75㎡弱と二世代で住むには狭いことがあって、わが家も含めてどの世帯も子世代への代替わりが無い。代替わりや住替えによって居住者の活力が維持されていく、という楽観がどこかにあったが、現実はそうなっていないのだ。  住戸面積の狭小、代替わりや住み替えがさほどでない、という事情は、全国多くのマンション・団地で同様なのではないか。 ③国、地方自治体は、と言えば、高齢マンション・団地についてマクロな視点からの問題意識はあるだろう。  一つは、集合住宅というストック・社会資源が区分所有という制約下、空き室化、スラム化して劣化していくことを憂う建築・まちづくり行政の視点だ。が、その心配の裏では、それぞれの集合住宅の自助努力で延命、建替えがなされること、住み替えにより居住者が自ずと入れ替わっていくことを期待しているようだ。実態をありのままに見ない空しい期待であり、結局、実効性のある対策が打ち出されていない。  もう一つ、高齢夫婦・一人世帯化、要看護・介護化が進行して限界集落となっていくことを憂う福祉行政の視点もあるだろう。  いずれにしても、行政の基本スタンスは居住者の自助努力を援助するにとどまる。「みんなガンバレー」だ。頼りにはできない。 ④冒頭記したように、社会全体として、マンション、団地の高齢期をどう過ごし、終末期をどう迎えるかについて、居住者の視点に立った情報がまことに乏しい。情報の多くは、代替わりや住み替えにより自ずと居住者の活力は維持されていく、という幻想が前提になっている。  今ある情報は、建替えか延命か、というだけのもの。それ以外の選択肢は無いのか。延命は、半永久・エンドレスの維持以外にないのか。  われら居住者が、自分達の事情に即して、自分達で判断を合意していくほかない。しかし、居住者の経済力も、管理組合運営の気力も、年々減退する。20年後、30年後の居住イメージを共有化するのはなかなかに難しいのだ。 ■で、どうしましょう?  われらの住宅管理組合は、今年度、居住者をメンバーとする検討委員会を置いて、方向を検討することにしている。理事会で案を練り、臨時総会で決定するのが基本だが、その手前でメンバーを拡大して意見交換する場を設ける、ということだ。20世帯の居住者もライフステージの違い、居住意識の違いなどあって、それぞれに考えがあるはずだ。  既に各戸にアンケートをとり、組合費の値上げ、さもなくば一時金徴収について、意向を尋ねている。結果は、いずれについても否定的だった。  まずは、建替えの可能性について、認識合わせが必要だ。戸数を増やして自己負担無しで建て替わる可能性は無いかしらん、というバラ色の期待が少なからぬ居住者にある。  われらがマンションの場合、「第一種低層住居専用地域」に建ち、建ぺい率50%、容積率の上限が80%、高さ10mと厳しい制約のため、増床の余裕がごく僅かだ。デベロッパー主体の等価交換事業を想定すると、私の粗々の試算で、還元率は46%。厳しく見れば40%程度だろう。建替えの条件として苛烈だ。継続居住のための自己負担は多額になる。それでも建替えに賛成という世帯は、まず無いだろう。建替えは見通しが立たない。  現在と同面積の住戸が等価交換により無償で手に入る、というお話は、条件に恵まれたごく少数のマンション・団地に限られた夢物語なのだ。  やはり延命の方向で行くことになる。  今回の計画見直しの課題は給排水管補修だが、これが更新でなく、2度目の更生で実施可能ならば、当面、組合費は現状維持、一時金の徴収無しで行けるので、まずこれが最初のポイントになる。  次に、どのように延命していくのかだ。半永久志向の維持か、寿命を考えてのほどほどの維持か、20年、30年後を見通して維持管理の基本方針を定めることだ。  いつまでの維持か、維持の水準について、われら居住者の意識を煎じ詰めると、こんなふうだろうか。  終の棲家と考える居住者は、当事者意識があり維持管理を大切に考えるが、それも生きて住んでいる間のこと、自分の寿命以上の建物寿命は無意味と思うだろう。子世代に住戸を相続しようかという世帯もあるだろうが、維持管理の負担がどんなに重くても、とまでは思わないだろう。  腰かけと考えている居住者は、維持管理への当事者意識が薄い。やはり自分の居住期間以上の建物寿命は無意味であろう。管理組合を担ってくれそうにない。  結局、大多数の居住者は、そこそこの組合費負担で、ほどほどの維持を望むのだろう。その「ほどほど」にはリスクや我慢も伴うが、それを認識して自己責任で進めることになる。そのため、ほどほどを維持管理の基本方針として明文で定め、合意できれば良いと考えている。例えばこんなことを柱にする。 ①組合費は、値上げせず現状の水準で据え置く。 ②2033年(築50年)までの計画修繕は、修繕内容を精査し、修繕水準を下げられるものは下げる、修繕周期を伸ばせるものは伸ばす、を原則としつつ、実施する。現時点で負担が大きい計画修繕項目について、実施の有無、水準を決めておく。  問題の2027年の給排水管補修は、基本的に再更生とする。(万一、再更生不可の場合は、一時金徴収となることは覚悟しておく。) ③その先の計画修繕については、見直し計画で2039年(築56年)に大規模な修繕が予定されている。2027年に給排水管を再更生するならば、2042年頃また次の給排水管補修が予定される。これらを実施しさらに延命していくのか、どこかで寿命を定めるのか、それが問題だ。  例えば、2033年(築50年)の計画修繕実施を境とし、以降は計画修繕を行わず事故修繕に移行する、というのが一案だ。一気に建物に寿命が来るわけではないが、10~15年であちこちの劣化が顕在化し、事故修繕でカバーしきれなくなるのではないか。すると、2045年(築62年)あたりが終末、寿命になるだろうか。  ①と②で10年後までの課題には対応できるので、検討はそこまでとなるかもしれない。まあ、③まで決めておかなくても、居住者の高齢化が進行し、管理組合の活動力が減退して、自然と大規模修繕などできなくなるのかもしれない。  結局、終末期のマンションの終活については、これぞという答が無い。  仮に寿命を2045年(築62年)と定めるなら、それを機に居住者が一斉に退去し、建物を解体して土地を売却する。それまでの積立金と売却した土地代を分配し、管理組合は解散する。これができるならば、答として一つの究極だろう。建物が次第に荒廃し、空き家が増えてスラム化してしまうことが防がれ、次の土地利用に円滑に移行できれば、社会的にも望ましいことだ。  しかし、その頃には居住者の高齢化も極まり、退去が増え、あるいは子世代の不居住の相続人も増えるだろう。一斉退去や土地売却の行動をとるなど至難だ。それができるようなら苦労は無いのだ。  そうすると結局は、可能なうちに個々に住戸を売却する、という世帯ごとの行動になってしまうのだろう。  まことに冴えない予測だが、これが、建替えができない全国の大多数のマンション、団地に共通する、終末期の現実だ。  せめて、個々の住居売却をストックし、区分所有の壁を突破して次の土地利用につなげるような社会的仕組みが今後できると良いのだが。  さてさて、検討委員会はこれから発足だ。今後20年、30年、安心して居住できる結論に到達できるだろうか。 ■その後の経過報告 2018年4月追記  上述の記事を書いてからちょうど1年が経ち、ひと区切りついた。その後の経過をご報告する。  検討委員会は、募集委員6名、理事4名により、5月、6月、8月、12月の計4回開催した。8月検討委員会には、前回の給排水設備改修(ライニング更生)を施行した業者に来てもらい、再ライニング更生についてヒアリングした。12月に、委員会の結論、今後の大規模修繕の方向を定めた。  その概要は次のとおりで、ほぼこの記事で考えていた内容である。 ①組合費は、値上げせず現状の水準で据え置く。ただし、南関東直下型巨大地震発生による被害、インフレの進行など、長期修繕計画・資金計画外の事態には、値上げ、臨時徴収などの対応をとる。 ②2033年(築50年)までの計画修繕は、修繕内容を精査しつつ実施する。懸案の2027年給排水管補修は、基本的に再ライニング更生とし、2030年度に後倒して実施する。(第1回ライニング更生が想定以上の耐久性を持つらしいため。) ③その先の計画修繕については、2034年度の時点で住宅管理組合として改めてその後の方針を検討・決定する。  この内容で「大規模修繕基本方針」として議案として取りまとめ、今月(2018年4月)の住宅管理組合定例総会に提出し、可決・決定された。私たち4人の理事は、業務を全て終了し、新年度理事に引き継いだ。  われらがマンションの高齢期を展望し、一定の方向づけをした。が、終末までのシナリオを描き切ることはできなかった。自分自身の寿命の範囲は居住できる道筋がついたが、その後の跡始末も目途がついていて安心、とまではいかない。  2034年の時点で、私を含めて居住者の高齢化はいよいよ進み、経済力、活動力は一層弱っていることだろう。さらにその先は、事故修繕に移行していき、それも追いつかなくなって建築・設備の寿命が到来することになろう。私の住室も、居住者が誰もいなくなり、住戸売却も困難な負の遺産となって、空き部屋になっているだろうか。 ■さらにその後の報告 2023年7月追記  記事を書いた2017年から6年経過したが、今年度また理事を務めている。その後の状況変化について記す。  大きな状況変化は2点。  1点は、国交省の長期修繕計画ガイドラインが2021年9月に見直され、既存マンションの長期修繕計画期間がこれまでの「25年以上」から、「2回の大規模修繕を含む30年以上」に伸ばされたこと。長期修繕計画見直しのスパンも「5年程度ごと」と短縮された。法律ではないので強制力は無いが、これが管理組合の世界の標準となった。  わが管理組合の長期修繕計画は2040年度までで、上記の記事はそれが前提だったので、計画期間30年以上となると根本から変わってくる。  また、今年度、マンションの建設・分譲主体である市住宅供給公社に来てもらい、ヒアリング会を開催した。マンション建て替えは高額の自己負担無しでは不可能であること(6年前の私の試算、還元率46%は大甘だった)、マンションの寿命は構造・社会・経済の要素が重なった時であり一律に決められないことなど、容易に長期修繕計画をやめて事故修繕に移行できないことを居住者の多くが理解した。  上記の「その後の経過報告 2018年4月追記」に記したように、「③その先の計画修繕については、2034年度の時点で住宅管理組合として改めてその後の方針を検討・決定する」と総会で決めたのだが、これが成り立たなくなった。早々に長期修繕計画を見直して計画期間30年以上にしなくてはならず、2025年度見直しと決まった。2034年度を計画修繕をやめるか否か選択の機会とする、ということは無くなり、5年程度ごとの長期修繕計画見直しのたびに将来について検討することになる。当面、計画修繕やめよう論は出ないだろう。  もう1点は、居住者の構成の変化、それに伴う意識の変化だ。  まず、これは想定どおりだが、全体に年齢が6歳上がり、60歳代、70歳代の組合員が多数になった。健康状態もまちまちで、理事就任を免除する制度を設けることにもなった。制度が間に合わず、急な病で亡くなる方も出た。5年後、10年後は、私自身も含めて状況がさらに進んでいることだろう。  昨年度は、一部の古手70代居住者から、20年・30年先のための修繕積立金など減らして、この5年・10年の「管理の充実」(=管理会社への委託を増やすこと)に振り向けようじゃないか、という主張が出て、管理組合が大きな混乱となった。計画修繕から事故修繕に移行し、何なら建替えでも土地売却でもすれば良い。自分の寿命より先のことは、野となれ山となれ。当事者意識が薄れた高齢者の本音バリバリだ。しかし、30年以上の長期修繕計画策定が義務となった現在、真逆の主張で成り立たない。  そこまでではないが、私も上記記事のとおり、将来について悲観的で、先のことは2034年度の時点でよしなに検討してくれ、と考えていたのだから、大きなことは言えないが。  その一方、想定外の変化があった。居住者の入れ替わりが少しずつあり、しかも入れ替わりで入居してきた30代・40代に、女性を含めて元気な人がいる。  若い居住者は腰かけかと思っていたら、永住意識がある。新築マンションの供給が減り価格が上昇しているので、ここにずっと住む意識になっているのだろう。管理組合についても、当事者として積極的に関わろうという意識が、以前より全体に強くなっている気がする。  高齢者世代から次の世代に引き継いでいく、その時期が来ており、条件も整いつつあるが、今は引き継ぎが出来ていない。逆に、高齢者世代の活動力と当事者意識の減退が、無理ある主張、自分中心の「老害」となって噴き出た。  次の長期修繕計画見直しは、再来年度、2025年度に行うことになっている。計画修繕を継続し、建物を延命する計画になるだろう。建替えは誰のためにもならず無理だし、土地売却という選択もまだ早過ぎる、当面、計画修繕を継続する以外に道は無い。これからの5年・10年を過渡期として、高齢者世代が管理組合業務を主導するのをやめ、次の世代に引き継いでいくべきだ。ようやく、そうした認識が共通のものになってきたと思う。  私の考えもそのように変化した。