高齢者がよく聞こえるテレビ用スピーカー 2024年2月

    電気工作というほどでないが、テレビが聞きとりにくいので外付けスピーカーにしてみた。高齢者御同輩のご参考に記事にした。 ■高齢者のテレビの音問題  18年使ったテレビに寿命がきて、32インチ液晶テレビに買い替えた。置き場所に合ったサイズで、最近の大型画面テレビではない。  音が問題で、前のテレビも聞き取りにくかったが、新テレビはさらに聞こえない。テレビの底面に小さいスピーカーが下向きに付いているので、音がこもってあちこち共鳴し、不明瞭なのだ。  ドラマで、BGM音楽や効果音が大きく聞こえ、相対的にセリフが聞き取れない。セリフも、大声に比べて小声・ささやき声の音量差が大きく、聞き取りにくい。  聞こえるように音量を上げると、今度は大きい音が歪んでうるさい。カミさんは、リモコンを片手に忙しなく音量を上げ下げしている。聞こえない主因は高齢者夫婦の聴力低下だが、テレビの音質も相当お粗末だ。  もう一つの理由として、デジタル放送になって、テレビ局側がダイナミックレンジを広めに録音したり、BGM音楽・効果音の音量をセリフに比べて高めにしたりしているのかもしれない。迫力・臨場感を増す意図があるのだろうが、われらの聴力やテレビの音質がそれについて行けてない。このことは、若い世代も含めてテレビ局に改善を要望する声が寄せられているようで、われら高齢者夫婦だけの問題ではないようだ。  いずれにしても、小さい音がはっきり聞き取りやすく、大きい音がうるさくない、そんなスピーカー改善策は無いものか。  オーディオを趣味とする私がこれを解決しないで何とする。  調べると、三つの方法がありそうだ。①テレビ用サウンドバーの追加、②テレビ用補助スピーカーの追加、③オーディオ用スピーカーの追加だ。  ①が、よくある選択だろう。サウンドバーとは、複数の小型ユニットを並べた棒状のテレビ用スピーカーで、テレビの直下に横置きして、デザインが調和するようになっている。上等なサウンドバーならばそこそこの音質になるだろう。が、画面の下から声が出てくるのは、映像と一致せず不利だ。そもそも、高齢者の聞こえ改善ではなく、低音の増強、迫力を目指しているので、問題の解決になるか疑問だ。  ②は、テレビ本体からの音に追加して、手元に置いて聞こえるようにする補助スピーカーだが、様々な商品が手ごろな値段で市販されている。まさに高齢者の聞こえに焦点を当てた商品だ。ただ、ほとんどがミニサイズの貧弱なスピーカーで、音質は二の次という感じだ。その中で「ミライスピーカー」という商品は、独自形状の振動板で平面波を発し、遠くまで音が届いて聞こえやすいという謳い文句だ。良さそうな感じだが、他より値が張る。  ③は、テレビ用でない、オーディオ用のアンプとスピーカーをテレビに接続するものだ。自己責任で勝手に行う接続だが、オーディオ的には正攻法だ。ただ、オーディオ的に高音質にすることが、必ずしも高齢者の聞き取りやすさにならないかもしれない。試してみないとわからない。また、大きく立派過ぎるアンプやスピーカーは、テレビの周囲に置いてそぐわないだろう。そこそこの範囲で、ということになる。  結局③の方法を選び、オーディオ用としては最小限度のアンプ、スピーカーを使ってうまく行った。 ■アンプ選び  高音質を目指すなら、テレビ本体と光ケーブル・HDMIケーブルなどで接続できるオーディオ用アンプが良い。しかし、一般のアンプは、テレビのリモコンを使って電源のオン・オフや音量調整を操作できない。いちいちアンプのリモコンやアンプ本体を操作することになって不便だ。  この問題をクリアできるのが、フォステクス社のアンプ、APシリーズだ。テレビの音声をデジタル出力でなく、ヘッドフォン出力から接続するので、テレビのリモコンで音量調整できる。ただし、ヘッドフォン用回路を経るので音質が少々落ちることになる。また、「オートスタンバイ機能」が付いていて、テレビの電源を切ると、自動でアンプが省電力のスタンバイモードに移ってくれる。この二つの機能により、アンプの操作が不要で使い勝手が良い。アンプをテレビの裏側に置いておくことができる。  フォステクス AP20dを採用した。手のひらに乗る超小型で値段も安いが、音質はテレビ用に十分事足りる。                                       AP20d アンプ ■スピーカー、エンクロージャー選び  わが家の居間の事情だが、32インチテレビを作り付けの棚に設置している。スピーカーはその横に置くので、なるべく小さく目立たないものが良い。といっても、あまり超小型では音が貧弱になるので、箱のサイズは幅10cm、高さ30~40cm程度が適当だろう。  出来合いの市販スピーカーも考えたが、アンプと同じフォステクス社の口径8cmの自作用ユニットを候補と定めた。小さく頼りないが、人の声の再生には実はこのくらいの口径が適している。テレビの音声は人の声が主なので、合理的な選択だ。FE83NV2とFF85WKの2機種があって、どちらも今回の目的に向くと思うが、FE83NV2の方がより軽い振動系で、細かい音が出そうなので第一候補にした。  8cmなので、どうしても高域寄り、低域不足の音になる。箱(エンクロージャー)の設計で低域を補い、バランス良い音にしたい。  一から自分で設計し工作したいところだが、それもちょっと面倒。市販品を探したところ、メルカリでダブルバスレフ箱が売りに出されていた。同じフォステクス社のM800-DBで、幅約13cm、高さ約30cm。もっとスリムで背が高いと良かったが、まあこんなところだろう。本来の組合せの8cmユニット、M800が付属している。M800の音が良ければそのまま使えるので、これを購入した。  届いたM800+M800-DBは、癖の無いおとなしい音だった。小音量でBGMを流すには良いが、今回目的とするはっきり、くっきり、明瞭という音ではない。また、音量を上げると少しうるささを感じる。やはりユニットはFE83NV2に交換することにし、秋葉原に出かけて他の材料とともに購入した。 ■M800-DBエンクロージャーの小改造  M800ユニットとの寸法の違いのため、FE83NV2をそのまま取り付けることができない。エンクロージャーを改造した。改造といっても、わずかな工作だ。 (1)ユニット取付ねじの位置が違うので、木ねじ穴を爪楊枝で埋め、穴をあけ直して、木ねじより取付強度が高い鬼目ナットを埋めた。 (2)ユニット取付穴の径が違うので、手元にあったウッドテープ(薄木で約0.5mmm厚・粘着剤付き)を5層ほど重ねて貼り、穴径を狭めた。するとユニットのターミナルがあたるので、切り欠きを入れた。 (3)貧弱だった内部ケーブル、接続ターミナルを取り除き、1.25sqのケーブルを直出しにして、そのままアンプに接続するようにした。音をなるべくはっきりさせたい。  それ以外はそのままで、板材の補強、吸音材の変更などは行わなかった。                            ユニット取付穴変更、鬼目ナットへの変更  FE83NV2ユニットを取り付けて、完成。  AP20dアンプに接続しての音は、一聴してM800ユニットの時より充実している。もちろん重低音、超高音は出ていないから力強さ・迫力は無いが、音域バランス良好で低域不足は感じない。音色もくせがなく自然だ。  実は、もっと高域強調の乾いて癖がある音色を予想し、それが歯切れ良さ・明瞭さになるという期待を持っていたが、それは昔のやんちゃなFEシリーズのこと。最近のフォステクス・ユニットは、癖を無くした優等生だ。 ■テレビに接続  スピーカーをテレビの両脇に正面向きで設置した。高さはちょっと低いが画面のだいたい中ほど。耳まで1m20cmほどの近距離で一直線。音がこもらないので、音量をさほど上げなくてもこちらに明瞭に届く。また、多少音量を上げても音が歪まず、うるさくならない。  音域バランスがとれて低域もある程度出ているので、背景音を余計に再生してしまい、マスキング効果で人の声が聞き取りにくいのでは、という心配をしたが杞憂だった。予想したような、乾いた音で強調するわけではないが、自然な音質で人の声が十分聞きやすい。良い感じだ。 ■ここで問題発生  目標達成、と思ったのだが、肝心なAP20dアンプのオート・スタンバイ機能が働いていないことに気づいた。  故障と思い、フォステクス社の相談窓口に尋ねたところ、テレビによっては(テレビの電源オン・オフに関わらず)ヘッドフォン出力から高周波ノイズが出ていることがあってスタンバイが機能しない場合がある、とのこと。残念ながら、わが家のテレビはそれにあたるようだ。  高周波ノイズの簡易対策として、信号ケーブル(3.5mmプラグのフォンケーブル)にフェライトコアを何個か付けてみたが効き目がない。これが効かないとなるとお手上げだ。  結局、ヘッドフォン出力への接続はあきらめた。ネット上の情報を検索すると、変換アダプターを使う方法ならば、オート・スタンバイが機能、音量調整がテレビのリモコンで可能、の二条件がかなうようだ。  テレビのARC対応HDMI出力からデジタル音声信号を抽出し、アナログ信号に変換してAP20dアンプに入力する。そんな都合良いアダプターが存在し、ネット通販で入手できる。中国製のARC Audio Extractor & DACで2,980円だ。  Amazonでは同じ品がサファイア、E-FINDSと二つのブランド名で出ている。国内販売元がそれぞれ付けた名だろう。製造メーカー名や型番は記載が無い。身元不明で不審な品だ。  躊躇したが、ニッチな分野で選択肢が他に無いので仕方ない。お試しできる値段だし、えいやでサファイアを注文した。  なお、国内メーカーでは、ラトックシステム社がHDMIオーディオ分離器RS-HD2HDA2-4K(4,980円)を出しており、こちらなら安心だが、残念ながらアナログ出力が3.5mmフォンジャックだけでRCAピンが無いため、選ばなかった。                                       購入したARC Audio Extractor & DAC  この変換アダプターも、AP20dアンプも、電源はACアダプターなので高周波ノイズがあると思われ、万全を期してノイズフィルターを付けた。国内メーカー FX-AUDIO製のPetit SusieとPetit Tankのセット。  接続したら無事に音が出た。テレビのリモコンで音量調節ができ、AP20dアンプのオートスタンバイ機能も働く。怪しいアダプター、良い働きだ。 ■音がよく聞こえるようになった  テレビの音声の取り出しをヘッドフォン出力からHDMIに変えたことで、音質がよりクリアで躍動感ある音になった。ノイズフィルターを加えたこともプラスに働いているようだ。  テレビの音声は人の声が中心だ。ニュースのアナウンス、場面が次々変わるドラマ、音楽が背後に流れるナレーション、背景音が入るドキュメンタリーなど、どれもちゃんと声が通って聞き取りやすい。やはり口径8cmは人の声に適している。  人の声以外、例えばクラシック音楽の番組だが、さすがにフルオーケストラは苦しいが、器楽、室内楽はまずまずだ。映像とともに演奏を聞くと、視覚が聴覚を補ってくれることもあり、各楽器の音色が十分それらしく聞こえる。音楽番組もOKだ。  ただし、これは高域の聴力が衰えた高齢者の感想であり、若い人が聞くと高域強調、低域不足と聞こえるのかもしれない。  音場の再生、臨場感も良好で、野球中継で、外野スタンドの応援や高架鉄道線の音まで、スピーカ―外側の遠くから聞こえたりする。  操作性も、テレビのリモコンで音量調整できるのはやはり便利だ。その調整を、カミさんがあまりしなくなった。そしてこれまでより音量が低くなっている。聞こえの効果があったようだ。  オーディオ的アプローチが果たして通用するか不安があったが、「小さい音がはっきり聞き取りやすく、大きい音がうるさくないスピーカー」という目標を達成できた。 ■(参考)  このサファイア アダプターについてのAmazonの口コミには、うまく機能しているという情報とともに、音が出ないという情報がある。接続・テレビ側設定の問題とも思うので、ご参考にわが家の例を記す。 ・テレビはシャープ製2T-C32EFI。アンプはフォステクス製AP20d。 ・テレビ・アダプター間の接続   テレビのHDMI 1(ARC/eARC対応)出力 ⇒ アダプターのHDMI入力     ホーリック製ウルトラハイスピードHDMIケーブル(ARC対応)で接続。 ・アダプター・アンプ間の接続   アダプターのRCA L・R出力 ⇒ アンプのRCA L・R入力     RCAケーブル(20cm)2本で接続。 ・テレビの設定  ・ツール>サウンド>スピーカー     テレビ・SPDIF/Optical・HDMI-ARCから、HDMI-ARCを選択。  ・ツール>サウンド>デジタルオーディオ出力     パススルー・PCM・オートから、パススルーを選択。  ・アンプ・アダプターを接続して電源を入れた状態で、テレビ本体の電源を切り、20秒程度待って再度入れる。     ここが隠れポイントで、接続・設定は即時に反映されず、テレビ電源の切・入をしてはじめて反映される。     テレビ内部のマイクロコンピューターを再起動させる、ということだろうか。 ■まとめ  われら夫婦は老人性難聴の入口段階なのだろう。テレビ用外付けスピーカーとして、AP20dアンプとFE83NV2ユニットを使い、良い結果が得られた。この方法は、同じようにテレビの音が聞き取りにくい高齢者にお勧めできる。高齢者以外にも、テレビの内蔵スピーカーの音質に不満な方にはお勧めだ。  ユニットはFF85WKでも良いはず。エンクロージャーは、使用したM800-DBも悪くないが小改造が必要だ。フォステクスがFE83NV2、FF85WK用設計のバスレス箱 BK85WB2を販売しており、ユニットをねじで取り付けるだけで完成なので良いと思う。サイズはM800-DBより一回り小さい。高さ10cm程度の台にのせるとちょうど良さそうだ。  テレビの音を聞きやすくしたいが、電気もメカも苦手、設置や設定も面倒、という方には、今回のようなアンプ、スピーカーのセットを勧めても難しいだろう。しかし、音が聞き取りにくいとテレビも楽しめないので、市販のテレビ用補助スピーカー(ミライスピーカー、手元スピーカーなど)をつけて、とにかく聞こえるようにした方が良い。設置は誰かに頼めば良い。  また、老人性難聴は加齢とともに進行する。先々は、テレビのスピーカ―外付けで解決せず、補聴器や人工内耳を検討するのかもしれない。