ヘッドフォンケーブルの自作 - フォステクスT60RP用 2018年2月

■フォステクスT60RP  長年使っているヘッドフォンは二つ。室内で、じっくり聴くリスニングや合唱練習に使っている。  中級のゼンハイザー HD-650は、聴き疲れしないのは良いが、もうちょっと鮮やかさがほしい。  上級のウルトラゾーネ Edition 9は、fレンジ、dレンジが広く音質に文句は無いが、装着して側圧があり密閉型の閉塞感もあって、長時間聴くには辛い。高音質で掛け心地が良い品があれば、というところだ。  フォステクスのヘッドフォン T60RPは、発売されたばかりの新型だ。  平面駆動型が特徴だが、樹脂フィルムにコイルパターンをプリントした振動板で、コンデンサー型でなくダイナミック型。多分、平面駆動の歪みの少なさは備えているだろう。インピーダンスは50Ωだが、92dB/mWという低能率。ちゃんとしたヘッドフォンアンプで鳴らすことが前提だ。密閉でなくセミオープン型というのも良い。価格は3万円ほどと安いが、磨けば光る素質がありそう。現用の2機種から少し変化がつけば面白い。ということで購入した。    Fostex T60RP ヘッドフォンと付属ケーブル(左)、自作ケーブル(右)    ■フォステクス付属ケーブルでの音質  USB DAC/ヘッドフォンアンプ Oppo HA-1(アンバランス接続の6.3mmジャック)で試聴。低能率なので、ボリューム位置は2時くらいになる。ちなみに、手持ちのスマートフォンに接続すると、フルボリュームでも音量不足で使い物にならない。  鳴らし始めは、高域寄りで硬い音だが、エージングでどんどん変化した。  エージング40時間で、変化が一段落した。低域が出るようになり、fレンジのバランスが良くなった。気になるような癖も無い。  モニター調の高音質というだけでなく、しなやかな美しい音になり、ニュアンスも出てきた。例えば、ホールに漂う低弦の残響、チェロ独奏のなまめかしさなども出ている。細かな音が出るようになった感じで、ずいぶん良くなった。  構造上、このヘッドフォンは振動板の質量がありそうで、実際能率も低い。音量を上げないと生気が無い、細かい音が出ないタイプかも。素質の中でもそれが気がかりだったが、杞憂だった。 ■アモルメットコアを実験  一昨年(2016年)、(株)中村製作所のノイズフィルター「アモルメットコア」が発売され、雑誌やネットで好評の記事が出ている。眉に唾を付けつつ、効果を実験してみることにした。  6.3mmフォーンプラグとジャックの間に、NS-115(内径5mm)をL、R各1個入れて、実験用アダプタを作った。アンプに直接接続した場合と、コアを介して接続した場合との比較ができる。  結果は、予想以上に良好。音量感が上がって、ボリュームは1時で良い。3dBほど上がった勘定になる。また、S/N比が良くなり情報量が増える感じ。音場が広がり、定位も良くなる感じ。総じて音質向上と言える。信号系にノイズフィルターを入れることで、音痩せしないかと心配したが、特に副作用は無い。自作ケーブルに採用することにした。    アモルメットコア実験用のアダプタ    ■バランス接続ヘッドフォンケーブルの自作  ヘッドフォンアンプ Oppo HA-1には、4極XLR端子でいわゆるバランス接続ができる。ゼンハイザー HD-650、ウルトラゾーネ Edition 9も、ケーブルのプラグを4極XLR端子に改造し、バランス接続で聴いている。  フォステクスT60RPも同様にしたい。付属ケーブルは長さ1.5mで室内で据置き型ヘッドフォンアンプに接続するには短い。4極XLR端子の別売ケーブルがあるが、同じく1.5mなので、自作することにした。その際、アモルメットコアも付けたものにしたい。  材料は、次のとおり。秋葉原で買いそろえた。 オヤイデ電気 オヤイデ製 1芯シールド2本平行ケーブル HPC-23TN V2 5m   同    オヤイデ製 3.5mm4極ミニプラグ P-3.5/4SR 1個   同    PET外装チューブ 3m トモカ電気  ノイトリック製 4極オスXLR型コネクター 1個 キョードー  中村製作所製 アモルメットコア NS-115 2個  以上で、7千円ほど。  ケーブルはアンバランス接続のヘッドフォン用だが、半分に切ってバランス接続用に2本を合わせてPETチューブに入れる。これで2.5mの4芯ケーブルができる。    上から、フォステクス製 付属ケーブル        アモルメットコア        ケーブル(2本をPETチューブに入れたもの)、3.5mmプラグ        XLRコネクター     材料の部品を接続するだけの単純な工作だが、注意の第一は、3.5mmプラグのはんだ付けだ。ケーブル導体をプラグ側にからげて固定することができない。加えて、プラグのロジウムメッキにはんだが乗りにくいため、どうしてもはんだ付け不良を起こしやすい。作業が難しい無鉛はんだでなく、共晶はんだを使っているのだが。接着のようなはんだ付けになり、接合にまで行かないのだ。困ったプラグである。  導体の適切な切断・曲げ、予備はんだ、フラックス塗布など、下ごしらえを念入りにして、注意深く作業する。素人には、なかなか難しいはんだ付けだった。  次に作る時には、同じオヤイデのプラグでも金メッキのP-3.5/4Gで試したい。  注意の第二は、線材の機械的強度だ。アモルメットコアはドーナツ状の部品で、+-往復を穴に通す。通す部分は外シース(被覆)とシールドを剥ぐ必要があり、内シースと細い導体だけとなって、強度がぐんと落ちる。3.5mmプラグも、外シースを剥がないとハウジングに入らないので同様だ。  熱収縮チューブを被せて補強し、力がそちらにかかるようにする。はんだ付け前に、落ち着いて最善の攻略方法を考え、それから作業だ。  出来上がりは、外装チューブのグレー・メッシュで高級感がある。HPC-23TNケーブルが、そもそも硬い外シースの平行ケーブルなので、それを2本づかいして外装チューブに入れると、ヘッドフォン用には過剰な太さ、硬さになってしまう。丸めてまとめることができないほどだ。室内でのリスニング用なので、それでも問題は無いが。  抜け道として、HPC-23TNの芯線ごとのシールドをL、Rのマイナス側として使えば、1本でバランス接続できる。取り回しははるかに良くなるが、これはやはり避けたい。  同じオヤイデのヘッドフォン用ケーブルに2芯シールドのHPC-24W V2があり、導体はAWG23からひと回り細いAWG24になるが、同様に2本づかいで4芯にするにしても、こちらの方が出来上がりが柔軟になって良かったかもしれない。  室内で聴くバランス接続ヘッドフォン用に、AWG20~22くらいの良質の4芯切り売りケーブルがあると良いのだが。    出来上がった自作ケーブル    ■自作ケーブルでの音質  良い音である。付属ケーブルでもなかなかの音だったが、さらにダイナミックで、音場が広い。鮮やかさ、生々しいリアルさがあるが、強調している感じでなくナチュラル。ずっと聴いていたくなる音だ。  付属ケーブルに比べ、導体が太くなった上、バランス接続、アモルメットコア追加だから、音質向上は当然と言えるが、ヘッドフォンT60RPの潜在能力の高さも褒めるべきだろう。  手持ちのヘッドフォン(アモルメットコアを付けていないがバランス接続)との比較では、ウルトラゾーネ Edition 9には敵わないが、ゼンハイザー HD-650を上回ると感じた。フォステクスは、価格からすると大したものだ。  装着感も良好で、耳への圧迫、頭への側圧は気にならない程度。快適に長時間リスニングできる。常用のヘッドフォンとして愛用することになりそうだ。