CMOYアンプを作った - ヘッドフォン用ポケットアンプです 2014年12月

■CMOYアンプとは  ポータブル・プレイヤーに小型ヘッドフォン用アンプを接続すると、プレイヤーのヘッドフォン出力からの直接より、ちょいと良い音になる。  ヘッドフォンに関する米国のサイトHeadWiseがあり、ヘッドフォン用アンプの設計が数多く載っている。Chu Moy氏設計のこのアンプもその一つだ。こちら  単純この上ないアンプだが、その割には音が良く、CMOYアンプと呼ばれて世界中で多くの人に作られている。  私も、かつて2000年頃にこのサイトを見てこのCMOYアンプを作った。電気工作歴の初期のことだったが、少ない部品で音が出る面白さに魅せられ、その後電気工作を続けるきっかけになった。  しかし、作ったもののあまり出番が無かった。当時は、外出先で音楽を聴くことが無かったからだ。最近になって、合唱の音取り練習のため、外出先でiPod touchやiPad miniを使って音楽を聴くことが多くなった。ようやくCMOYアンプの出番が来た。  しかし引っぱりだしてみると、15年が経過して配線の一部が切れたりしている。この際、初心に戻り、作り直して遊ぶことにした。 ■その1 オリジナル設計で改めて作った  CMOYアンプは、OPアンプ(Operational Amplifier)と呼ばれる増幅回路の汎用ICユニットを使い、いくつかの部品を加えた非反転増幅回路という最も基礎的なアンプだ。2000年の工作もそうしたが、基本的にこのChu Moy氏のオリジナル設計のまま作る。  一般的なドットパターンのユニバーサル基板に部品を取り付けて、ハンダ付けしたが、OPアンプの周囲はなかなか細かい作業になる。カプリング用コンデンサーは、以前の工作で使用したポリプロピレンフィルムの1μFを、取り外して再利用した。サイズが大きいのが難だが、音質のかなめになる部品なのだ。  ケースは、これまた以前に作った時のものを流用する。ALTOIDSというイギリス製のペパーミントの錠剤のような粒が入っていた缶で、95×60×20mmほどの大きさだ。006P電池を含めると余裕無い大きさで、靴べらでぎりぎり滑り込ませる感じだが、出来上がりがちょいとしゃれている。  ケースに書かれた商標からそのまま、ALTOIDSアンプと呼ぼう。  ボリューム調整のつまみも付いていない。その代わり音量が大きすぎるときに下げるレベル変更スイッチを付けてある。細かな音量調整はプレイヤー側で行えば良い、という割り切り設計だ。もう一つのスイッチは、電源の入切だ。 ALTOIDSアンプの回路図、外観、内部 ■その2 低インピーダンス用設計で作った  オリジナル設計は、FET入力のOPアンプを使う前提であり、せっかく買ったMUSES 02がバイポーラ入力のために使えない。また、海外に多い100Ω以上の高インピーダンスのヘッドフォンを前提にした設計になっていて、わが国の低インピーダンス・ヘッドフォンでは不具合が生じる。  この問題への対応として、「ヘッドホンアンプ自作 初心者のためのWiki」というサイトに「Chumoy低インピ対応」という設計が載っており、これが良さそうなのでそっくり使わせてもらうことにした。感謝! http://wikiwiki.jp/hpa4shoshin/  オリジナル設計から抵抗の値を一部変えていて、低インピーダンス・ヘッドフォンへの対応、バイポーラ入力への対応をしている。増幅率を下げているため、入力レベル変更のためのスイッチと抵抗は省略した。 電源もここでの設計に従い、抵抗による分圧でなくレールスプリットIC、TLE2426ILPを使った。これにより正確に1/2分圧ができ、低インピーダンスでも分圧を安定させるための20~50Ωの抵抗は不要になったので省略した。  カプリング用コンデンサーは、最近発売されたパナソニックの積層メタライズドPPSフィルムコンデンサー ECHUシリーズの音質が評判良い。一番大きいものが0.22μFなので、これを2個並列し0.44μFにして使った。ハイパスフィルターのカットオフ周波数は3.6Hzになる計算だ。1μFの1.5Hzには劣るものの、実用上は十分なはず。サイズが極小なのは、今回の用途にぴったりだ。  今回は、ユニバーサル基板の種類を変えて、OPアンプに向くICパターンの基板にしたので、ハンダ付けも容易だった。  ケースは、同じくペパーミントの缶だが、2000年当時からの手持ちで、もう一つアメリカ製のZingosのものが1個あったのでこれを使った。大きさはALTOIDSとほとんど同じ。  こうしたペパーミント缶だが、最近は袋入りになってしまい、缶が手に入らなくなっているのは残念。金属缶をケースにすると、外部からのノイズを遮断する効果がある。まあ、ハンドクリームの丸い金属缶、紙箱にアルミフォイルを内貼りするなどで良いのだが。  こちらの名は、Zingosアンプだ。 Zingosアンプの回路図、外観、内部 ■OPアンプの比較試聴  OPアンプは、Chu Moy氏のオリジナルではOPA134である。2000年の工作ではその2回路版のOPA2134を使った。これはそのまま再利用できる。  また最近、日本のメーカーである新日本無線がオーディオ用OPアンプを発売し評判が良い。これを一度試してみたかったので、±3.5V以上の電源で使える高級版のMUSES 02(バイポーラ入力)と量産版のMUSES 8920(FET入力)を購入した。もう一つの高級版としてFET入力のMUSES 01があるが、こちらは±9V以上なので9V電池を1/2に分圧した±4.5V電源のCMOYアンプでは使用できないのだ。  OPアンプを差し替えて、比較試聴した。プレイヤーはiPad mini。使ったイヤフォンは、オーディオ・テクニカのATH-CKS77X。音源はクラシックの合唱曲で、CDからリッピングしたwavファイル。  初めに、ALTOIDSアンプのOPアンプを差し替えてみる。ケース内のスペースに余裕が無いため、変換基板に付けたOPA134PA×2やOPA132PA×2を試聴することはできなかった。 ①OPA2134PA、MUSES 8920、MUSES 02の比較(ALTOIDSアンプ)  OPA2134PAは音が硬い感じ。MUSES 8920の方が音質が自然に感じられて良い。  MUSES 8920は、かなり良い音質だ。合唱の各パート、管弦楽の各楽器がそれらしい音で聴こえる。良い音なのだが、高域がわずかに爽やかすぎてリアルさを減じている。  MUSES 02は、バイポーラ入力のためこの回路では発振してしまい、使えない。  AlTOIDSアンプには、MUSES 8920を採用することにした。 ②iPad miniの直接出力とMUSES 8920の比較(ALTOIDSアンプ)  直接出力も決して悪くない音質である。これだけを聴く限り、特に不満は無い。しかし、ALTOIDSアンプを介した場合に比べてしまうと、やや力感に乏しく、平板な感じ。  ALTOIDSを間に入れると、音楽がダイナミックな感じになり、空間も広がる印象だ。ただ、違いは微妙と言えば微妙で、マニアックな世界と他人には言われそうだ。  次に、OPアンプを同じMUSES 8920に揃え、ALTOIDSアンプ、Zingosアンプを比較した。 ③ALTOIDSアンプ、Zingosアンプの比較(MUSES 8920)  ALTOIDSアンプ、Zingosアンプを比べても、同じMUSES 8920を載せているので、ほとんど同じ音。カプリング・コンデンサーの違いは、さほど音には表れていない。ALTOIDSの方がカプリング・コンデンサーの容量1μFが効いてか、低域がより部厚い感じだ。しかしそれ以外は、Zingosはずっと外形が小さい積層コンデンサーながら特段聞き劣りしない。このコンデンサーの音質の評判は本当だった。  その後、Zingosアンプに以下のOPアンプを差し替えて比較した。 ④OPA2134PA(Zingosアンプ)  バイオリンやテノール、ソプラノの音がやや硬い感じで、やや劣る。 ⑤OPA134PA×2(1回路版2個を、変換基板を使って2回路版化)(Zingosアンプ)  OPA2134の1回路版で回路は同じはずだが、音場が広がる。セパレーションが良いのだろう。音が硬くなる傾向はやはりあるものの、OPA2134より大分少ない。なかなか良い音質だ。 ⑥OPA132PA×2(同じく2回路版化)(Zingosアンプ)  Chu Moy氏の最初の設計では、このOPA132を2個使っていた。OPA134×2より、低域がやや薄い感じで、テノールがちょっとかん高くなる。少し帯域が狭いのかもしれないが、無理なく自然な感じで、これまた悪くない音質だ。 ⑦MUSES 02(Zingosアンプ)  Zingosアンプでは、発振せずにちゃんと動作する。各楽器、合唱の各パートがそれらしい自然な音色だ。高域、低域とも伸びている。音場も広がりがある。分解能も高い感じ。④~⑥と比べて、1ランク上の最も良い音質だ。①~③のALTOIDSアンプ(MUSES 8920)と比べて、少しボリュームを上げても強調やうるささが無く、より良い音だ。  OPA2134PA以外は、MUSES8920を含めてどれも十分使えると感じたが、やはり最も印象が良かったMUSES 02を採用することに決めた。 MUSES02は、オーディオテクニカのATH-CKS77Xイヤフォンとの相性も良く、自然な音で、かつ音色の細かなニュアンスを聴かせてくれる。外出用としてだけでなく、自宅で音楽を聴くためのシステムとして使える水準の音だ。