しまなみ海道・倉敷・直島 ― 初夏の中国地方輪行 2017年5月

●テーマ ・しまなみ海道ライドで、瀬戸内の景色を楽しむ。 ・広島に住んでしまなみ海道を走っている甥、この頃自転車に熱を入れているさいたま市の弟、私の三人で走る初ツーリングでもある。 ・しまなみ海道の前後、これまで訪れたことのない尾道、倉敷、直島を単独で周遊する。 ●行程、日程の計画  今回の計画は、弟が呼び掛けてくれた。しまなみ海道の日程、宿泊先、ルートも調整・手配してくれた。私は、ほとんど下調べせず、お任せで臨んだ。弟と私は、それぞれ新幹線で輪行し、尾道で集合して、1泊。  しまなみ海道で最高の景色は来島海峡大橋からだ、という甥の意見があり、今治から北上することになった。自転車を搭載してくれる高速バスで、尾道から今治に渡り、今治からスタート。途中、甥が広島からやはり高速バスで来て合流。大島、伯方島、大三島、生口島、・・・と北上して尾道に戻るルートだ。  健脚ライダーなら1日のルートだが、われらは途中の大三島で1泊するのんびりツーリングだ。  しまなみ海道は、島と島を結ぶ橋の区間は高速道路の脇を走り、各島内の区間は降りて一般道を走る。  その島内道路も、ブルーラインと呼ぶ推奨ルートが設定されている。青色の路側帯が引かれ、迷わずにたどることができる。大多数の人はブルーラインを行くが、われらは海岸沿いの外周コースなど、遠回りのルートも織りまぜ、急がず景色を楽しむ計画とした。  尾道でチームは解散。私はせっかく来た中国地方なので、輪行で倉敷に行き、市内を観光して3泊目。さらに宇野港までツーリングして、フェリーで直島に渡り4泊目。アートを見ながら島内を自転車で巡るというおまけをつけた。帰路は、フェリーで宇野港へ戻り、宇野駅からJRで輪行。岡山で新幹線に乗り換え、横浜へ戻るという計画だ。 ●ルート ・その1  (尾道から今治までバス輪行)  今治~大島~伯方島~大三島~生口島(尾道までフェリー)   ルートの詳細は https://latlonglab.yahoo.co.jp/route/watch?id=48e646b29b26807576ea11aca97b186e ・その2  (尾道から倉敷までJR山陽本線輪行)  倉敷駅~玉野市宇野港(直島までフェリー)   ルートの詳細は https://latlonglab.yahoo.co.jp/route/watch?id=89511fdb2ae21c56cf043317860ef0b1 ・その3  直島島内   ルートの詳細は https://latlonglab.yahoo.co.jp/route/watch?id=d74cc8a5e12bf57e6931f99075a950e4 ●第1日 5月25日(木)  新幹線で輪行し、新尾道には13時過ぎに到着。新尾道で自転車を組み立てて、走行スタート。  尾道市内で、地魚のにぎり+刺身の定食。  初の尾道なので、自転車で市内をポタリングし、ロープウェイで千光寺公園へ登る。尾道水道が眺望できる。  徒歩で下って、千光寺、猫の小道、天寧寺など観光ルートを回る。常泉寺、西國寺、浄土寺など、この町には立派な建物の古い寺が並んでいる。  弟と落ち合って夕食。また別の寿司店で穴子丼ほかの魚料理。美味。  「尾道U2ホテル サイクル」に宿泊。尾道駅近くの海岸べりの倉庫を改造した場所で、ホテルのほか、自転車店、こじゃれたレストラン、カフェなどが入っている。ホテルも自転車客を想定して、機能的。 ●第2日 5月26日(金)  朝7時、尾道駅発の高速バス(おのみちバス「しまなみサイクルエクスプレス」)に乗り、今治へ。このバスは、自転車の前輪を外すだけで車内に搭載でき、便利。1時間半ほどで、終点の今治桟橋 に到着。  今治市内を抜けて、来島海峡大橋へ。瀬戸内の島と海が見渡せて、なるほど素晴らしい景色だ。  来島海峡大橋の中間、第二大橋の馬島バスストップで、甥が合流。チーム三人が揃った。  来島海峡大橋を渡ると、大島。  島内は、ブルーラインでなく、南東海岸線沿いを反時計回りに行く。ところが、平らな地形が少ない島なので、10%前後のきつい勾配のアップダウンが何度も続く。われら3人チームは、次第に甥、弟、私とばらけていく。正直に年齢の順だ。全く、齢は争えないものである。  昼食を食べた「食堂みつばち」は、そんな途中の高台にあり、ハアハア言いながらたどりついた。  ところが、ママチャリに近いようなレンタサイクルでそこに来ている若い女性たちがいる。この後のルートでも、レンタサイクルの涼しい顔の女性たちの進出があちこちで見られた。彼女らが強いのか、われらが弱いのか。嗚呼。  写真はそうしたアップダウンを終え、ブルーラインに戻って平らな海岸道路だ。次に渡る伯方・大島大橋が前方に見える。  伯方・大島大橋を渡り、伯方島へ。この島は、推奨のブルーラインを走行し、大した勾配なくすぐ通過する。  大三島大橋を渡ると、次は大三島。  この島で、ブルーラインは島の東海岸を短く通過するだけだが、我々は島の南西部にある今夜の宿泊地「大三島ふるさと憩いの家」を目指し、南海岸線沿いに大きく時計回りに進んだ。この島も、6~8%の勾配ながら、だらだら長くアップダウンが続く。私は、次第に二人に置いて行かれるようになった。登りだけでなく、平地や下りでも追いつけない。向かい風もあって苦しい。宿泊地にたどり着いたときは、だいぶ足に来ていた。  大三島ふるさと憩いの家に宿泊。小学校跡を宿泊施設にしているところだが、思いがけず魚料理が良かった。刺身、煮魚、揚げ物(オコゼのから揚げ)と盛りだくさんで、美味しかった。 ●第3日 5月27日(土)  朝になって昨日の不調の原因が判明した。私のクロスバイクは、きつくクイックレバーを絞めても、シートポストが下がってくる欠点があるのだが、今回新たに購入したリクセンカウルのシートポストバッグ「コントアー・マグナム」が一緒に下がってきて、底面がタイヤに接触していたのだ。絶えずブレーキをかけた状態であり、サドルも3cmほど下がって効率の悪いポジションになっていたのだ。そういえば、キューキューと異音がしてい た。それに対処しなかった、というお粗末だ。この日は、ホイールがよく転がり、元気に走れる。  近くの伊藤豊雄建築ミュージアムに寄ってから、大三島の島内を行く。昨日の南海岸に比べれば、優しい勾配の坂だ。  宮浦の交差点から80mほどの峠を越えて上浦、さらに道の駅に到着。途中のアップダウンがまた厳しく、私がチームの足を引っ張る可能性を想定していたので、思ったよりずっと早い到着だ。  写真は、道の駅多々羅しまなみ公園から見た多々羅大橋。(人物は無関係の人。土曜なのでサイクリストが多い)  多々羅大橋を渡った生口島のレモン畑。もうレモンの収穫期は終わっている。  生口島は推奨のブルーライン(西北側海岸線を時計回りに進む)で、島北側の瀬戸田へ。穴子丼の昼食を食べ、ジェラート屋に寄ったのち、瀬戸田港へ。  午後の時間がたっぷりあるが、残る因島と向島は自然の景観がだいぶ減って、眺めの楽しさが少ない。また、坂での私の体力消耗を心配してくれて、今回のしまなみ海道ツーリングはこれで切り上げ、渡船で尾道に戻ることにした。  快速船は小型で、自転車は船尾の甲板に次々と重ねて立てられる。傷が付くかもしれないが、それが嫌な方は別の交通手段をとってくれ、と船員が言う。全体として、サイクリングにとても配慮のあるしまなみ海道だが、 これはいささか残念。私のクロスバイクは古くて傷だらけなので構わないが、 新しく綺麗なロードバイクの人は困っていた。薄いシートでも間に挟めばずいぶん違うと思うのだが。  40分ほどで尾道駅前の桟橋に到着。ここで、チームは解散。  ここからは単独行動だ。JR山陽本線で尾道まで輪行。この輪行は、昼の乗客が少ない列車と見越して、前輪だけ外して輪行袋で覆うという無精をさせてもらった。そのかわり、邪魔にならないよう、最後尾車両で小さくなっていた。短い区間の空いた列車だったので、こんな手も使える。  到着後すぐに、倉敷の観光スポット「美観地区」に。大原邸や大原美術館など倉敷川沿いが有名だが、一本裏の本町・東町には、白しっくいの町家が多く残り、昔風の町並みになっている。多くが観光客向けの店になっているのは仕方ないことだが、ちょっと興ざめだ。 >  大原美術館に行きたかったが閉館時間が迫り、入れなかった。倉敷観光はここまでとし、アパホテル倉敷駅前にチェックインした。このホテルはこれまで泊まったビジネスホテルの中でも特に狭く、居心地良いとは言い難い。自転車の置き場も無く、裏手にある駅前市営駐輪スペースを紹介された。宿代は結構高いので、夕食、朝食は外でとった。観光地の駅直近のビジネスホテルなので、まあこんなものでしょう。 ●第4日 5月28日(日)  翌日は、大原美術館へ。9時の開館前から観光客が待っていて、どっとなだれこむ。  この美術館は、倉敷紡績などを経営した大原孫三郎のコレクションだが、個人の趣味での蒐集ではなく、才能を認め経済的支援をした洋画家児島虎次郎の、優れた西洋美術を日本に紹介したいという提案を二人で実行したものだという。私的動機でなく、公共的な思いからのコレクションだった。虎次郎同時代の印象派が主だが、エル・グレコの「受胎告知」などもあり、良い絵を偏らずにという感じだ。焦点のないバラバラなコレクションと も言える。  大原美術館は倉敷川のほとりにあり、周囲は落ち着いた風情だ。朝で観光客も少ない時間だ。  そのまま自転車ツーリングで、倉敷から南に25kmほどの玉野市宇野港へ向かう。ここから直島へのフェリーが出ている。  手持ちの地図はざっくりとしたものだったので、ホテルで出がけに道路地図を見せてもらおうとしたのだが無く、道案内も要領を得ない。道を尋ねながらたどったルートのため少々遠回りになった。川沿いの道が多く気持ちよく走ることができた。  玉野市の市街地に入る手前に80mほどの峠があるが、広めの歩道を走ることが出来、勾配もせいぜい8%程度で走りやすかった。  無事、宇野港に着き、大型のフェリーに乗り込む。今回は、自転車は自動車のスペースの脇、二輪車に並べて置くことができた。  フェリーは宇野港を出発。  20分ほどで直島の宮浦港に到着。埠頭で迎えてくれるのは草間彌生の「赤かぼちゃ」。  埠頭の「海の駅なおしま」で昼食をとり、地図をもらってアート巡りに出発。島の中央を横断して本村エリアに向かう。この横断は20mほどの起伏で、大きな峠は無い。  本村エリアには、民家を改造してアート作品にした「家プロジェクト」が点在する。一人のアーティストが1軒を任され、それぞれ面白い作品になっている。  その最初の一つが「はいしゃ」。大竹伸朗氏の作品だ。  本村エリアは、こんな細い路地が続く。この先に千住博氏の「石橋」がある。このあたりは、徒歩でまわった。  これは「南寺」。暗闇の中の視覚を使ったジェームズ・タレル氏の興味深い作品。建物は安藤忠雄氏の新築。  ひととおり家プロジェクトを見回り、積浦地区の宿に入った。  この宿は、平屋建て3軒のアパートを宿に流用したような感じで、のんびりできる広さの居間兼寝室、食器・調理用具を備えたキッチン、独立した風呂・トイレがある。特に、ありがたかったのは洗濯機があったこと。風呂に入っている間に、ウェアを洗濯・脱水でき、おまけに外の自転車置き場に物干しがあって干すことができた。1泊というよりしばらく住むことができる。  キッチンを備えて食事の提供が無い「アパートホテル」という宿のジャンルがあるが、まさにそれだ。前日の、紛らわしい名のホテルとは大きな違いである。  夕食は、近くの地元の食堂兼居酒屋「らうめん積」でとり、食後の漁港の夕暮れ。 ●第5日 5月29日(月)  朝食付きという宿泊だったが、提携している近所のイタリアンレストランで食べることになる。この朝食は美味しかった。  この日は、直島の南側、ベネッセがプロデュースしたこの島のアートの本拠地「ベネッセアートサイト直島」敷地内のベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、地中美術館を回る。ここは起伏が大きく、坂の勾配も15%くらいのところもある。  ところが、東ゲートから敷地内に入るところで、李禹煥美術館、地中美術館が本日、月曜日が休館と知った。前もってちゃんと調べておくべきだったが、迂闊だった。特に、地中美術館は、安藤忠雄設計の面白そうな建築であり、この直島の中核だ。残念。悔やんでも、家プロジェクトの方も月曜が休みであり、今回は両方を見ることは難しい日程を組んでしまった。やれやれ。  さて、気を取り直し、年中無休で開いているベネッセハウスミュージアムを見て、李禹煥美術館、地中美術館は外観だけでも拝むことにした。そうするほかない。  この敷地内のルートは、私有地内の私道であり、ベネッセのシャトルバス、徒歩のみ通行可とされている。自転車については「閑散期に限り通行できる場合があります」という但し書きがある。土曜、日曜はダメなようだ。 今回は、幸か不幸か、両美術館休館の月曜なので自転車通行ができた。火曜から金曜はどうなのかは不明。自転車でこのルートを行こうとする人は、NPO直島町観光協会に事前に聞いてください。  東ゲートを通ってすぐの海際にある、草間彌生の「南瓜」。景色に馴染んでいる。  ベネッセハウスミュージアムのベランダから見た景観。  李禹煥美術館のアプローチからの外観。これも安藤忠雄の建築だ。  北ゲートを通り抜け、地中美術館は一般道沿いにある。こちらも外観だけでもと思ったが、その名のとおり、建物の多くが地中にあり、ゲートからはコンクリート壁1枚が見えるだけ。写真にもならない。安藤忠雄という人は、建物の外観以上に、抽象性の高い内部空間をつくりあげる天才的センスを持つと思っている。その内部空間を地中博物館で見たかったのだが・・・。  しかたなく坂を下って宮ノ浦エリアへ。写真は、藤本壮介氏の「直島パヴィリオン」。子供たちが遊具にしている。  直島銭湯「I♡湯」。実際に入浴できるらしい。  昼前に宮浦港に着いてしまい、ちょうどフェリーが到着。これにて直島を切り上げ、帰途につくことにした。  帰路は、フェリーが着く宇野港に隣接するJR宇野駅から輪行した。岡山駅で新幹線に乗り換えて横浜まで帰った。 ●まとめ ・ルートラボ上、総走行距離122.9km、獲得標高上り2,615m  内訳:しまなみ海道(今治~生口島):走行距離87km、獲得標高2,349m      冒頭に掲げたルートラボ図では獲得標高2,449mだが、自転車のルートを正しく辿れず、「直線モード」を使って描いた区間3か所が海抜0mになっている。実際にはなかった上りが併せて100mほどあるので、これを差し引いた。     倉敷~宇野港:走行距離27.5km、獲得標高130m     直島半周:走行距離8.4km、獲得標高136m ・メインとなったしまなみ海道は、走行距離90km弱と短いが、獲得標高は思った以上に高い。100m未満だがアップダウンが繰り返しある。十分坂を堪能しました。 ・余裕をもった日程、ルートのプランだったこともあり、バッグが後輪に接触していた事件はあったものの、無事完走できた。ずっと晴れてほぼ無風という好天に恵まれ、瀬戸内の景色を楽しむツーリングができた。計画し、途中も随分と気を使ってくれた甥と弟に大感謝だ。 ・チェーンリング3枚、ブルホーンハンドルのクロスバイクで、登り坂は軽いギア、下り坂は安心のブレーキングで走れた。まあ、これ以上に楽な自転車は無いということだ。 ・今回はフロントバッグ無しで、ドイターのバックパックと、リクセンカウルのシートポストバッグ「コントアー・マグナム」を使った。バックパックは着替えなどを最小限にして入れ、さほど負担には感じなかった。肩や背中が痛くなることは特に無かった。シートポストパックは、小型の6リッターであり、輪行袋セット、パンク修理セット、予備食料、予備飲料など、小さいが重いものを入れた。後輪に底面が接触するトラブルがあったが、これはシートポスト締め具に問題があったせいだ。バッグの問題ではない。重心への影響や横風の影響も特になく、使いやすいバッグと思う。ただメインのバッグにする大きさではない。 ・また、小さいウェストバッグを腰につけ、財布、カメラを入れておくのに使った。便利ではあったが、ウェアの背中ポケットに入るならばそれがベターだろう。